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優秀な人材を逃がさない人物試験(1) 様々な評価バイアスと、その低減方策の模索
人材選抜を行う上で、最もよく用いられる選抜手法の一つが「面接試験(人物試験)」です。しかし、よく用いられる選抜手法であるにもかかわらず、人物試験は、面接官や評価者の主観による影響が大きいと言われています。
(効果的な人材選抜を行うために)面接官や評価者は、人物試験の様々なメリットとともにデメリットも理解した上で、「慎重さ」を常に持ちつつ行うことが必要になるのです。
では、どうしたら優秀な人材を逃がさない「人物試験」になるのかについて、6回に分けて、深掘りしていきたいと思います。(Mr.モグ)
人物試験の種類と特徴
人物試験は、受験者との直接対話により(筆記試験ではみることのできない)受験者本人の特性(性格的側面や行動様式など)を、受験者の表情、態度、話し方等を通じて、把握する選抜手法です。
一方で、人物試験は、試験官の主観的判断に依存する傾向が強く、その評価は、試験官の技術や経験等の評価能力(評価精度)の影響を強く受けるとも言われています。
なお、人物試験といっても様々な方法がありますが、大きく分けると「個別面接試験」「グループ面接試験」「討議型試験」「プレゼンテーション型試験」などがあります。(ここでは、代表的な「個別面接試験」を中心に説明していきます。)
人物試験のバイアスとは何か?
選抜の評価対象(受験者)が同一人物であれば、それに対する全ての試験官の評価結果も同じであることが理想的ですが、実際には(自然科学における「測定」のように常に同じ結果になるのではなく)個々の評価者(試験官)によって、その結果が異なることが指摘されています。
評価における「真の評価値」と「(人間によって測定された)評価値」との差については、ソーンダイク(Thorndike※)やキングスバリー(Kingsbury※)が評価における誤差(バイアス)の存在を指摘して以来、多くの研究が行われています。
※Thonedike,E.L., “A Constant Error in Psychological Ratings”, Journal of Applied Psychology, vol.4, 1920,pp.25-29.
※Kingsbury,F.A., “Analyzing Rating and Training Raters”, Journal of Personnel Research, vol.1, 1922,pp.377-389.
代表的な評価バイアス
特に人物試験における代表的なバイアスとしては、ハロー効果(halo effect)、寛大化傾向、中央化傾向、厳格化傾向、自己投影効果、論理誤差などがあります。これらのバイアスは、次の通りです。
ハロー効果:評価者が被評価者(受験者)の本来持っている多面的で異なる特徴を的確に捉えられずに、被評価者に対する「全般的に優れている」あるいは「劣っている」という印象により判断してしまうバイアスのこと。
例えば、ある特徴的な一面やその被評価者に対する全般的印象に引きずられ、その他の評価項目についても同一視してしまう現象。(例えば、英語が話せるとわかると、全般的な印象が良くなり優秀だと思い込んでしまうことなど。)
寛大化傾向:被評価者 (受験者)に対する評価を、実際よりも高く(甘く)評価してしまう傾向のこと。
厳格化傾向:寛大化傾向の逆で、評価を、実際よりも辛く(悪く)評価してしまう傾向のこと。
中央化傾向:厳しい優劣の判断を回避し、(当たり障りの少ない)中央値(例えば、5段階評価ならば中央の3段階)の評価にしてしまう傾向のこと。評価に自信がない場合などに生じやすいとされる。
自己投影効果: 評価者が、自分と同じような志向性、価値観を持っている被評価者 (受験者)に対しては評価が甘く寛大(あるいは辛く厳格)となり、逆に自分と異なる志向性、価値観を持っている被評価者 (受験者)には評価が辛く厳格(あるいは甘く寛大)となる評価バイアスのこと。
論理誤差: 本来、評価に影響すべきでない要素を評価項目に関係があると論理的に思い込み、評価に影響させてしまう評価バイアスのこと。(例えば、コンピューターや英語が得意な者は、全ての面で優秀であると評価してしまうことなど。)
このうち、ハロー効果はその評価バイアスが生じる原因を特定できず、その発生メカニズムが、他の評価バイアスに比べて、わかりにくくその防止が難しいとされています※。
なお、ハロー効果については、次回以降でさらに詳しく説明します。
※例えば、自己投影効果の生じる原因は、自らの志向性・価値観との相違であり、論理誤差の生じる原因は評価項目との(論理的な)関連性といったように原因が特定できるが、ハロー効果の場合は原因の特定ができない。
評価バイアスの低減のための方策は何か?
