19歳の地図①「大きな壁」
※19~20歳頃に書いた散文を供養いたします。
目の前には大きな壁が立っている。
ある人は、そこで行き止まりだと信じ、来た道を引き返した。
ある人は、しばらくうろうろして壁の大きさを測った後、力ずくで登っていった。
ある人は、身の周りにある道具を使い、壁に穴をあけ始めた。
力任せに壁に突進するうちに、やっと人が一人通れる位の穴が出来たので、そこをくぐり抜けていった。
しかしある人は、後に通る人の通りやすいようにと、完全に壁を2つに割った。
そしてある人は、今まで習った知識と経験に基づく知恵を駆使し、効率よく壁を壊すと、軽やかに乗り越えていった。
更にある人は、しばらくうろうろしながら壁を注意深く観察するうち、よく見ないと分からないような作りの甘い部分を見つけ、そこを破壊してすり抜けていった。
またある人は、壁を見上げた後、そのそばに座り込んで、その場で出来る自分の仕事を始めた。何日、何週間、何か月、何年か経って、壁が風化して高さがなくなってくると、やっとその人は腰を上げ、その壁を乗り越えていった。
またある人は、壁を見上げ絶句した後、周りから人をかき集めて、皆で協力して壁を取り壊し、そして皆と共にそれを乗り越えていった。
そして私は、その壁を見上げ、鼻で笑うと、まずは力ずくで登ろうとした。
しかし非力な私は登ろうとして何度も壁から落ちた。
諦めて、痛む背中をかばいながら今度は身の周りの道具を使いその壁に穴を開けようとした。
しかし知恵も知識もない私は、それらの道具の使い方がわからず、結局断念した。
途方に暮れた私は、周囲の人に助けを求めようとした。しかし力も能もない私の呼びかけに誰も応えてくれる筈はなく、いたずらにのどをつぶしただけで、やはり断念した。
こうなったらもう壁が自然に風化してくれるのを待つしかない。
そう決意した私は、壁のそばにどっかりと腰を下ろして、何かを始めようとした。
しかし何を始めればいいのか、自分には何が出来るのか、何もわからない。
このままじゃ時間を無駄にしてしまう。そうこうしているうちにどんどん壁は風化してゆく。
日に日に崩れ低くなっていく壁と、日に日に積み重なっていく不安。
そのギャップのむなしさをどうすることもできずに、私はただ呆然としていた。
とうとう壁は、少し足を高く上げればまたぐことが出来るくらいにまで低くなった。
目の前には新しい世界。しかし私はその一歩を踏み出せない。
だが今さら戻ることもできない。
私は今まで何をしていたのだろう。
壁を乗り越えるための苦労を何一つとしてやり遂げていないではないか。
こんなんじゃ新しい世界に行けたとしても、上手くいく筈がない。
目の前には大きな壁が立っている。