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【前編無料】マリノス唯一の公式戦出場ゼロ。白坂楓馬が“第4GK”として過ごした「後悔のない」1年
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リーグ優勝を逃した日。だからこそ、この選手のことを
2023年11月25日、横浜F・マリノスのJ1リーグ連覇の夢が潰えた。
前日に行われた試合でマリノスはアルビレックス新潟と0-0で引き分け、25日にヴィッセル神戸が名古屋グランパスに2-1で勝利。この結果、リーグ戦1試合を残してマリノスと神戸の勝ち点差は4ポイントに広がり、神戸のJ1リーグ初優勝が決まった。
このタイミングだからこそ、取り上げたい選手がいる。その選手とはマリノスのGK白坂楓馬だ。
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期限付き移籍先の鹿児島ユナイテッドFCからマリノスに復帰した白坂は、今季のチームで唯一公式戦の出場がない。ベンチ入りも6試合のみ。常に「第4GK」という立場で仲間たちを支えてきた。
彼の存在は今季のマリノスに欠かせなかった。公式戦のピッチ上で勝利に貢献する姿こそ見せられなかったが、負傷者が続出したチームにおいて「一度も離脱がない」という事実が、その価値の高さを物語っている。ある意味、マリノスで最もコンスタントだった選手の1人が白坂なのである。
我々メディアが練習を見学できる限られた機会だけでも31番のウェアをまとった選手が全体練習を欠席した日は一度もなく、夏場にGK陣に離脱者が相次いだ時期も元気いっぱい。「別メニュー調整だったのは、プレシーズンキャンプ中に一度だけですかね。シーズンに入ってからは全ての練習に参加しています」と、白坂は言う。
「『1日休むこと』はサッカー人生においてすごく損」
小池龍太や畠中槙之輔、小池裕太など数多くの選手が長期離脱を強いられ、他のほとんどの選手も別メニュー調整になった日は一度くらいあるもの。特に今季終盤は紅白戦ができない人数で練習することすらあった。試合の準備段階でも1年を通して“常に計算できる”コンディションを維持するのは、決して簡単ではない。
では、なぜ白坂は常にチームに貢献できたのだろうか。
「ただでさえ4番手なのに、怪我なんてしたら置いていかれる一方ですからね。自分からしたら、『1日休むこと』は自分のサッカー人生においてすごく損することだなと思っていて。シゲさん(松永成立GKコーチ)からもテツさん(榎本哲也アシスタントGKコーチ)からもたくさん教わることがあって、それを1日でも無駄にするって自分にとってはすごくもったいない。
全くどこも痛くないということはないですけど、それでも自分でピッチに立って練習したいという思いが強いので、できる限りケアをして、家に帰ってからもケアしたりしながらやってきました。1年間怪我をしない選手って価値があるのかなとも思っています」
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松永成立GKコーチと榎本哲也アシスタントGKコーチからの指導を受け、「触れなかったボールに触れてきたり、ハイボール処理における空間認知能力が上がってきたり、最初に比べて積み重ねができていると自分でもしっかり認識したうえで成長できている」という実感がある。地道に続けてきたものを途切れさせないように、成長を止めないように、チームに置いていかれないように。「GKとしてもっと上手くなりたい」という気持ちが、白坂の原動力になっている。
マリノスの一員になって見えたもの
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一方で「もちろん選手としては試合に出るに越したことはない」とも。ピッチに立って、勝ち負けを左右するような場面を経験し、“生”の駆け引きから学び、プレーの感覚を磨いていくことが何よりも成長につながるということは十分に理解している。
第4GKとして控えていることに無理やり価値を見出そうとしているわけではない。白坂は「ぶっちゃけ、今の自分の序列で何が貢献できているんだろうと思ったら、パッと出てくるものはない」とも述べる。だからこそ、どんなに小さなことでもチームのための力になることを。それが白坂にとっては常に練習で出し尽くす姿勢を見せることだった。
別の視点から見ると、今のマリノスは試合になかなか絡めない選手でもチームのために全てを捧げたいと思える環境ができあがっていると言えるのだろう。
ほとんどの試合当日にメンバー外練習に参加して、他の出番に恵まれない選手とともに多くの時間を過ごしてきた白坂は「(村上)悠緋もこないだゴールを決めましたし、(榊原)彗悟もずっともがいていましたけど、怪我人が出たことでコンスタントにピッチに立つようになって、しっかりとしたパフォーマンスでチームに貢献している。僕も負けていられないですし、自分ももっと頑張らないとなと思います」と語り、こう続ける。
「チームの一体感は素晴らしいと思います。宮市(亮)選手が復帰して、柏レイソル戦で逆転ゴールを決めて勝ったじゃないですか。あの時のスタンドの雰囲気もそうですし、ベンチの全員が亮くんのところに走っていって、上で見ていた(メンバー外の)選手たちも全員立って『うわー!』と盛り上がって窓ガラスをバンバン叩いていて。1人の怪我人の復帰や勝った時の喜びを、あれだけ爆発させられる。誰かがゴールを決めた時の爆発力も、何かあった時にチームでケツを叩いて『頑張ろう』と言えるああいう一体感も、チャンピオンチームだからこそなのかなと思います。
マリノスは1人ひとりの人間性が素晴らしいなと思うので、それが結晶として固まった時に、誰かのゴールであれだけ爆発してみんなで一体感を出せる。改めて素晴らしいクラブですし、1人ひとりの優勝に向けた志も強い。もちろん喜田(拓也)くんや(水沼)宏太くんを中心に、みんなで練習中から声を掛け合って1つの方向に向かおうという姿勢が常に見えるので、それをファン・サポーターの方々も示してくれているとマリノスファミリーの一員として感じています」
マリノスで過ごす日々に「後悔は全くない」
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第4GKという立場である以上、公式戦でゴールを守るチャンスはそうそうやってこない。出場機会に恵まれない中で、夏に移籍してマリノスを離れることもできた。そうすれば別のクラブでもっと多くの活躍の場に恵まれたかもしれない。だが、白坂は自らその可能性を絶った。そして、決断に「後悔は全くない」と言い切る。
「もちろん試合に出たかったし、出るためにマリノスに帰ってきましたし、自分がピッチに立ってマリノスが勝つということだけを考えてきました。シーズンが始まってみたら試合に出られず、夏のウィンドウで『移籍どうする?』という話があった中でも、自分はここに残ってやりたいと思いましたし、その価値があると感じていました。
帰ってきたのも『シゲさんとテツさんに教わりたい』という想いがすごく強かったからです。彼らはJリーグで本当にトップのGKコーチたちだと思っているので、その人たちに教われるというのはGKの自分としてはすごく幸せなこと。それ以上の価値ってなかなかないと思っているので、全然後悔はないですね」
最高のチームで、最高のGKコーチたちからの指導を受ける最高の日々。松永コーチと榎本コーチの厳しい練習で鍛えられて成長を実感しながら、充実した1年を過ごしてきた。
そんな中、ある日の練習で松永コーチから白坂に雷が落ちた。