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「サッカーを続けられなくなった」戦友へ。アカデミー育ち3選手の想い「カゲと一緒にマリノスに関われるように」「後ろ向きな姿は絶対に見せられない」【無料記事】

※普段はトップチームの話題をお届けしていますが、横浜F・マリノスに貢献してくれた影山秀人選手の現役引退に寄せて、ジュニアユース時代のチームメイトだった3選手に特別にご協力いただきました。

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突然の“引退”発表。榊原彗悟の想い

「サッカーを続けられなくなりました」

 衝撃的な内容の投稿に目を疑った。横浜F・マリノスのジュニアユース出身で、現在は国士舘大学サッカー部に所属する影山秀人が5月15日にX(旧ツイッター)上で「競技としてサッカーをプレーすることができなくなってしまった」ことを打ち明けた。

 プロサッカー選手になることを目指していた影山だったが、今年3月の練習中に倒れて意識を失った(X上の投稿などによれば脳しんとうが原因だった模様)。その後、意識を回復して日常生活には戻れているが「命こそ助かったものの後遺症が残り」、高いレベルでサッカーを続けることが難しくなってしまったという。

 マリノスの現役選手たちも、衝撃をもって影山の報告を受け止めていた。ジュニアユース時代のチームメイトで影山の2学年上にあたる榊原彗悟は「あまり直接的な関わりはないですけど、自分も彼の投稿は見ました」と述べ、こう続ける。

(撮影:舩木渉)

「自分もいつそうなるかわからないと、彼の投稿を見てすごく思いました。今、こうやってサッカーをやれているのはすごく幸せなこと。彼の文も読んで、これからも前向きに頑張っていこうという気持ちがわかったので、応援したいです。彼もサッカーが大好きだと思うので、どこかで関われればと思っています」

 ジュニアユース在籍当時は3年生と1年生という関係性でつながりはそれほど深くなくとも、榊原は「マリノスへの愛をまだ持ってくれていると思うので、彼の分も自分たちがこのクラブのために頑張らなければいけない」と決意を新たにしているようだった。そして、新たな道へと踏み出す後輩にメッセージを残してくれた。

(撮影:舩木渉)

「気持ちの整理はまだついていないと思いますけど、自分一人で抱え込まず、周りを頼ってほしいと思います。自分にも、もし何かあれば言ってほしいです。これからの人生、すごく長いと思うので、ゆっくり自分のやりたいことを探して、焦らず、自分の人生を歩んでほしいと思います」

同期からのメッセージ「カゲと一緒にマリノスに関われるように」

 マリノスのジュニアユース時代に影山と共に戦った現トップチーム所属選手は榊原だけではない。寺門陸と植田啓太は、同期として濃密な3年間を過ごした仲だ。「僕たちの年代はいろいろな面で濃かった」と笑う寺門は、マリノス時代の影山を「地頭もそうですし、サッカーIQもすごく高い。冷静にいろいろなものに対してよく考えている選手だったので、すごく頭がいいと感じていました」と振り返る。

 もちろん“引退”の報告には驚いた。

(撮影:舩木渉)

「倒れたというのは聞いていましたけど、引退するほどではないのかなとちょっと思っていた部分もあって。『引退する』という連絡をもらった時に、『マジか……』と」

 影山はマリノスがUAEのアル・アインと対戦した5月11日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝第1戦を日産スタジアムで観戦していたことをXに投稿していた。寺門はジュニアユース時代の戦友がマリノスに対して愛情を注ぎ、試合観戦に訪れていたことも知っていた。

「マリノスの試合を見にきていた時もスタンドにいるのが見えて、手を振ったりしていたので、元気そうだったし、引退することになるとは全然考えていなかったんですけど、急にそういう発表を聞いたので、自分もがっかりというか、ショックでした」

 だからこそ「本人の気持ちを考えると、軽い言葉で自分が何か言うのは違うんじゃないかなと思って、難しい気持ちになった」。それでも今回の取材の主旨を伝えると、寺門は慎重に言葉を選びながら「今、サッカーができているありがたみを改めて感じています」と述べながら影山への想いやエールを語ってくれた。

「高校時代は対戦相手でしたけど、ジュニアユース時代じゃなくてずっと関わりがあった選手です。カゲの気持ちを考えると、すごく悔しいだろうなと感じるし、自分たちが簡単に『悔しい』いう言葉にしてはいけないような気がしています。

