人材選抜における合格者決定方法(理論編)
今回は、いくつかの選抜試験を行った後に、「最終的にどのように合格者を決めたらいいのか?」ということについて、理論的な枠組みを説明していくことにします。(Mr.モグ)
選抜試験を行った後には、最終合格者を決定しなければなりません。複数の試験を用いた方が、受験者の持っている多様な能力をそれぞれ把握できると考えられ好ましいのですが、それらをどのように使って合格者を決定するのかについて説明します。
例えば、二つの試験を行った場合については、通常それらの試験の合計点で合否の判断を行います。その際に考えられる方法としては、大きく次の四つの方法があります。
総合得点方式
一つは、「総合得点方式」です。
これは、単純に二つの試験の合計点の高い者から順に合格とする方式です。
わかりやすいように試験Aと試験Bの両方を受験した受験者の合格決定方法を図を用いて説明します。
前回で説明したように、異なる試験の点数の取扱いとしては、それらの試験の難易度等による違いを回避するため標準得点化をします(これによって、両方の試験は同じように取り扱うことが可能になります。)
図の場合は、縦軸が試験A、横軸が試験Bの標準得点を示しており、その分布が楕円形で示されています。両者の試験のウエイトを同じとすると、「総合得点方式」の場合、斜め45度の直線で合否が分かれることになり、この線よりも右上側の者のみ合格することになります。
多くの受験者から、少数の合格者を選ぶ場合には、(図の)P1で合否が分かれ、合格者をより多く選び出す場合には、P2で合否を分けることになります。
さらに、選抜試験として、試験Aによりウエイトをかけたい場合や、その逆に試験Bによりウエイトをかけたい場合もあります。(具体的には、試験Bはこれから組織に入った時に、より重要な知識や能力を検証するに適した試験なので、その得点を2倍にするケースなど)そのような場合は、この合否ラインの傾きが変化します。
例えば、試験Bのウエイトを上げる場合は、図ではP4に合否ラインは変化して、試験Bの高得点者がより合格しやすくなります。逆に、試験Aのウエイトを上げる場合には、P3に合格ラインは変化します。
ただし、いくら試験Bのウエイトを重視したいからといって、P4の合否ラインを、より強く傾け過ぎると、(最終的には図のP4の合否ラインが、横軸(試験Bの得点)に対して垂直になるなど)試験Aの効果が少なくなり、試験Aを課した意味がなくなってしまうので、各試験のウエイトを決める際には、両者のバランスを総合的に判断する必要があります。
なお、この場合、各試験の合計点で合否が決まるので、例えば両者の合計点が80点以上が合格なら、一方が80点で他方が0点でも合格することになります。その場合、当初は二つの試験で受験者の能力を判断しようとしていたにもかかわらず、一方の試験がよく出来たために合格してしまう者が出てきます。
(すなわち、一方の能力が非常に高いため、他方の能力が欠けていても合格してしまう可能性があるのです。)
特殊能力優遇方式
二つめは、「特殊能力優遇方式」 です。
これは、ある試験の得点が(非常に高く)一定以上であるならば、他の科目の点数が低くても合格させるというものです。
これもわかりやすいように図を用いて説明すると、試験Aと試験Bがあり、それぞれの試験で「特定の高い点数」以上を取った者は(他の科目の点数が悪くても)合格しても良いとするもので、例えば、試験Aで80点以上をとった者は、他の試験Bの点数が悪くても合格させるというものです。
図にあるように試験AではAy以上の点数をとった者、試験BではBx以上の点数をとった者が(他の試験ができなくても)合格するので、先の「総合得点方式」なら不合格となる者も、一方の試験で高い点数さえとれば合格できることになるのです。
