アンナ - 泥 #7
仕方がなかった。そう、本当に、どうしようもないのだった。
決して誰とも何ともわかる形では表に出てこないのだ。いくら拾った言葉を繋げても、証拠になってくれない。「アンナが」「ノゾミが」と、彼・彼女らは絶対に言わない。
私を噂していること。私を馬鹿にしていること。それだけが伝わるように、彼らは巧妙だった。「何か私に用でもあるの」と聞くことも許されない。「何も」と答えた彼らはその口で、必ず「自意識過剰」と私を笑う。
実際、私の自意識過剰という可能性を100%捨てることはできなかった。人に関心を持たれないよう生きてきた私が、これだけビシバシと意識の槍を突き込まれて分からないはずもないのだけど、証明することはできない。
だから黙っているしか、どうしようもない。
学校に行くのがとんでもなく億劫になった。朝、挨拶を交わす同級生もいなくなった。授業が終わると、そそくさと帰るようになった。でも学校には通った。
だって別に、私は平気だと思う。日常は大して変わっていない。
教科書を隠されることも、靴に画鋲を入れられることもない。机の中から腐ったパンが出てくることも、机の上に花が生けられていることもない。目が合えばすぐに逸らされるのなんて、ずっとそうだった。目を逸らした相手がその先で誰かと笑い合うようになったくらい、なんてことない。教室にいるだけでどこかからひそひそ声が聞こえるのも、慣れてしまえばどうってことない。
机に突っ伏していれば、呼吸は楽だった。窓の外を見ることもできない退屈な日々に、教室の中を眺めることもやりづらくなったくらいで、そんなのは別に大したことじゃない。息が詰まるのは、今に始まったことじゃない。
ノゾミを巻き込んでしまっているのは申し訳ないと思う。そのことについては、話しておきたい気持ちがあった。間違いなく今一番やってはいけない行動なのはわかっていたから声はかけなかった。この息の詰まりを、ノゾミも感じているんだろうか。
私たちは放課後ひとり同盟。こんなだるい状況でも私たちは立っていられる。私たちはそれぞれに強いのだ。勝手に信じるしか、できることがなかった。
つづき
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