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最強寒波。

今週末の冷え込みは、田舎者の私ですら身に染みる。毎年のように温暖化だとか言うけれど、一度は必ず寒波がやってきて、大雪を降らせたり、行き交う人たちのほっぺたをちくちくさせたり、びっくりするようなイタズラを仕掛けては、あっという間に何もなかったみたいに去っていく。そんな寒い日に、京都では女の子たちが駅伝大会を繰り広げているらしい。雪で真っ白になったテレビの画面を眺めて、ふと自分が中学生だった頃を思い出した。

テニス部に所属していた私は、陸上の季節になると毎回選手として招集されて部活の前後に30分間走とかインターバル走とか鬼のような練習をこなしていた。このところ、何故かどんくさく見られがちな私だが、実はなかなかいけてる奴だったのだ。

とある駅伝大会の当日、私は3区の待機所で母と一緒にタスキが来るのを待っていた。「来た!3番。」とチームメイトの姿を確認して、私はタスキを受け取ると母の「頑張りや!」の声援を背にして、だっと走り出した。…と思ったのだが、ふと横を見ると何故か母までも同時に走り出している。いやいや意味がわからない。駅伝には並走禁止のルール。慌てて「ちょっと!やめてよ!」と怒鳴ると「だって~向こうに車停めてるんやも~ん!」と母は走りながら弁解してくる。いや、止まりなさい。歩きなさい。なんなんだこの人は。自分も昔は選手だったのよ、とアピールするかのようにどこまでもついてくる…。いけない、こんなアホな母親のせいで注意でもされたらかなわん。序盤から私はデッドヒートでぶっとばす。「頑張って~ぇ」と遠くなっていく母の声を振り払い、がむしゃらに私は敵を追いかけた。私が受け取ったタスキは3番目。どうにか1位になって渡したい。1人目の姿を見つけて、私はさらにスピードをあげた。しかし相手も必死だ、簡単には抜かさせてはくれない。出たり下がったり、こちょこちょとした小競り合いが続く。もう!こんなことしてる場合じゃない。目指すべき敵はまだ先にいるのよ。さらなる力を振り絞って、私はスピードを上げる。ぐいぐい、ぐいぐいと見えない敵に引っ張られるようにして、絡まりそうになる足で自分の身体を支えながら。冷たい空気が私の両腕を縛ってくる。こんなに追いかけても、どこまで行っても追いつかない圧倒的な1位との差に、私は気が遠くなりながら走り続けた。結局、1位の姿を見ることなく次のチームメイトが待つゴールにたどり着く。

落ち込んで競技場へ戻ったのだけど、顧問の先生がなぜか大喜びで私の肩を叩いてくる。どうも私とテンションが明らかに違う。だけど結果を知らされて納得。なんと驚異的なタイムで区間新記録を叩きだしているではないか。しかもどうやら私は1位でゴールを通過していたらしい。それに気づかず私は見えぬ敵と闘っていた。母親の天然な行動と私のドジな勘違いが、私史に残る偉大なる功績を生みだしたのだった。小さな中学校の小さな快挙は全校生徒の前で称えられ、チームの代表として表彰されてもてはやされた。だけどこの間抜けな事実は、今でも先生やチームメイトには言えずにいる。

なんでもずっと中途半端でやってきた私は時々、寒波みたいに不思議な瞬発力を発揮する。本当はもっとここにいてくれよ!なんて思うけど、いつも寒くても困るしな。ああ、これだから拭えないんだ私の小物感…。と、なんとなくこれまでの半生を振り返りつつ、足を真っ赤にして走る女の子を横目に一番日当たりの良い場所にこたつを置いて丸くなる姿は、まさに小物な私を象徴していた。

2017年01月15日

「サウダーヂな夜」という変わったカフェバーで創刊された「週刊私自身」がいつの間にか私の代名詞。岡山でひっそりといつも自分のことばかり書いてます。