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文豪じゃないけど愛したい宿『箱根本箱』
9連休を手に入れた。
入社1年目、初めての長期休暇。
土日でもついSlack見ちゃうのに、9日も休めるの?
困惑はあったものの、とにかく連休を迎えるまで、
巻き巻きで仕事を進めて無事に9連休を迎え入れた。
さて何をしよう。
と考え始めて、すぐにふつふつと沸いてくる欲望。
本に浸かりたい。
会社に入って、昔から好きだった本との付き合い方が変わってきていた。
少し収入が増えて、買う本の量は増加している。
ただ、読む体力がガクッと落ちた。
かたわらにはいつもスマホ。
15分読んだらLINEを返して、何気なくInstagramを開いて、3スクロールしてアプリを閉じる。
本を読み終わったら、ネット上の書評やレビューを見て感想を深めた気分。
なんだか最近、噛み締めてないなあ。
読後の言葉にならない感情を、逃がしているような気がしていた。
「読書 宿 温泉」で検索。
いくつかヒットした中でも、
格別に目を引いたのが『箱根本箱』だった。
サイトのトップページで飛び込んでくる、
天井まである本棚。
これはもう、本好きの夢だ。
歴史ある強羅温泉ということで泉質もお墨付き。
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正直、「1泊2食付き 36,000円」を
タップするのに3日悩んだ。
2年くらい買う踏ん切りがついていない財布と
同じ額が、一晩。
決め手は最近抱えていたモヤモヤだった。
好きな読書を楽しみきれていない自分にとって、
本に頭まで浸かれる環境と時間は、
いま私が本当に欲しいものだった。
9連休の4日目。
午前中に家で少しだけ仕事を片付けて出発。
ロマンスカーの車窓がだんだん緑に
染まっていくのを横目に、ずっと積読していた
「竜馬がゆく」の4巻を読み進める。
最寄り駅の中強羅駅から徒歩5分。
入口の大きな扉が開いて飛び込んできたロビーは、
スマホで見たそれよりもはるかに美しく、
思わずため息が漏れた。
箱根の山を借景として中央は明るく、
両脇の本棚はほの暗くあやしい。
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客室は、ひとりでは持て余すほどのゆったりさ。
窓が大きいっていいなあ。
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この宿では、客室の露天風呂と大浴場と、
温泉が2種類楽しめる。
何がいいって、大浴場が空いている。
貸切の大浴場は、贅の限りを尽くした気分。
夜は箱根の野菜やお肉を使ったコースをいただく。
せっかくなので追加でペアリングワインも。
(7,200円)
滋味あふれる料理に、目を見開いて静かに閉じて。
「陶然」という使ったこともない言葉が浮かぶ。
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それからは貪るように本を読んだ。
運営が、前々から通っている
六本木の本屋「文喫」を手がける
YOURS BOOK STOREということもあり、
選書もど真ん中。
加えて普段あまり手に取ることのなかった
ジャンルの本、それから名作と呼ばれる本の数々。
ついつい深夜まで本棚を物色して、
色々なブースで読み耽った。
箱根本箱は読書スペースが豊かに点在しており、
これも絶妙に読書好きのツボを突いてくるのだ。
廊下のつきあたりにある小部屋。
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本棚の中に隠れたロフト。
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どこもかしこも穴ぐらのようで潜りたくなる。
小さい頃、ソファと壁の間に挟まって本を読むのが好きだった。
ベッドで毛布にくるまってマンガを読むのが好きだった。
その頃の甘くてあたたかい記憶を、
もう一度香り立たせるような。
そんなあざとい可愛らしさすら感じられ、
いちいち胸がときめいた。
もっと本を読みたくて読みたくて。
眠ってしまうのがもったいないと感じたのは
いつぶりだっただろう。
帰りのケーブルカーに乗りながら考えた。
宿泊前日に意を決して払った36,000円の一日は、
36,000円なんてものではなかった。
誰かがつけた価格は、
自分にとっての価値と同じではないこと。
当たり前かもしれないけれど、初めて気がついた。
本が好きでミーハーで、
人の意見に流されがちな私だけれど、
自分が何を好きで、どうすればご機嫌に
過ごせるのかをわかっているのは私だけだ。
つい忘れてしまうけど、本に囲まれて思い出した。
たくさん読まなきゃ!
と夜更かししちゃう今回もよかったけれど、
次は2泊以上してゆっくり過ごしたいなあ。
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