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父のこと⑥
夜中に病院の看護師さんから連絡がありました。
父の息苦しさが増すごとに増やしている酸素がついに100%になったとのことでした。
それから兄妹に連絡をして、私は病院へ向かいました。
私が今の父の症状を和らげるためにできることはないけれど、そばにいることしかできないけれど、でも父を独りにはしておけませんでした。
急性大動脈解離で急逝した母とは違い、まだ意識のある父のそばにいたかったんです。
父の病室に着くと、父は「病院から連絡があったのか?」と聞いてきました。私は「心配だから来ちゃった」と、ゆっくりはっきりした口調で伝えて父の手を握りました。末端には酸素が行き渡っていないのか指先は冷たくて、必死に呼吸をしているせいか手も汗ばんでいました。
父に酸素を送る機械の音と、ベッドサイドモニターのアラートの間をぬって時々言葉をかけ合う父と私。こんなに近くで話をすることもなかったので「距離感が掴めないな」なんて思いながら、言葉の合間では父の表情とモニターを交互に見る。
あと何度父の声が聴けるだろう。
あと何度「お父さん」と直接伝えられるだろう。
あと何度父と目を合わせて微笑むことができるだろう。
でも、今の私はただ目を開けて父を見つめることしかできずにいる。