和田合戦_07 千葉純胤の時空移動
純胤は続ける。
「成胤。貴方がこの合戦でどう関わったかの謎に触れていきましょう」
成胤は黙って聴いていた。
「成胤。この合戦が起こったときどこにいましたか」
成胤は下総の千葉一族の館と答えた。
「では合戦を察知したのはいつですか」
成胤はいつ頃だったかなとあいまいな返答をした。
「実朝が早々に和田一族に向けて御家人一同へ追討令を出したのが翌日昼前です」
「しかし成胤は千葉の一軍を引き連れ翌早朝には鎌倉へ馳せ参じていますね」
「追討令より前に到着してますね。そもそも和田一族の決起を知ってからの規模と速さではありません」
「成胤。この合戦が起こる事をすでに知っていましたね」
「そして綿密な準備あっての参戦ですよね」
成胤は押し黙っていた。
「このような周到な振る舞いが出来たのは知る者より事前に申し合わせがあったのでは」
「僕は事前に三浦義村から話し合いがあったと憶測してますが。どうです?」
成胤は観念したのか左様と応じた。
「やはり。ではなぜ三浦義村は肝要な秘話を成胤に打ち明け、成胤はなぜ同意したのかですが」
「その根底には千葉家と三浦家には同質の悩みを抱えていました」
「成胤には上総にいる弟常秀の影があり、三浦義村には叔父和田義盛の存在があった」
「どちらも強大です」
「成胤は千葉宗家当主で、三浦義村は三浦宗家当主というのも同じです」
「三浦義村はこの合戦を口実に和田一族を滅ぼしに動いたのではないですか」
「そして同じく難題を抱えている成胤へ打ち明けて誘うことで、確実に一挙に始末しようとしたのではないですか」
「とは云え下総と上総の関係と、三浦家と和田家の関係は似て非なるものです」
「三浦義村の願いは分家を弁えない和田一族、というより和田義盛の排除です」
「一方、成胤は上総をどうこうしようというのはない。上総も和田義盛の様に宗家に散々たてつくようなこともない」
「まさしく影としてチラチラしている常秀を千葉宗家として抑え込んでおきたいという願望なのではと見当してます」
成胤は何食わぬ顔をしていた。
「合戦直後、ある取り決めが変わりました。官途推挙状でしたっけ?要は武家より朝廷へ官職を願い出るアレです」
「いままでは御家人であれば各々で推挙できました。各々といってもある程度の格や力はいるでしょうが」
「それが合戦後は『家督者』のみの推挙となりました」
「つまり官職は宗家当主の心づもり一本になったということです」
「上総はあくまでも下総の千葉宗家の分家。常秀は隙あらば宗家を喰らうような事が封じられてしまいました」
「でも見事ですよね。千葉家は上総と下総で衝突が十分あり得る中、同族で争闘することなく治めたのですから。流石成胤ですね」
成胤は素知らぬ様子をみせつつも帰結としてそうなったなと答えた。続けて成胤が純胤に問いかけた。
「純胤。以前言っていた『鎌倉で合戦が繰り広げらる』はこの和田一族の事だったで合っているか」
純胤は正しくと返した。
「この度のことで北条がより強大となった。三浦一族も和田一族と組んで北条の脅威となることもなくなった。実朝様はもう十分立派な将軍として振舞っておられる」
「人の世に永遠はないが、しばらくは安静な世が続く目途がついたと思っている」
「そうですね盤石です。だけどふとして綻んでしまうのです」
純胤はそこまで言った最中、純胤の周りに突如として濃い霞がかかり、ものの数秒で霞ごと、また忽然と消えた。