北条時政の狂気_02 千葉純胤の時空移動
成胤は千葉館の奥にいた。
そこにはもう一人いた。
千葉一族の子孫である純胤だ。
「またまたお呼びいただき恐縮です」
いつもとおり純胤は微笑んでいた。純胤はいまはいつと尋ね、成胤は元久二年の夏と答えた。
「なるほど。では北条家はいまや」
「ああ。まさかこんなことになるとはな」
純胤は成胤へ事の顛末を聞かせてほしいと問いかけた。成胤はまたこの流れかとふとため息を入れたのち語り始めた。
「平賀邸での宴席が事のはじまりであった。宴の中、平賀朝雅殿と畠山重保殿が口論を激しくはじめてな」
「平賀朝雅殿の奥方は牧の方の娘。北条時政殿は継父となる」
「一方、畠山重保殿は畠山重忠殿の嫡男。畠山重保殿の奥方も北条時政殿の娘。ただしこちらの母は牧の方の前の伊藤家の奥方。同じ母の子は政子様や江間泰時殿となる」
「要は北条時政殿からすると同じ義理の息子になる」
純胤はなかなか複雑ですねとつぶやいた
「北条時政殿の気持ちは一貫して牧の方とその息子娘一辺倒よ。故か義理の息子達が揉めても肩入れするのは牧の方側となる」
「平賀朝雅殿と畠山重保殿のいざこざは私が仲裁に入って事なきをえた」
純胤は流石成胤と合いの手をいれた
「ただし半年もたたぬうちに今度は畠山親子に謀反の動きありと北条時政殿が討伐を命じた。そんな動きなど微塵もないし、江間泰時殿は当初は異を唱えていたがな」
「とはいえ北条時政殿の命だ。結局、江間泰時殿がかなりの大軍を率いて畠山家を打倒しにいった。江間泰時殿は畠山重保殿の亡骸を視て涙ぐんだそうな」
「この一件は強引すぎた。しかし無理にもほどがあることが起こる」
「今度は平賀朝雅殿を将軍にしようと北条時政殿が動き始めた」
「流石にこの暴挙は政子様が三浦義村殿の力を借りて止めさせ、北条時政殿は伊豆へ隠居へと追いやられた」
「その直後、平賀朝雅殿には追討令が出、在京御家人の手によって討たれた」
「そして江間殿は北条泰時と北条姓に戻られた。この立て続けの事変は北条家の内紛よ」
純胤は成胤にここまでの語りへのお礼を述べつつ、問うた。
「僕の中にはこの顛末にも少々謎を感じています。北条時政の力が尋常ではなかったとはいえ、平賀朝雅を将軍にしようという動きはかなり理不尽かと思うのですが、本当にそんなことをしようとしていたのですか」
「そうだな。実朝様さえ亡き者に出来れば、頼朝様と血のつながりはないが猶子ではある平賀朝雅殿は継承の1人とはいえる。しかし頼家様の子、善哉様も存命なのでまず無理だろう」
「しかし、もう北条時政はそんなことは視えず、自分が望んだ世になると妄信していたのですかね。比企家を滅ぼしたときになにか超えてしまったのかもしれません」
成胤は本人の心内など知る由もないと返した。そして純胤へ問いを続けた。
「純胤、『鎌倉の動乱』なる騒動はこの一件を指していたのであろう?」
「そうですね。これも『鎌倉の動乱』です。でもこれは『はじまり』です。鎌倉で『合戦』が繰り広げられるのです」
純胤はそこまで言った最中、純胤の周りに突如として濃い霞がかかり、ものの数秒で霞ごと、また忽然と消えた。