選択式試験での「出題ミス」に対する対応の検討
各種資格試験、採用試験、入学試験などで、ときどき「出題ミス」が起きることがあります。ミスに気づいたときには、既に試験は終わっているので、出題ミスへの対応は、一般的には、次のようになることが多いのです。
1 その問題は全員正答として総合点を算出する(全員正答)
2 その問題は問題削除として総合点を算出する(問題削除)
実際には、どのような対応が望ましいのでしょうか?
出題ミスの程度による分類
まずは、ミスの程度について検討します。
1 ミスの程度が大きく通常、回答不能なケース
2 ミスの程度が小さく通常、ある程度回答可能なケース
の2つが考えられます。
このうち、「1 ミスの程度が大きく通常、回答不能なケース」は、(例えば、問題の設定条件が定まらず)回答不能なので、「全員正答」や「問題削除」は適切ということになります。
ただ、受験者の心理面からは、「問題削除」よりも「全員正答」の方が受け入れやすいと思われます。
なお、総合点に占める個々の受験者の得点順位という観点からは「全員正答」「問題削除」の両者とも同じ効果を示すことになります。
(そのため、合否に影響はないことになります。)
問題は、「2 ミスの程度が小さく通常、ある程度回答可能なケース」のようにある程度回答可能なケースの取り扱いです。
このうち、ミスの程度が極めて小さく、受験者の回答を分析した結果、今回の出題ミスの影響が無いと判断できる場合は、(出題ミスはあったとしても)「全員正答」や「問題削除」をする必要は無いと思われます。
(例えば、次のようなケースが考えられます。
全部で20問で100点満点のテストで、次の1問が出題ミスとなったケース(1問5点)
問題 明治から大正にかけての作家で、「羅生門」「蜘蛛の糸」「蜜柑」などの作品を書いたことで知られる我が国の作家として最も妥当なものはどれか。
1夏目漱石 2芥川竜之介 3松尾芭蕉 4村上春樹 5永井荷風
正答は「2」としていたが、試験終了後、「芥川龍之介」が正しく、「竜之介」はミスであることに気づいた場合です。
この場合、出題者の出題意図としては、
・問題文の「明治から大正にかけての作家」ということから、選択肢は1(夏目漱石)と2(芥川龍之介)に絞られる。
(3(松尾芭蕉)5(永井荷風)は江戸時代の作家であり、4(村上春樹)は現代の作家と分類できる)
・さらに、問題文に書かれている作品「羅生門」「蜘蛛の糸」「蜜柑」から、選択肢は1(夏目漱石)ではないとわかり、2(芥川龍之介)に正答が絞られる。
と考えたとします。
さらに、受験者の回答を分析したところ※、
1夏目漱石 を選んだものは全体の20%(20人)
2芥川竜之介 を選んだものは全体の45%(45人)
3松尾芭蕉 を選んだものは全体の15%(15人)
4村上春樹 を選んだものは全体の10%(10人)
5永井荷風 を選んだものは全体の10%(10人)
であり、マークをしていない受験者(無答)(0人)であったとしましょう。
※ここでは、わかりやすいように全受験者100人と仮定して回答を分析しています。
この場合、本来は「芥川龍之介」が答えと分かっていたにもかかわらず、「竜之介」となっていたから、「2」を選ばなかった受験者がいたか。ということが、重要になりますが、幸いに無答とした者がいなかったので、受験者は、1~5のどれかの作家が正答として選択したことが分かります。
このような場合は、敢えて「全員正答」や「問題削除」にする必要は無いと考えられます。
むしろ、「全員正答」や「問題削除」の取り扱いをすると以下のようなことが生じてしまうのです。
仮に「全員正答」とした場合
① 「2」を選んだ受験者(全体の45%)は、この問題を間違った他の受験者(65%=100ー45)の点数が上がるので、相対的な総合点が低くなり、順位は下がることになります。
② 「2以外」を選んだ受験者(全体の65%=100ー45)は、この問題が正答と扱われるので5点加点されることになります。(いわば得することになります)
仮に「問題削除」とした場合