このケースの場合、一方の試験の点数が非常に高い点数であるならば、他方の試験の結果が悪くても合格することになるので、まさに特殊能力優遇ではありますが、能力のバランスに欠ける面は否めません。通常「特定の高い点数」は、かなり高めに設定されるので、(合否ラインがP2のときは)試験AがAy点以上の者(①+②+③)と、試験BがBx点以上の者(③+④+⑤)、それに合否ラインP2以上の⑥を含めた者(①+②+③+④+⑤+⑥)が合格となります。
逆に、図にあるように試験A、試験B共に、そこそこ点数はとれたにもかかわらず、各試験の合格点に達していない者は不合格となります。
すなわち、「総合得点方式」では不合格となった①、⑤が合格することがわかります。(「総合得点方式」では、②+③+④+⑥が合格、「特殊能力優遇方式」では、①+②+③+④+⑤+⑥が合格になりますが、合格人数は同じなので、合否ラインP2は「特殊能力優遇方式」の方が右にシフトすることになります。)
合格最低ライン決定方式
三つめは、「合格最低ライン決定方式」です。
これは、各試験科目に合格最低基準を設定して、それ以上の者から、(総合得点方式のように)合格者を得点順に上から合格させるというものです。合格最低ラインは、組織に入ったときに、最低この程度の知識や能力が必要というレベルに設定することになります。
この「合格最低ライン決定方式」を取り入れると「総合得点方式」との違いは、次の図のようになります。
上の図は得点順に(合格ラインP2以上で)合格させても、その一番低い点数の者が、各試験の合格最低ライン(Ay,Bx)以上であるため、「総合得点方式」と変わらないのですが、下の図のように、合格ラインがP5のようになると、(各試験の合格最低ラインがAy,Bxであるため)不合格になる者(図の「不合」部分)が出てきます。
実際の合否判断においては、合格者数を確保する必要があるので、その不合格の人数分だけ合格ラインをP6に平行移動(左シフト)させて、合格者を決定することになるのです。
(図では網掛け部分の人数が「不合」部分の人数と等しくなるようにP6の合否ラインをシフトさせて必要な合格者の人数を確保するのです)
リセット方式
最後は、「リセット方式」です。
通常、第1次試験と第2次試験の結果を用いた合格者の決定方法は、先に説明したように両試験の合計得点で判断する「総合得点方式」をとることが多いのですが、最終合格者を決定するに当たって、(第1次試験の結果を用いず)第2次試験の結果のみで決定するものです。
この方式だと第1次試験の成績順位がリセットされるので、第2次試験の得点のみで逆転が可能になります。
これも図で説明すると、第1次試験の合格者(図の場合第1次試験x点以上の者)のみを対象に第2次試験が行われ、第2次試験の結果のみで合格者が決まることになります。
そのため、合格ラインは第2次試験の得点(Y軸)に平行な直線となり、上から合格者が決まることになるのです。
図の場合、同じ合格ラインなら、第1次試験でギリギリ合格したx点の者も(1次試験が)合格するので、いわば(2次試験の結果次第で)挽回が可能になる訳です。
この方式は、結局、第2次試験で合格が決まることになるので、いわば第1次試験は第2次試験のための足切りに利用することになり、第2次試験の試験の精度が高いものでないと、結果として(第2次試験の結果だけで合否を決めてしまうことになるので)、選抜の荒い試験になってしまう恐れがあります。
一方で、例えば第2次試験は面接で、第1次試験は知識系の問題から構成した選抜試験の場合なら、第1次試験で一定レベル以上の知識を持った者なら、あとは第2次試験で(例えば人物面接で)決定するということが可能になるのです。
まとめ
このように、単純に最終合格者を決めるといっても、いろいろな方法があるのです。それぞれの方法は、良い面もあれば、悪い面もあります。
「総合的に(万遍なく)能力の高い人物を採用したいのか」「(総合的というよりも)ある特殊な能力が高い人物を採用したいのか」など、選抜する人材像によって、合格決定方法が異なります。
選抜試験を行う者は、これらの合格決定方法の利点や欠点を踏まえた上で、その選抜にとって一番良い方法を検討する必要があるのです。
今回も最後まで、読んでいただき、ありがとうございました。(Mr.モグ)