マリノスユース出身の小野悠斗・裕二兄弟が続ける地元への恩返し。「ONO Football Clinic」が横須賀市でつなぐ未来へのバトン【無料記事】
小野悠斗・裕二兄弟が発起人「ONO Football Clinic」とは?
横浜F・マリノスと縁の深い兄弟が、地元・横須賀市で毎年恒例となったサッカー教室を開いた。
年が明けて1月5日、横須賀市内のグラウンドにマリノスユース出身で昨年現役を引退した小野悠斗と、同クラブユースとトップチームでプレーし現在はアルビレックス新潟に所属する小野裕二の姿があった。2人が主催する「ONO Football Clinic」で地元の子どもたちとボールを蹴るためだ。
毎年オフの恒例となったサッカー教室は、今年で5回目。横須賀市の小学6年生47人が参加し、小野兄弟をはじめとした同市出身やゆかりのある現役・OB選手たち20人と約2時間にわたって交流した。
「始めた当初は参加してくれる選手も7、8人でしたけど、今年は20人も来てもらっていてありがたいですね。僕も含めて年齢を重ねて引退に近づいてきた選手もいますけど、若い選手たちが出てきて、この場に来てくれるようになった。こういういい文化はしっかり引き継いでいきたいなと思います」(裕二)
サッカー教室を終えた弟・裕二は、子どもたちから次々にサインや写真撮影を求められていた。横須賀市で育った小学生にとって現役Jリーガーは憧れの的。忙しい合間を縫って、改めて「ONO Football Clinic」という活動に込めている想いを聞いた。
「僕と兄の悠斗は横須賀という街が好きで、この街で育ったので、この街に何か恩返しをしたいという想いから始まった活動でした。僕たちはたまたまサッカー選手という職業に就いていたので、サッカーを通して子どもたちや地元の人たちにいい時間を共有できたらというのがスタートです。
僕と兄に共通しているのは、海外でプレーしていたところ。カテゴリや国はいろいろありますけど、海外でプレーしていたことは僕たちの強みであり、人生の経験としてもすごく大きな意味を持っています。なので、横須賀から世界へと、サッカー選手としてだけでなく、1人の人間としても世界で戦えるような存在になってほしいという想いも込めて続けています」(裕二)
横須賀にゆかりのある現役・OB選手たちが一堂に集結
兄の悠斗はマリノスユース卒団後、単身メキシコに渡ってネカクサやセラヤ、アトレティコ・サン・ルイスなどで通算4年間プレーした。帰国後はFC岐阜に加入し、2018年にはキャプテンも務めるなど5シーズンにわたって活躍。2020年からは再び海外に出て、タイで2年半プレーしたのち2023年夏に現役引退を表明した。
タイリーグは秋春制のため年末年始に帰国できず、コロナ禍などの影響もあって、悠斗が年始のサッカー教室に参加するのは3年ぶりだった。現在は次なる挑戦に向けて準備中の悠斗は「いろいろなものが進化して、選手たちの人数も増えたし、若い選手たちも来てくれるようになった。サポートしてくださる方々も増えて、すごく嬉しいです」と頬を緩ませる。
なかなか日本に帰って来られない中でも、地道に横須賀市の子どもたちのための活動を続けてきた。特にコロナ禍では対面のサッカー教室が開催できなかったが、オンラインで子どもたちと交流するなどむしろ活動の幅は広がっている。
さらに、小野兄弟の想いに賛同して「ONO Football Clinic」に参加する現役選手やOB選手が増えているのは先に述べた通りだ。マリノスにゆかりのある名前を挙げると、谷口博之さんや石川直宏さんは年始のサッカー教室に欠かさず参加してくれている。小野兄弟のマリノスユースの後輩にあたるジェフユナイテッド千葉の熊谷アンドリュー、栃木シティFCへの加入が決まった西山大雅、昨年はシンガポールでプレーしていた山谷侑士、そして2024シーズンからFC大阪でプレーする武颯なども駆けつけた。
彼らはただ子どもたちにサッカーを教えるだけではない。一緒になってボールを蹴り、ゲームになればプロの技術やフィジカルを小学生相手に惜しげもなく披露する。石川直宏さんの正確なボールコントロールや鋭いクロス、大久保哲哉の打点の高いヘディング、裕二のキレキレなドリブル突破など、普段は間近で見られないプロサッカー選手のハイレベルなプレーの数々に子どもたちは目を輝かせていた。
「プロ」が「本気」でやるからこそ提供できる価値
裕二は言う。
「サッカー教室を見てもらったらわかると思うんですけど、ただ教えるというよりは一緒に楽しんで、サッカー選手も真剣にプレーしていますよね。もちろん今の時期なのでコンディションの問題で体が思うように動かないところはありますけど、それでもしっかり見せるところは見せる、戦うところは戦う、勝負するところは勝負するみたいな、本気のプレーを意識しています。そこは他ではなかなかないところかなと」(裕二)
