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知らぬ間に立っていた路(みち)

あれは私が自動車教習所に通っていた時のこと。
19歳の時だ。
学科と実習の間に1時間空いたので、私は休憩室にいた。
音楽を聴きながら見るともなく教習本をパラパラめくっていると、目の前に男の人が現れた。
「あれ、白瀬?久しぶり。」
話しかけられて私は顔をあげた。
小、中学校の時の同級生だ。
苗字は戸田。下の名前は覚えていない。
不良でもなく落ちこぼれでもない、特段頭が良いわけでもなく、どこの高校に行ったかも知らない。
男子だからといって特に異性として意識をしたこともなく、誰かに告白されたとか誰かと付き合ったという噂もなかった。
とにかく印象的なエピソードが一つもない、そんなただの元クラスメイト。
「あ、久しぶり」
私は言った。
顔立ちはあまり変わっていないのですぐわかった。いや、顔立ちだけでなく髪型もそんなに変わっていない。服は白黒のボーダーにジーンズ。とても素朴だ。
戸田は私が座っている長机の隣の列のイスに座った。
(あ、話すのか)
私は少しギョッとしたが、イヤホンを取って音楽をとめた。

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