カゲの場合はサッカーをやりたくてもできない状況が突然訪れてしまったので、自分がやりたいことをやれているのは当たり前じゃないんだと改めて確認させられました。サッカーができる喜びや幸せを噛み締めて、『カゲの分まで…』というのはおこがましいかもしれないですけど、彼の分まで自分や(植田)啓太が活躍することで、彼はサッカーはできないかもしれないけど、いい刺激を与えられるんじゃないかなと思います」

(撮影:舩木渉)

「カゲはサッカーのことが大好きですし、マリノスに対しての愛情も持っているのはすごく伝わってくる。そのマリノスでプレーできている同期の自分と啓太がどれだけ幸せな立場にいるのか、改めて感じさせられました。いい意味で刺激を与えられるように。いつか一緒に、何かしらの形でマリノスに関われたらいいなと思います。そして、カゲと一緒にマリノスに関われるように、自分もマリノスで戦い続けられるような努力をし続けないなと思っています」

直接報告を受けた植田啓太「彼から熱をもらっていかないと」

 暁星アストラ・ジュニア出身の影山はマリノスジュニアユースを退団した後、暁星高校、三菱養和SCユースを経て国士舘大学に進学した。「ジュニアユースやユースの同期が大学で試合に出ているかはすごく気にしています」という植田は、「自分の力でプロサッカー選手になるという夢をつかみ取りにいく姿はすごく逞しいなと思っていた」影山から直接“引退”の報告を受けて「悔しい気持ちがすごく強かった」と明かす。

「何と声をかければいいのか……と。自分がそうなってしまったらどんな言葉も入ってこないなと思うので」

 熟考した末に、植田が戦友に贈った言葉は感謝だった。マリノスで出場機会を得られず苦しむ21歳は、「カゲの道は断たれてしまったので、他の人に夢を乗せることも今まで以上にあると思う。自分は彼から熱をもらっていかないといけない」と新たな挑戦を決断した同期から、前を向いて進むエネルギーを得た。

(撮影:舩木渉)

「伝えるのもすごく苦しかったと思うんですけど、しっかり自分の言葉で(引退することを)伝えてきてくれたことに『ありがとう』という言葉を返しました。カゲは下を向かず、すぐセカンドキャリアのことを考えて、今後の展望みたいなことを僕に宣言してくれた。すごく前向きな仲間なので、頑張ってほしいなと思いますし、自分も頑張らなきゃいけないな…と」

 植田によれば、影山は「マリノスが大好きだから、将来的にはマリノスのサポートをしたい」と考えているという。少年時代に濃い時間を過ごした仲間たちと、今度はプロサッカー界で一緒に仕事をするために。トリコロールの背番号48は決意を新たにしている。

(撮影:舩木渉)

「抽象的に『マリノスの力になりたい』ではなく、すでに行動を起こしているので、本当にマリノスが好きなんだなって。落ち込んでいると思うんですけど、それを絶対に見せない彼はすごく強いなと思いますし、落ち込ませないマリノスの力も再認識しました。

アジアチャンピオンを争っているからこそというのもあるのかもしれないですけど、改めてこのクラブの大きさや巻き込んでいる人の数の多さ、地域に根付いた存在としての重要性を感じています。自分にはそこで競争に加われていない歯痒さがありますけど、そういう仲間の夢も背負って、今まで以上に、より一層の責任感を持って、日々やらないといけないと思っています」

 大学ラストイヤーに突然のアクシデントで夢を絶たれてしまった仲間のために……という想いは榊原にも、寺門にも、植田にも共通している。植田は「彼の想いを背負うというのはおこがましいですけど、情けない姿、後ろ向きな姿は絶対に見せられない。現状、それでしかない。そこに責任感を持ってやることを誓って、頑張っていきたいと思います」と言葉に力を込めた。

 プロサッカー選手にはなれずとも、すでに新たな挑戦へと踏み出そうとしている影山の将来に幸あれ。そして、マリノスのアカデミー育ちの選手たちがピッチの中でも外でも大活躍し、アジア王者となった後のクラブをマリノスファミリーとして一緒に成長させていく未来が実現することを楽しみにしたい。

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