父のこと④
父はよくふざける人だった。
兄がカマキリを大嫌いになったのも、父が兄の服の中にカマキリを入れたから。
孫たちが大好きなカボチャコロッケを夕食で食べている時、父があっちの方向を指差しながら「あっ」と言って孫たちの視線を逸らし、一方でお皿のコロッケをさらっていくということもよくしていた。
窓にくっついたカエルのおへそをガラス越しに描いた。
じじがお薬を飲む姿をじっと見つめる孫たちの視線を「テレビでウルトラマンが始まるな~」と言って逸らし、孫たちがテレビを向いた瞬間にパッと薬を飲んだり。
小学生男子のような、私には理解できない、突拍子もない行動で孫たちには大人気な父。
「ばか」がつくほど真面目だった母とは対照的に、父は本当にふざけた人だ。
そんな父に残された時間はもう少なくなっている。
嫌でも時間は有限なんだと思い知らされる。
ふざけていたけど、父は周りを楽しませてくれていた。
ふざけていたけど、それで悲しみや辛さを乗り越えてきたことも多かったはず。
私は先日から久しぶりに父との思い出のある香、CHANEL N°5を纏っている。
この香と一緒に、私は父との最期の時間を過ごす。