彼らのプレーを見て、実際に一緒にボールを蹴って、プロサッカー選手に憧れない子どもはいないだろう。だが、ただ小野兄弟は先にも述べた通りプロサッカー選手を目指す子どもたちだけを増やそうとしているのではない。横須賀市で育ったことに誇りを持ち、いずれ何らかの形で地元に貢献できる人材になってほしいという想いを、サッカーを通して伝えているのである。
兄・悠斗は「もちろんサッカー選手にもなってほしいですけど、このイベントに参加したことによって『サッカー選手はすごいな、憧れるな』と思ってもらえればいいんです。僕たちはみんな地元に育ててもらったからこそ、こういう活動をしているので、サッカー選手になろうがなるまいが、参加した子どもたちも地元のことを好きになって、そこに恩返しできる人物になっていってもらえればと思っています」と語る。
小野兄弟は今年からそれぞれ新たなステージでの挑戦を始める。兄・悠斗はタイに移住して飲食店を開く予定で「当分帰って来られないかもしれない」が「ONO Football Clinic」の活動にはタイからも関わっていくつもりだ。「自分にできることはどんどんやっていきたいですし、今後はタイに住むので、タイ人の選手がこのイベントに参加するなどインターナショナルなクリニックになっていったら夢は広がるかなと思います」と、さらなる発展のイメージも描いている。
「ONO Football Clinic」のこれから
弟・裕二はサガン鳥栖からアルビレックス新潟への完全移籍が決まった。これまで自らがプレーするJリーグの試合が神奈川県内で開催される際に横須賀市の子どもたちをスタジアムに招待してきたが、その活動は新潟に移籍してからも続けていくという。
「もうちょっとでシーズンに入りますけど、そこからは自分のサッカーに全力を尽くしていきます。新しい場所でもう一度自分の価値を高めたいと思って移籍しましたし、その覚悟を持ってシーズンに入っていければいいなと。選手としてまだまだ成長したいという欲があるので、そのために毎日努力していきたいと思っています。
『ONO Football Clinic』ではサッカー教室以外にもいろいろやっていて、鳥栖でプレーしていた時は神奈川県内で開催される試合に子どもたちを招待して、見にきてもらっていました。なので、このサッカー教室だけではなく年間を通して子どもたちと触れ合えるような活動もどんどん続けていきたいと思います」(裕二)
地元への恩返し、そして未来へつなぐ夢のバトン
兄弟の地元への想いから始まった活動は年々規模が大きくなり、たくさんの人々が関わるようになった。最初のサッカー教室に参加した子どもたちはプロサッカー選手になってもおかしくない年齢になっている。年始のサッカー教室も横須賀市で末長く続いてく、毎年恒例のイベントとして定着していきそうだ。
「まだ数年しかやっていないので、たとえばここからプロサッカー選手になる子どもが出てくれたり、世界で活躍する子が出てきてくれたりした時に、初めて影響力を感じるのかもしれないですね。でも、毎年参加してくれる子どもたち、協力してくださる方々も増えてきているので、大きなやりがいを感じながらできています」(裕二)
兄・悠斗も「兄弟がこうやって続けてきてくれたことに感謝ですし、できることならもっとスケールアップしていきたい。何をやるにもトライ&エラーが必要なので、続けることでどんどんパワーアップしていければいいなと思います」と未来を見据えていた。
オフシーズンにプロサッカー選手が地元でサッカー教室を開くのは珍しくないが、「ONO Football Clinic」は一度に参加する現役・OB選手の数の多さという点に大きな特徴がある。プロサッカー選手だけでチームを作って子どもたちと本気でフルピッチのゲームができるサッカー教室は珍しいだろう。そのうえで毎年規模が大きくなり、イベントとしても洗練されてきている。
彼らのプレーを間近で体感する貴重な経験をした子どもたちは「自分もプロサッカー選手になりたい」と憧れを強くするだろうし、プロを身近に感じることで自分の将来像をより具体的に意識できるようになるはずだ。小野兄弟の地元への想いが詰まった「ONO Football Clinic」が長く続き、発展していくことで、横須賀市の子どもたちの未来を育む取り組みの象徴となっていくことを切に願っている。
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