面接試験で私がいつも考えること
面接官の「勘どころ」
一般的に、話す内容がわかりやすく、(だらだらと長く話すのではなく)ポイントを絞って簡潔に話し、身なりも清潔な印象を与える人は、採用されやすく、逆に、Yシャツが多少乱れていたり、話し方が上手でない人は、採用されにくい傾向にあります。
経験が浅い面接官は、無意識のうちに、受験者の服装などの外見や、話し方等の印象に左右され、合否を決める傾向が強いのですが、本来あるべき面接官は、外見や、先入観に惑わされることなく、その受験者の話す態度や、質問への受け答え等から、「普段の受験者がどんな人なのか」「本当はどんな人なのか」想像し、受験者の「真の姿」を見抜くことが必要になります。
面接官を長くやっていると、受験者の「真の姿」を見抜く「勘どころ」のようなものが形成されてきます。
この「勘どころ」を身につけるために必要なことは、受験者に向き合う一人の人間としての「真摯な態度」と「(面接)経験の蓄積」だと思います。
マニュアル化された受験者
受験者の中には「何としても合格したい(採用されたい)」として、「少しでも自分をよく見せたい」ために各種面接マニュアル本を読んだり、予備校などでいろいろ指導を受ける人も多くいます。
そのように一つの目標を達成するために、努力することは、とても大切なことです。
しかし、受験者の中には、本当の自分を偽って、マニュアル本に書かれた通りの(理想的な)受験者を演じる者もいます。
他社のベテラン人事担当者と話すと、
「最近マニュアル通りの回答が多く、特に欠点もないけど、是非採用したいとは思わない受験者が多いように感じる」
「非常に面接慣れしていて、何事も流れるような受け答えなのに、何か信用できないように思う受験者も結構いる」
「何を質問しても、こちらが知りたい素の自分を見せてくれない受験者が多いように感じる」
「何故か同じような模範解答が続くこともあり、あまりに同じ回答が続くので、こちらがちょっと驚くこともある」
といった意見がある一方で、
「多少荒削りな面はあっても、素内に自分を表現している方が好感が持てる」
「素直な学生らしさが感じられる方が、好印象を持たれることが多いと思う」
といった意見が聞かれます。
もちろん、マニュアルに沿った無難な受け答えが悪いと言うことではありません。質問に対して、その答えがすぐに出てこないよりも、(とりあえず)即座に答えた方が、一般的な印象は良くなると思います。
しかし、面接官は、受験者の受け答えが、その受験者の正直なものなのか、マニュアル化された表面的なものなのかを見極めることが必要になります。
「運」の影響
人材選抜や採用には「運」の影響は避けて通ることは出来ません。
たまたま面接官と受験者のウマが合ったケースや、あらかじめ予想していた質問がでたケースなど、面接評価は、「面接官との相性」や、そのときの「話題・質問内容」に左右される面も無いとはいえません。
(評定誤差を無くす方策については、「人物試験の種類と特徴」の部分で説明しています。)
さらに、採用確保人数の関係で、
「他社が採用してしまう前に、(自社の)採用人数をある程度確保したい」
「早い段階から面接に来る受験者の方が、我が社への志望度が高いかもしれない」
との観点から、面接時期の早い段階の受験者については、比較的甘く評価して、採用枠の多くを埋めてしまい、(採用枠が少なくなった時期から)少し遅れて来た受験者に対しては基準がやや厳しくなる一方で、採用予定としていた受験者が、他社に逃げてしまったときに、たまたま採用面接に来た受験者は(通常なら採用しないかもしれないが)採用人数の確保の必要性から採用することもあるとの話も聞きます※。
※小山治「なぜ新規大卒者の採用基準は見えにくくなるのか」、年報社会学論集 2008(21), 143-154, 2008
本来あるべき面接官としては、(評価バイアスや評価誤差を完全に無くすことは難しいと分かったうえで)少しでもこれらの「評価バイアス」や「運」による影響を最小限にして、「本来採用されるべき人物を見逃さないように」「本来採用されるべきでない人物を採用しないように」、常に意識して面接に臨まなければならないのです。
ワンランク上の面接官であり続けるために
人を選抜するというのは、非常に難しいことです。
面接官は限られた時間のなかで、また限られた質疑応答の中で、受験者の可能性を見いだし、組織とのマッチング度の判断や、受験者の合否を決めなくてはなりません。
実際、多くの受験者を面接していると、私たちの組織には(たまたま)合っていないけれど、他の組織なら、より活躍できる可能性がある人や、(受験者自身は)とても優秀だけれど、私たちの組織や仕事には合っていない人、むしろ、違う組織に採用された方が、(受験者のために)良いと思われる場合など、いろいろあります。
なかなか採用されない受験者に対して、「かわいそうだから、採用しよう」とか、採用枠を埋める必要性から「まあ、採用してみようかな」と合格させても、結局、組織や仕事に馴染めずに辞めてしまうことになれば、元も子もありません。
それこそ、最初の採用面接の時点で、「不採用」にした方が、組織側、受験者側の両者にとって望ましいのです。
人の成長や変化は分からないものです。自分自身の将来がどうなるかさえ、よく分からないなかで、他人の人物評価をするのは、たまたま、私たちが面接官という立場にあるからに過ぎません。
だからこそ、面接官は、常に「良い人材を間違って落とすことのないように」、そして「採用すべきでない人材を間違って採用することのないように」真剣に臨まなければならないのです。
そのため、私は、面接官として受験者に向き合うときは、いつも「自分が試されている(試験されている)」ような気になるのです。
今回も、最後までお読みいただきありがとうございました。
引き続き、多くの試験担当者や面接官に役立つ情報を提供し、側面から応援していきたいと考えています。(Mr.モグ)