十三人の合議制_01 千葉純胤の時空移動
下総にある千葉一族の館。奥部屋には当主の千葉常胤と一族面々が揃っていた。常胤は奥に祭ってある妙見様に念じていた。
そのうち襖の奥でガタンガタンと大きな音が響いた。そして襖が勢いよくバッと開き、一人の男が立っていた。千葉一族の子孫である純胤だった。
「もうちょっとスマートにこちらに来れないんですかね」
純胤は苦笑いしながら呟いた。あたりを見回すと前回までの常胤・師常以外に幾名の男たちが常胤を中心に座っていた。
「あー。千葉常胤の子息たち。千葉六党の皆さまですね」
師常はそれぞれ名乗らせようとしたが、純胤はせっかくなので当ててみたいですと指さしながら名前を呼び始めた。
「えっと、今の名前でいきますよ。千葉胤正、相馬師常、武石胤盛、大須賀胤信、国分胤通、東胤頼。あれ一人若めな方いますね。胤正の御子息、千葉成胤?」
師常はご名答と返した。純胤は師常にいまはいつかを聞くも、この前より4日経ったところと答えた。その間に何度も妙見様に願いをしていたが、結局純胤が現れたのは今日だという。
千葉一族の面々が下総の館に一同集うているのは、今後の頼家体制がどうなりそうか、千葉一族としてはどう動いていくかを協議するためのようだ。
胤盛が割って話しをはじめた。
「父上と師常は3度目かもしれませんが。私は初めてなので挨拶を。はじめまして胤盛です。本当にまた未来から子孫が来たのですね。篤胤と違って目の前にいるので分かり易いですが」
胤頼も純胤に語り掛けてきた。
「ぼくは胤頼だよ。篤胤は元気らしくよかったよ。一番気になっていたのは永らくお世話になっていた胤通とは思うけどね」
胤頼は胤通に話を振るも胤通ははにかんでいた。他の面々は特に純胤に語り掛けず、胤正がそろそろ本題へと切り返してきた。常胤が口を開く。
「そうじゃのう。ここに皆が集うてもらったのは頼朝様がお亡くなりなり、頼家様が家督を継ぐことになったが、このまますんなりと今まで通りとも行かぬであろう故に、今後一族としてどうしていくかを話合いたいからじゃ。奇しくもまた未来より子孫である純胤がこの場に来たのはなにかの予兆でもあろう」
胤正が話を進めた
「父上。頼家様が単独で全てを取り仕切るのは非常に困難と思われます。だれか後見として支えていくと推察されます」
「なるほどのう。今の鎌倉からするとやはり頼家様の母親である政子様の父である北条時政殿かのう」
「時政殿は確かに後見となりえます。私はもう一人あり得るかと。昨年お生まれになった頼家様の嫡子の一幡様の母親は比企家の娘。比企家は頼家様の乳母も託されていました。頼朝様との繋がりを考えますと北条家以上ともいえます」
「ではどちらかが握るのか、北条と比企で示し合わせて二族で取り仕切るのか。いずれにせよひと悶着ありそうよの。どうよ純胤。われらがどちらにお味方するかを未来より標を示しにきてくれたんじゃろう?」
純胤は二人の話を聞いていたが振られたので答え始めた。
「そうですよね。いつの世も縁者が力を握りますよね。力があるから縁者となるのですかね」
「御答えは北条と比企が力合わせては部分的にはあってます。ただこの二族だけでない。これから十三人の御家人による合議制が敷かれるのです」