これらの評価バイアスを低減させ、より精度の高い人物試験を行うための方法としては、次のようなアプローチがあります。
評価尺度(評価方法)によるアプローチ
一つは、評価バイアスを低減させるための評価フォーマットや評価方法を用いるもので、評価尺度(評価方法)からのアプローチです。
具体的には、相対比較法(被評価者を直接比較して順序付けする評価方法)で、これは寛大化傾向、厳格化傾向の防止に役立つとされます。
ただし、この方法は全受験者を相対的に比較してランクづけるものであるため、比較的小さな集団内でしか利用できず、評価者の異なる集団間での比較は難しいという欠点があります。
この他にも、行動アンカー法(BARS法)(各評価項目の記述の曖昧さを改善し、各評価段階の具体的な行動を明らかにした評価方法)や、プロブスト法(各評価項目に能力や勤務態度などの長所や短所を表した短文を評語として列挙し、被評価者に該当する項目を選択する評価方法)があり、これらは、寛大化傾向、中央化傾向、厳格化傾向に加えハロー効果の評価バイアスの防止にも有効とされています。
しかし、両者とも、各評価項目の内容を明らかにする評語の選定に手間がかかり、想定した評語以外の評価ができないことなどの欠点が指摘されています。
統計分析によるアプローチ
次に、分散や相関といった統計的手法を用いて評価データを分析し、評価バイアスを把握する統計分析からのアプローチがあります。
これによれば、寛大化傾向、中央化傾向、厳格化傾向は、「平均」(寛大化傾向は大きい、中央化傾向は中位、厳格化傾向は小さい)と「分散」(いずれの場合も小さい)の2種類の指標によって、それらを特徴づけることができるとするものです(尾関・上原(※1)、尾関・山下・十河 (※2)等)。
特に、山下※(※3)は、評価者の評価傾向について、評価者の「甘さ・辛さ」と「評価のバラツキの大きさ」の2面から捉えたモデルを提示し、評価者の評価傾向を「甘さ・辛さ」と「評価のバラツキの大きさ」を示すパラメータによって定量的に示すことで、評価者が寛大化傾向、中央化傾向、厳格化傾向の影響を受けているか否かを捉えることを可能としました。
なお、その他の評価バイアスに対する統計的アプローチの先行研究として、相関、因子分析、主成分分析等の様々な統計手法を用いるものが提案されています。
※1 尾関守,上原豊:“評価の構造分析”,日本経営工学会春季大会予稿集, pp.43-44, 1981
※2 尾関守,山下洋史,十河哲也:“考課における評価誤差要因の分析研究”,日本経営工学会春季大会予稿集, pp.23-25, 1983
※3 山下洋史:人的資源管理の理論と実際,東京経済情報出版 (1996)
評価者間調整によるアプローチ
さらに、このような人物試験における評価のバイアスを減らす有力な方法としては、評価者どうしの調整を行うというアプローチです。これは、一人の受験者に対して複数の評価者が評価を行い、各受験者の評価を終えた段階で、評価者同士が話し合って調整した上で、最終評価を行うというものです。
具体的には、人物試験の試験官複数人(例えば3人)で、一人の受験者に対する人物試験を行い、(それぞれ試験官が独立して)評価を行った後、(面接が終わった段階で)3人の試験官がなぜそのように評価したかを話合い、最終的な評価を決めるというものです。
ある試験官が何らかのバイアスの影響を受けていたとしても、他の試験官の評価との比較や話合いの中で、「真の評価」に近づけることが可能となります。この方法は、時間と手間はかかりますが、一人一人の受験者の評価をしっかりと行う上では、効果的な方法といえるでしょう。
まとめ
このように、人物試験に隠れる評価バイアスには、様々なバイアスがあるのですが、これらの影響を最小限にするために、評価尺度からのアプローチ、統計分析からのアプローチ、評価者間による調整によるアプローチがあり、これらの対応策をとることで、(評価バイアスに左右されないで)受験者の「真の能力」を見極めることが可能になるのです。
次回は、人物試験や面接において、試験官に生じるバイアスの発生プロセスをさらに深堀していきたいと思います。
今回も最後まで、お読みいただきありがとうございます。(Mr.モグ)