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今季のマリノスを象徴する敗戦。天皇杯決勝に片手をかけたが…延長後半ATに痛恨の失点「今年の課題がすごく大事なところで出てしまった」【無料記事】

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延長後半ATにまさかの失点、そして敗退

 本当にあと一歩だった。だからこそ悔しさは1日経っても全く薄れない。

 横浜F・マリノスは10月27日、天皇杯準決勝でガンバ大阪と対戦し2-3で敗れた。この結果によりマリノスが今年中に獲得できるタイトルはなくなり、2025-26シーズンにアジアの国際大会に参戦できる可能性も極めて低くなってしまった。

(撮影:舩木渉)

 延長戦までもつれた激戦の幕切れはあっけなかった。

 2-2のまま延長後半アディショナルタイムに突入し、あと1分でPK戦というタイミングでの3失点目。再びゴールを奪うための時間は残されていなかった。

「そんな簡単に振り返れるものでないのは確かなんですけど……ちょっと今感情の起伏がちょっと激しくて……」

 ゲームキャプテンを務めた松原健は、憔悴した表情で取材に応じた。

 26分にガンバに先制を許したマリノスだったが、37分にヤン・マテウスのゴールで同点に追いつく。後半は相手に主導権を握られる時間が増えても堅実に守り、終了間際の88分に松原がゴールネットを揺らして逆転。7年ぶりとなる天皇杯決勝に片手をかけた。

(撮影:舩木渉)
(撮影:舩木渉)

 ところが後半アディショナルタイムの93分、スローインがきっかけとなって失点を喫してしまう。味方からのスローインを受けた鈴木徳真がフリーでペナルティエリア内へクロスを送ると、中谷進之介が勢いよく飛び込んでヘディングシュートを放ち、マリノスのゴールをこじ開けた。

「やっぱり勝ち越した状況でチーム全体としてもっと締めなきゃいけない」

 松原の言葉には後悔の念がにじむ。

「山東泰山戦に続いてこういう失点の仕方をしてしまうというか。みんな1人ひとり思うことはあるし、勝ち越した時により集中しようという気持ちは持っていたと思うんです。ただ、それでもやられてしまうということは、その思いが足りないというか。

ああいうスローインの時に、やっぱり守りに入ろうとしすぎてボールホルダーにプレッシャーに行くのが遅くなってしまった。そこは自分も含めて、全員がもっと人にいかなきゃいけない。これも結構何回も言っていることですけど、そういったところが勝敗を分けてくるなと思いました」

(撮影:舩木渉)

「アンジェ(・ポステコグルー)が『いくら金を稼いだかより、いくつタイトルを獲ったかだ』と言っていたのは僕の中で心に凄く残っていて。それ(タイトル)を獲れるチャンスが目の前に転がっていたのに、それを逃してしまったのは本当に選手としても、いち人間としても本当に悔しいです。どの選手も、どのファン・サポーターも、マリノスを応援してくれている皆さんも同じことを思っているでしょうし、本当に悔しいの一言ですね」

 天皇杯準決勝の5日前に行われたAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)リーグステージ第3節の山東泰山戦でも、最終盤に失点した。87分にヤンが勝ち越しゴールを挙げて2-1としながら、後半アディショナルタイムの92分に2失点目を喫したのである。アウェイでの貴重な勝ち点3は掌からこぼれ落ち、勝ち点1になってしまった。

失点シーンの前に反省点はあるが…

 全く同じような展開が2試合続き、延長戦があったガンバ戦では詰めの甘さが致命傷となってしまった。「本当に言葉が出ない」と肩を落とした上島拓巳も、松原と同様に重要局面での粘りに欠ける現状を嘆いていた。

「ガンバの勝負強さに屈してしまった。僕たちには最後の最後で守りきれなかった弱さがあった。今季は終了間際の失点が続いているので、本当に力負けしたなという感じです」

(撮影:舩木渉)

 延長後半アディショナルタイムの失点に至る過程で「宇佐美(貴史)さんのところで潰せればよかった」と細かい反省もあるが、今季の苦しさを象徴するような敗戦に直面したことによる落胆は果てしなく大きい。

(撮影:舩木渉)

「僕たちはACL決勝での悔しさを、今回のルヴァンカップと天皇杯にぶつけようと思っていましたし、ルヴァンカップの準決勝第2戦や、今日に関してもチームは本当にファイトして、内容としてもそこまで悪くなかったと思います。けど、最後の最後で甘さが出る結果になってしまったのは本当に力不足というか、チーム全体の問題もあるのかなと思います」

 途中出場だった水沼宏太にも「ここ最近ではなかなかなかった堅い試合ができた」という手応えがあった。にもかかわらず、結果だけがついてこない。試合後には大阪まで駆けつけてくれたファン・サポーターの目の前で涙を拭うような姿も見られた。

(撮影:舩木渉)

「結局、後半の最後と延長後半の最後の2失点は、最後の最後で隙を与えてしまった。ものすごくもったいないというか、防げたシーンではあった。どうしても最後の最後で守れないというのが今年の課題ではあったので、そこがすごく大事なところで出てしまった悔しさはあります」

