心理テストの種類と特徴(その2)
これから数回に分けて、心理テストの代表的なものを取りあげ、その特徴や検査結果の解釈の仕方等について説明していきます。
今回は「質問紙法」の代表的な心理テストである谷田部ギルフォード性格検査法(YG性格検査)とミネソタ多面的人格目録(MMPI)を取りあげます。(Mr.モグ)
谷田部ギルフォード性格検査法(YG性格検査)とは
谷田部ギルフォード性格検査法(YG性格検査)は、Guilford,J.P(ギルフォード)とMartin,H.Gが作成した性格検査を、矢田部達郎(元京都大学教授)、辻岡美延(関西大学名誉教授)、園原太郎(京都大学名誉教授)らが日本人向けの性格検査として構成し、妥当化、実用化を図り完成させたもので、質問紙法によるパーソナリティ検査の一つです。
谷田部ギルフォード性格検査法の特徴
矢田部ギルフォート性格検査法の特徴は次のとおりです。
1. 12尺度※から構成され、1尺度10問あり、全体で120項目の質問になっています。
2. 各質問(例えば、「人の世話が好きである」「すぐ涙ぐむ」など)に対して、「はい」、「いいえ」、「どちらでもない」の当てはまる回答欄に「〇」「△」をマークします。
3. 検査者が質問を一定間隔で読み上げ、そのペースに合わせて被検者が回答するという「強制速度法」※で行われます。
4. 30~40分程度で実施でき、採点が容易であることから、教育や臨床・産業領域などでも多く用いられています。
※12尺度は次のようなものになります。
D尺度(抑うつ性)、C尺度(回帰的傾向)、I尺度(劣等感)、
N尺度(神経質)、 O尺度(客観性)、 Co尺度(協調性)、
Ag尺度(攻撃性)、G尺度(一般的活動性)、R尺度(呑気さ)、
T尺度(思考的外向)、A尺度(支配性)、S尺度(社会的外向)
※強制速度法は、検査者が質問を読み上げて回答させるため、被験者が自分で質問を読んで回答するよりも、強制的に回答させることになり、被験者の性格をより正確に引き出せるとされています。
谷田部ギルフォード性格検査法の結果の解釈
120項目の質問は集計時に性格傾向別に分類され、その点数を「YG性格検査プロフィール」に転記することによって、次のような6因子に分類され、被験者の各因子の強弱を分析することができます。
6因子とその構成尺度1. 情緒不安定性因子:D(抑うつ)、C(回帰性傾向)、I(劣等感)、N(神経質)の4尺度から構成
2. 社会不適応性因子:O(客観性)、Co(協調性)、Ag(攻撃性)の3尺度から構成
3. 活動性因子:Ag(攻撃性)、G(一般活動性)の2尺度から構成
4. 衝動性因子:G(一般活動性)、R(のんきさ)の2尺度から構成
5. 内省性因子:R(のんきさ)、T(思考的内向/外向)の2尺度から構成
6. 主導性因子:A(支配性)、S(社会的内向/外向)の2尺度から構成
さらに、これらの結果から、次の五つの型に分類できるとされています。
A型:平均型(Average type)全体的に平均的なタイプ。最も多いタイプで、社会や環境に適応しやすいとされています。
B型:不安定積極型(Black list type)情緒面が不安定ですが、性格は活動的で外交的なタイプ。積極的で、行動力に優れているが、情緒面で不安定になることがあるとされています。
C型:安定消極型(Calm type)あまり積極的ではないですが、情緒が安定していて穏やかなタイプ。持続性や安定性がありますが、内気であまり自分の意見を言わないとされています。
D型:安定積極型(Director type)情緒が安定していてかつ、積極的なタイプ。社会適応能力が高く、活動的で対人関係も良好であるとされています。
E型:不安定消極型(Eccentric type)情緒が不安定でかつ、内向的なタイプ。自分の世界観を強く持ち、個性的で、芸術家などに向いているとされています。
ミネソタ多面的人格目録(MMPI)とは
ミネソタ多面的人格目録(MMPI)は、ミネソタ大学のHathaway,S.R (ハサウェイ)と McKinley,J.C(マッキンリー)によって1930年代後半から開発され、1943年に最初の手引き書が刊行されて以来、今日に至るまで各分野で利用されている質問紙法によるパーソナリティ検査の一つです。
ミネソタ多面的人格目録(MMPI)の特徴
ミネソタ多面的人格目録(MMPI)の特徴は次のとおりです。
1. 550の質問項目から構成されており、妥当性尺度が設けられているのが特徴で、自己評価(被験者の回答)が信頼できるかどうか検討した上で、臨床尺度の心気症、抑うつ性、ヒステリー、精神衰弱など(10尺度)のプロフィールから人格の特徴を解釈することができます。
