見出し画像

父にお尻を叩かれた夜

私は、1度、たった1度だけ
父にお尻を叩かれたことがある。

父は私が19の年に亡くなった。
突然のことだった。

四十九日で私たち兄弟姉妹は父の話をした。

優しいお父さんだったね。
運転は超が付くほど安全運転だったけどね。
焼いたスルメ好きだったね〜。
あ、あのそら豆揚げたやつもね!
庭の大量のツツジの鉢って、
お父さんが好きだからだって知ってた?
次々と出てくる思い出は、優しかった。

今でも時々思い出すことがあるけど、
四十九日の日も同じことを思っていた。

小学校4年の夏休み。
近くの神社で夏祭りがあった。
夕方、近所の友達と連れ立って出かけた。
途中で小学校の先生に会って
数名の友達と先生のお宅にお邪魔した。
一緒に行った友達は、
他の友達と合流してもう少し早い時間に帰った。
どのくらい時間がたったか、私も慌てて帰路についた。

その頃家では、娘がお祭りに出掛けたまま帰ってこないと大騒ぎになっていたのだ。
一緒に行った友達はもう帰宅していると分かった。
そこに私が帰ってきたのだ。

父は玄関で私のお尻を1回叩いた。
生まれて初めて叩かれた。
ビックリしたのとショックで、
何か言われたのか言われてないのか、
何も覚えていない。

自分の部屋に入った途端に涙がこぼれた。
それは叩かれた痛みというより、
むしろ父が手を上げたことが悲しかったのだ。
ショックだったのだ。

でも時間が経って、
父が私の事をどれだけ心配していたか、
後にも先にもたった1度娘を叩いた父の手の痛みは、
その後ずっと心の痛みとなって残っていたのではないか・・・と思うと、本当に申し訳なく思った。
同時に、どれだけ愛されて
大切に想ってくれていたのかを知った。

私も親となり、
今では子を想う気持ちも十分に理解できる。

父は子供が好きだった。
週末、自営業の妹の小さな甥っ子を預かって遊んであげていた。

そんな父を思い出しては、
もし今も生きていたら、孫を可愛がる『じじバカ』になっていたのではないだろうかと想像する。

今、私が父と生きた時間より、
父がいない時間の方が長くなった。
38歳の誕生日は、とても切ない日だった。
数年後、父が亡くなった年齢を迎えた時
私は何を思うのだろうか・・・

毎年、手帳を新調して最初に書くのは父の命日。
それはこれからも変わらない。

お父さん、大好きだよ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?