 今季のマリノスはAFCチャンピオンズリーグで決勝に進み、国内カップ戦では2つとも準決勝に進むなどカップタイトルに何度も近づいた。年間60試合前後という前例のない過密日程の中、リーグ戦では苦しんでいても、これだけ多くのタイトル獲得に近づけたのは称賛すべきだろう。しかし、いずれの大会でも頂点には届かなかった。重要な試合で勝負強さが発揮できず、大事な局面でどうしても隙を見せてしまう。

アジアの舞台に立ち続けるために必要だったタイトル

 天皇杯にしても重要性は誰もが理解していた。ACL決勝を経験し、アジアの国際大会に出場し続けることがクラブの未来にとって非常に大きな財産となることを身に沁みて感じたからだ。

 とはいえ残留争いに片足を突っ込んでいる状況のリーグ戦で、2025-26シーズンのACLE出場権を獲得するのは難しい。ならば天皇杯を制し、AFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)の出場権を確保してアジアの舞台に立ち続けるチャンスをつかみたかった。

 飯倉大樹はガンバ戦の2日前に「アジアの大会に出続けて、それが途切れないようにしていくのはやっぱりすごく大事。昨季のACLで決勝まで行った経験というのはなかなかできるものじゃないし、途切れさせる、諦めるのは簡単だからこそ、Don’t give up!精神ですね」と天皇杯の重要性を強調しており、同じ意識がチーム内でも共有されていた。

(撮影:舩木渉)

 それでも望んでいた結果をつかめなかった今、マリノスはどう前に進んでいくべきか。

 今できるのはリーグ戦で少しでも順位を上げつつ、ACLEで再び決勝にたどり着けるよう勝ち続けることだけだ。苦い思い出だけでシーズンを終えるわけにはいかない。ガンバ戦で天皇杯決勝進出を逃したショックは大きいが、下を向いている暇はない。

 10月30日には早くも次のリーグ戦が組まれている。先発しながら60分に交代でピッチを退いていた植中朝日は「本当に詰めの甘さが出たと思っているので、今すぐには振り返れないですけど、試合は待ってくれない。もう一度気持ちを切り替えてやっていくしかないと思います」と、3日後の浦和レッズ戦に向けて気を引き締めていた。

(撮影:舩木渉)

 他の選手たちも同じく懸命に前を向こうとしていた。もう同じ失敗は繰り返さない。ガンバ戦の失態は成長の糧にしていかなければ意味がないのだ。エドゥアルドは言う。

(撮影:舩木渉)

「唯一残っていたタイトルのチャンスを失ってしまったのはチームとしてとても残念だし、とても痛い敗戦です。ただ、伝統あるクラブは毎試合勝つことが大事だし、このエンブレムに誇りを持って戦うことが大事になってきます。ファン・サポーターも我々と一緒に戦ってくれていて、負けていい試合は1つもない。しっかりとみんなで力を合わせて勝ちにいきたいと思います」

 ガンバ戦では120分間ピッチに立ち続けた選手も多く、中2日で迎える浦和戦は総力戦になる。かつてなく厳しい条件が揃っているが、言い訳にせず、勝ち点3をもぎ取って課題克服に一歩でも近づける試合にしたい。

 エドゥアルドとともにマリノスの副キャプテンを務める水沼と松原も、浦和戦に向けて力強い言葉で決意を語った。

(撮影:舩木渉)

「もちろん悔しいですし、とにかくファン・サポーターの皆さんに期待してもらった分、本当に申し訳ないシーズンになってしまった。とにかく僕自身はそこですね。こういう大事な展開で、(自分が)出てから勝ち越したけど、最後に追いつかれたという悔しい思いを自分個人もしました。

何も得られないでただ負けたというより、『ここが自分たちはダメだったな』という、何回も同じ展開でやられているところは本当にみんなで見つめ直さなければいけないと思います。もう残り試合は少ないですけど、リーグ戦も僕たちにはめちゃくちゃ大事なので、とにかく踏ん張って、踏ん張って、最後に何かをみんなで成し遂げられるように、記憶に残るような試合ができるように、もう一度頑張りたいなと思います」(水沼)

(撮影:舩木渉)

「今季はタイトルを獲れなくなってしまいましたけど、まだ試合が続きます。今残っているこのメンバーで戦える時間も限られてきますし、その中で1試合でも多くチームのみんなやファン・サポーターの皆さんと勝利を分かち合いたいという気持ちは誰よりもありますし、それはチームみんな1人ひとりが持っているものだと思います。

(撮影:舩木渉)

今すぐに切り替えることはなかなか難しいですけど、中2日でリーグ戦がくる。相手(浦和)も苦しい状態な中で、ここを取るか取らないかで今後がだいぶ変わってくる。もちろん誰が出るかわからないし、120分やった中でリカバリーの時間はすごく短いですけど、それは本当に理由にならない。ホームでやれるアドバンテージもあるので、そこはチームとして歯を食いしばってやるところかなと、今から思います」(松原)

 幾度となく試されてきた立ち上がる力を真に発揮すべきなのは、まさに今だ。再びかつてのような重要局面での勝負強さを発揮できるチームへと変わっていくため、天皇杯準決勝のガンバ戦がきっかけとなって1人ひとりの意識改革や基準の引き上げが進んでいくことを期待したい。

(撮影:舩木渉)
(撮影:舩木渉)
(撮影:舩木渉)
(撮影:舩木渉)

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