2. 各質問(例えば、「これといった痛みはない」「興奮して胸が一杯になることがよくある」など)に対して、「そう」・「ちがう」・「どちらでもない」の当てはまるものを選択するが、極力、「どちらでもない」は避け、10個未満とするように教示されます。
3. 形式にはカード式(一枚のカードに一つの質問があり、550枚のカードから、被験者が自分に当てはまるものと、当てはまらないものを分類していく方式)と、冊子式(質問の最後に回答欄が設けられているタイプと、回答用紙が別に用意されているタイプ)があります。結果は各尺度ごとに採点され、偏差値によって算出されます。
4. 40~60分程度で実施でき、採点が容易であることから、教育や臨床・産業領域などでも多く用いられています。
ミネソタ多面的人格目録(MMPI)の結果の解釈
臨床上の経験に基づき作成され、患者群と健常者群に有意な差が見られる550の質問項目から構成されており、回答結果は、被験者の受験態度を示す四つの「妥当性尺度」と精神病理を検査する10の「臨床尺度」により解釈できるようになっています。
【妥当性尺度】
?尺度(疑問尺度):妥当性の疑わしさの尺度。「どちらともいえない:?」が30個以上は検査の妥当性が疑わしいとされています。
L尺度(虚構尺度):虚構(Lie)かどうかの尺度。高得点は、自分を好ましく見せようとする傾向を示唆するとされています。
F尺度(頻度尺度):出現率(Frequency)が10%以下と低い回答の有無を調べる尺度。でたらめに答えたり、質問文書が理解できない、自分の悩みを大げさに訴えようとするとこの得点が高くなるとされています。(青年期で高い傾向があるとされています)
K尺度(修正尺度):検査への警戒や自己の防衛を示す尺度。この得点が高い者は、検査への警戒や自己防衛の態度が強いとされています。(回答の歪曲の修正するための点数として用いられます)。
【臨床尺度】
臨床尺度は、精神医学的な患者群と健常者群の分類に基づいて作成されたもので、尺度得点間の相互関係からパーソナリティーを把握できるようになっていますが、各尺度の解釈内容は次のようになっています。
第1尺度:(心気症尺度Hs) 高得点をとる者は、健康への懸念が高く、身体不調の訴えることで、他人を操作しようとする傾向を示す。
第2尺度:(抑うつ尺度D) 高得点をとる者は、抑うつ的であることを示し、低得点をとる者は、積極性のある社交的を示す。
第3尺度:(ヒステリー尺度Hy) 高得点をとる者は、自己中心的傾向や、未熟でヒステリー的性格を示す。
第4尺度:(精神病質的偏奇尺度Pd) 高得点をとる者は、反社会的または非社会的な形の反抗や敵意を示し、利己的な傾向が強いことを示し、低得点をとる者は受動的・同調的な傾向を示す。
第5尺度:(男子性・女子性尺度Mf) 紋切り型の性役割を取り入れている程度を示す。
[男性] 高得点をとる者は、女性的なものを取り入れる傾向や、受動的で主張性に乏しい傾向を示す。低得点をとる者は、男らしさに疑問を抱くがゆえに「男らしい男」にこだわる傾向を示す。
[女性] 高得点をとる者は、自己主張的で、女性らしさにとらわれない傾向を示す。低得点をとる者は、女性らしさにこだわり、それを誇張する傾向を示す。
第6尺度:(パラノイア尺度Pa) 高得点をとる者は、猜疑傾向や妄想傾向を示す。低得点をとる者は、適応的、または対人的な過敏さを示す。
第7尺度:(精神衰弱尺度Pt) 高得点をとる者は、緊張感や不安、優柔不断、不安障害の傾向を示す。
第8尺度:(統合失調症尺度Sc) 高得点をとる者は、奇妙で風変わり(エキセントリック)な傾向や疎外感を示す。低得点をとる者は、現実的傾向を示す。
第9尺度:(軽躁病尺度Ma) 高得点をとる者は、衝動的で落ち着きがなく情緒不安定な傾向を示す。低得点をとる者は、逆に低い活動性を示す。
第0尺度:(社会的内向性尺度Si) 高得点をとる者は、内向的で対人関係不安定や引きこもりの傾向を示す。低得点をとる者は、社交的傾向を示す。
なお、MMPIは、性別役割観として「第5尺度:(男子性・女子性尺度Mf)」が評価対象になっているため、実際の選別に用いる際には、近年の人権や性別の役割に関する意識の変化を考慮した上で慎重に利用する必要があります。
※アメリカでは、性的指向や宗教的信条などの質問を含んだ心理テストを採用試験でもちいることは雇用差別とされ、2005年には連邦裁判所でMMPIを人事選考で用いるのは不適切との判決が出ています。
次回は、「投影法」による心理テストの代表とも言われるロールシャッハテストと文章完成テスト(SCT)を取りあげて説明して行きたいと思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございます。(Mr.モグ)