① 「2」を選んだ受験者(全体の45%)は、この問題が削除されるので、2を選んで獲得した5点が無くなることになります。(いわば95点満点(=100点ー5点)に対する得点になるため、受験者全体に占める相対的な総合点は低下することになります)
② 「2以外」を選んだ受験者(全体の65%=100ー45)は、この問題が削除されるので、間違ったことがノーカウントになります。(いわば95点満点に対する得点は、「2」が出来なかったことがノーカウントになるため、受験者全体に占める相対的な総合点は上昇することになります)
そのため、結果的には「全員正答」「問題削除」の場合、この問題「2」を回答できた受験者には、不利になり、逆に間違った(「2以外」を選んだ)受験者は有利になることが分かります。
出題ミスがあったら、「全員正答」や「問題削除」とすることが、単純に、公平とは言えないのです。
なお、この場合、
「全員正答」は全員に5点を加点する方法であり、「問題削除」は全員に5点を減点する方法ですので、受験者全体に与える総合点の順位の変化はありません。すなわち、両方の方法は、いずれも効果は同じと言うことです。
ただ、受験者側の視点から考えると、(両者は同じ効果を与えるものであるとしても)「全員正答」は加点となるので、「問題削除」よりも心理的に受け入れやすいと考えられます。
さらに、「2 ミスの程度が小さく通常、ある程度回答可能なケース」のうち、出題ミスの問題の難易度の違いによって、以下のように受験者の受ける影響が異なります。
①ミスをした問題の正答率が高いケース(例えば正答率95%の問題)
②ミスをした問題の正答率が低いケース(例えば正答率20%の問題)
①ミスをした問題の正答率が高いケース(例えば正答率95%の問題)のケース
①のケースは、ほとんどの受験者が正答した問題(簡単な問題)なので、受験者が全員が100人と仮定すれば、
「全員正答」にすると、この問題を間違えた((もしかしたら成績の低い※))5人(5%)のみが、加点効果を受けることになります。
※多くの受験者(95%)が正答できたにもかかわらず正答できなかった受験者5人であるため、「もしかしたら成績の低い」と表現しています。
逆に、
「問題削除」にすると、実態上この問題を正答できた95人(95%)が減点効果を受けることになります。
(両者の方法共に、結果としては、この問題を間違えた受験者5人(5%)には相対的に有利に働き、この問題を解答出来た受験者95人(95%)には相対的に不利に働くことになります。)
②ミスをした問題の正答率が低いケース(例えば正答率20%の問題)のケース
他方、②のケースは、ほとんどの受験者が正答できなかった問題(難しい問題)なので、受験者が全員で100人と仮定すれば、
「全員正答」にすると、この問題を間違えた80人(80%)が加点効果を受けることになります。
逆に、
「問題削除」にすると、この問題を正答できた(もしかしたら少数の優秀な)20人(20%)が減点効果を受けることになります。
※多くの受験者(80%)が正答できなかったにもかかわらず正答でき受験者20人(20%)であるため、「もしかしたら少数の優秀な」と表現しています。
(両者の方法共に、結果としては、この問題を間違えた受験者80人(80%)には相対的に有利に働き、この問題を解答出来た受験者20人(20%)には相対的に不利に働くことになります。)
このように、出題ミスに対する対応としては、一般的に「全員正答」や「問題削除」があり、一般的には、両者は受験者全員に対して、「一律に加点」もしくは「一律に減点」となるので、「公平」であるかのように見えるのですが、よりミクロに考えると、「1 ミスの程度が大きく通常、回答不能なケース」は別として、「2 ミスの程度が小さく通常、ある程度回答可能なケース」の時には、その問題を解答出来た人にとっては、相対的に不利に、問題を解答出来なかった人には相対的に有利に働くことになるのです。
そのため、言わずもがなではありますが、ワンランク上の人材選抜を目指す私たちは、出題ミスを極力避けるようにすることが望まれるのです。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回から、出題ミスを無くすための方策について考えていきたいと思います。 (Mr.モグ)