後鳥羽上皇・参〈転生記外伝〉
後鳥羽上皇は御所の二条殿で思い耽っていた。
実朝の元へ坊門信子が嫁いで早十年以上の月日が経つ。
二人の間に子は授かっていない。
実朝は側室もおらず、実朝の子は一人としていないのだ。
坊門信子は朕にかなり近しい一族の者であり、坊門信子を実朝が愛おしく大事にしてくれている事は遠く離れた京にいても十分すぎるほど伝わっている。
とはいえこのまま実朝の子がいないとなると、いまだどこかに居るという頼家の遺児を取り上げ、また騒動が起こるのではとやきもきしていた。
このまま後継がいない不安定なありさまが続くのかと参っていた頃、内々に実朝より申し出があった。
ー上皇の皇子のどなたかに次期将軍としてお越し願えないかとー
後鳥羽上皇は思わず心中に笑みを浮かべた。
朕に有効な実朝が東王として東国を束ねているだけでなく、その次を担う征夷大将軍として我が子が引き継ぐ。
なんと澄み渡る世が到来するのか。
実朝の子を産んだ一族が外戚として猛威を奮うこともなく、空位でまた血みどろの席争いをする訳でもなく、すんなりと世代交代となる。
そうであれば実朝が老いて亡くなるまで待つこともない。
朕の様にさっさと譲位してしまえばいい。
されば実朝は東の「治天の君」となる。
朕と共に気持ち良く刻を暮せばよい。
後鳥羽上皇の情感は晴れ晴れしくなった。