男子新体操が世の中に広まらない本当の理由
先日ツイッターでも配信したが、僕はこの本を読了した。
今のスポーツビジネス界を引っ張る存在の一人、葦原一正氏が今年出版した著書「日本のスポーツビジネスが世界に通用しない本当の理由」である。
正直なところ、プロリーグを題材に書かれているこの本の内容は、男子新体操に直接的に活かせるものは少なかった。
なぜなら、男子新体操にはプロリーグやプロ選手が存在しないのはもちろんのこと、今日のスポーツビジネスでは当たり前のことがほとんど実行されていないからだ。
しかし、この本を読みながら思いついたアイデアが2つあった。
これから話すアイデアは、これまで新体操界を築きあげてきた先生方からすれば不快に感じるものもあるかもしれない。
もちろん、運営も指導も含め、現場に携わっている先生方には多大なる尊敬と感謝の意を持っている。
だが僕は勇気を持って発言したい。
「男子新体操の素晴らしさを多くの人と分かち合うこと」
これが、このスポーツに関わる人みんなの夢だと思っているからだ。
1、独立
1つ目のアイデアは「独立」である。
何からの独立か?
それは、男子新体操という競技が所属している団体「公益財団法人 日本体操協会」からである。
「一般社団法人 日本新体操協会(仮)」として独立法人化することを僕は提案したい。
女子はすでに国際的な競技として運営されているため協会から離れることが難しいとは思うが、男子の場合、大会運営やルールなどにおいてFIG(国際体操連盟)との連携がまだないため、そのあたりの難しさはないと思っている。
誤解を防ぐために言いたいのだが、日本体操協会に属していることが悪いとは思っていない。
毎年予算が分配され、安定的に試合を開催することができる。
これが協会に所属するメリットであり、事実、私たちの競技はこれまでその恩恵に与ってきた。
では、なぜ独立を提案するかというと、そうでもしないと収益化に目が向かないからである。
自ら資金を生み出し、自らの手で競技をマネジメントする環境に身をおかなければ、今後大きな発展は見込めないと僕は思っている。
これは、一般企業の平社員と個人事業主との違いに似ている。
収入額の高低はさておき、一般企業の社員は“仕事ができるできないに関わらず”安定的に収入を得ることができる。
多くの社員は会社の財務状況など気にかけることもなく、どのくらい資金があり、どういう配分でどこにお金が当てられているかということは知る由も無い。
それもあって、自分が頑張って仕事をしたらどのように会社に利益が上がり、その利益を使ってどんな次のステップを踏めるか、どんな成長を遂げることができるか、あるいは長期的にみて自分が得られるベネフィットは何かということをイメージするのが難しい。
反対に、個人事業主は全ての管理を自分で行う。
収益が上がるシステムを作るのは自分、お金の管理をするのは自分、収入額を決めるのも自分。
常に新しい案や改善案を考えて前に進み続けないと、自分が暮らしていけなくなる。
自分の行動がもたらす影響を全て見通せるからこそ、自分のマネジメントを全て自己責任で行わなければならないのだ。
つまり、独立するということは個人事業主と同じで、競技に関しての全ての責任を自分たちで持つということなのだ。
もちろん、生半可な覚悟ではできないだろう。
新体操経験者である上に、新体操の普及に熱意のある経営者が少なくとも数人は必要になると思う。
しかし、そういった覚悟を持って大元から動かさない限りは、この競技が今後多くの人に知れ渡る可能性は低いままなのではないかと思う。
・ガバナンスの作成
・大会運営方法の改善
・チケット等のプライシング
・OTTやSNSの活用
・ルール改善
・他競技や地方行政との連携、イベントの開催
・広告を使った周知、データ集め
・スポンサー獲得
・選手の意識改善、育成
パッと思いついたものを並べてみたが、独立をすることによってこれだけのことを現時点から動かすことができる。
いや、動かさなければならない状況になるのだ。
これらを責任を持って成功に導かない限りは、男子新体操という競技がこの世から消えるからである。
僕の発想はぶっ飛んでいるだろうか?
非現実的だろうか?
僕はそうは思わない。
悪いが、学生の大会でお金を稼ぐことも悪いことだと思っていない。
なぜなら、そこで稼いだお金は、学生がさらに新体操に打ち込むための環境作りに当てるからだ。
学生で稼いだお金を、お金ではない形で学生に還元する。
とても綺麗な形ではないかと僕は思う。
まぁそもそも、学生スポーツからの脱却を目指すことの方が大切なのだが。
2、投げ上げの廃止
2つ目のアイデアは「投げ上げの廃止」である。
個人競技における手具の投げ上げは、この競技に必要な環境条件を厳しいものにしている要因の1つだ。
手具が空中にいる間に宙返りやターンを行う投げ上げ。
それを行うために必要な天井の高さは、これを読んでいる皆さんの想像をはるかに超えるものだろうと思う。
一般的にイメージできる学校の体育館の天井の高さでは全く足りないのである。
(そういう環境で練習しているチームはいくつもあるが。)
学校の体育館で行えないスポーツに未来はあるのだろうか?
