TOUMEI ①
起きて適当な服に着替えたら、
昨夜作っておいた紅茶を冷蔵庫から取り出し
タンブラーに注ぎ込む。
それだけを手に家を出る。
まだ午前6時前の外は、4月だというのに肌寒い。
いつもすれ違う白い軽トラックを横目に
朝露で濡れる草道をしばし登ると、
そこに海が見渡せる小さな公園がある。
少し息が切れた体を
小さなベンチに座らせて、持ってきた紅茶を流し込んだ。
「…はぁ。」
自然とため息が漏れてしまう。
都内での生活に疲れ、仕事ばかりで婚期も逃し、
気付けば三十路。
人生やり直そうと、
この海の近い田舎街まで越してきたのが
つい1ヶ月前の話しだ。
そして、こうして朝を迎えることが
ここに来てからの日課となっていた。
ベンチから立ち上がり
落下防止の柵の前まで行くと、
直に海からの風を感じられる。
人々はまだ活動しておらず、
辺りはしんと静まり返っていて、
遠くから聞こえる波の音と
植物の呼吸が聞こえてきてしまいそうな程
透き通った空気だけが私を包んでくれる。
「…透明な時間。」
私はこの透明な時間に会うためにここへ来る。
何の色も持たない、誰にも汚されることのない
この時間が私のゆういつの癒しだから。