これが僕の率直な思いだ。
先日のアニメ「バクテン!!」の放送をご覧になった方はご存知だと思うが、男子新体操の競技フロアを用意するには1000万円以上のお金が必要となる。
それに加え、最低でも13m×13mの広さ+天井の高さ。
これだけ環境条件が厳しい競技が普及しないのは当たり前のことだろう。
個人競技の投げ上げを廃止すれば、厳しい環境条件のうちの1つが解消される。
これによりどんな体育館でも競技が行えるようになり、以下のような効果が生まれる。
1、部活動設置のハードル低下
2、クラブチーム運営における物件費用の削減
3、競技レベル格差の縮小
4、大会運営の費用削減
2に関しては、倉庫などの物件の賃貸費用を見てもらうとわかるのだが、天井が高い物件は非常に賃料が高い上に、そもそも物件数が少ない。
そのため、クラブチームの多くは体育館を持っている高校や大学の練習場を借りて練習しているのが現状だ。
これでは今後どれだけクラブチームが生まれても、その所在地がバラバラに散らばることはない。
子どもの習い事では、親が送り迎えをしながら長く継続させることができるのはだいたい自宅から10kmの範囲だ。
つまり、クラブチームの所在地が散らばらない限り、既存チームの練習場所から10km圏内に住む子どものみが新体操と出会えるサイクルしか生み出せないということである。
これでは競技人口は増えないし、そもそも自分でクラブチームを設立したいという指導者も出てこないだろう。
4に関してはとても大きな効果である。
高さの制限がなくなったことにより、小さいサイズの体育館での大会が開催できるようになる。
これにより、運営費用の削減はもちろん、「満員」というステータスも作り出せるのだ。
現状では天井に合わせて大きな体育館を使用しているため、観客動員数に見合わない数の客席が体育館に存在し、お客さんが入っているにも関わらず自ら「ガラガラ状態」を演出してしまっている。
しかし、観客動員数に見合ったキャパの体育館を利用することで、「満員」や「完売」という演出に変わるのである。
これは話題になることはもちろんだが、実際に観戦したお客さんの満足度にも繋がる。
規模に見合った体育館での観戦では、お客さん同士の一体感が生まれる他、選手の呼吸やフロアの音など、生で観戦した人にしか味わえない新体操の楽しさがさらに強く伝わるだろう。
削減した分の費用は人件費や広告費、システム費等に回すことができ、大会運営状況は格段に向上するのではないだろうか。
投げ上げの廃止を提案しているのは、僕が団体選手だったからだとは思わないで欲しい。
投げ上げは見ていてとてもハラハラするので個人的に好きだし、勝敗を分ける1つの大きな要素だということも重々理解している。
しかし、僕は間違った考えではないと思っている。
繰り返しになるが、「男子新体操の素晴らしさを多くの人と分かち合うこと」がみんなの目的だと思っているからだ。
まとめ
僕は競技の本質が失われることなく改善がなされるなら、どんな大きなことでも変えていいと思っている。
確かに、独立や投げ上げの廃止はとてつもなく大きな変更だと思う。
しかし、僕は確信を持っている。
これは競技の本質を変えるものではない、と。
今の僕には何かを動かせる力はなく、こうして提案することしかできないが、いつか同じ意志を持った人が何人も集まり、共に動かせる日がくるのを僕は心待ちにしている。
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井藤 亘(いとう わたる)
🇺🇸フロリダ ディズニーワールド常設ショー
Cirque du Soleil 「Drawn to Life」男子新体操アーティスト🤸♀️
YouTube:WATARUN VLOG
Twitter:@wataru_cirque
Instagram:@wataru_cirque
個人HP:男子新体操/井藤 亘Wataru Ito
・インターハイ団体優勝
・全日本新体操選手権大会団体4連覇
・テレビ東京「年忘れにっぽんの歌」鳥羽一郎コラボ 出演
・BS11「ザ・チーム〜勝利への方程式〜」出演
・TBS「音楽の日」三浦大知コラボ 出演
・Avex主催 「STAR ISLAND」サウジアラビア公演 出演
・中学、高等学校第1種教員免許状
・日本スポーツ協会公認 スポーツリーダー