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FYI.13 働き方改革と「リカバリー」

病院では、新入職員への諸々のオリエンテーションを軌道に乗せつつ、いよいよ働き方改革のX-Dayに向けて待ったなしの状況になりました。X-Dayというのは来年、2024年4月1日で、医師の時間外労働の上限規制が法律上適用される日です。一般産業では2019年4月からすでに、月45時間、年間360時間の上限規制が定められていますが、医師など一部の業種については「急には対応できない」ということで、5年の猶予期間が与えられていたのでした。それが来年からは医師も、一部の特例を除き、原則、月100時間、年間960時間の上限規制が定められることになるのです。

この設定自体、一般産業のそれと比べて2倍以上の緩い設定になっているのですが、「こんな制限をかけて、患者を見捨てろというのか」と困惑する医師は少なくありません。ただ、月に100時間以上の残業が当たり前という発想は、もはやどこか麻痺しているように見えます。先日、医師の過労死について病院側に4900万円の賠償命令を下す判決がなされました。患者を診続けるために、自分自身を犠牲にするという今の医師の働き方は見直す必要があるということです。

「【FYI.9】利他的マインドと健康」でも書きましたが、医師の仕事は患者さん一人ひとりのピンチ、時には絶体絶命のピンチを救うものです。そこで日々、患者さんから感謝されるときに得られる幸福感などが、先生方の免疫力を強力に引き上げているかもしれません。特に外科医は本当にタフな先生ばかりと感じます。それでも、質の高いパフォーマンスを維持し続けるためには、「リカバリー」が必要。これを最近、大谷選手がアピールしてくれました。2刀流で他の選手より数段身体を酷使しているかもしれない状況下で、超一流のパフォーマンスを魅せ続けている大谷選手は、WBC中も「リカバリー」という言葉をよく口にしていたように思います。大谷選手をお手本に、プロフェッショナルとして、パフォーマンスの時間だけでなく、それと同じくらい「リカバリー」の時間やその合理的な方法について意識することも重要だという認識が医師の間にも広まると良いなと思います。

あと、「時間がいくらあっても足りない」という状況の中には、少なからず無駄な作業や効率の悪いフローがあるように見えます。効率至上主義というのではなく、まずは物が雑然と散らかった部屋をきれいに片付けるようなイメージで、業務整理を進められると良いと考えます。タスク・シフト/シェアもその一環です。他にも、そもそも人が足りない(あるいは、病床数が無駄に多すぎる)、コンビニ受診や救急車をタクシー代わりに利用するといった不適切な受療行動(ただ一方で、いつでも医療を受けられる体制はとても有難い制度でもあります)など、医療の働き方改革を進めていくために、見直す必要がある領域は多岐に渡りますが、まずはできることから始める。ということで、現場の最前線にいる医療者にそれを全て押し付けるのは無茶振り過ぎるので、ここはバックヤードにいる人間が汗をかくところだと、これを書きながらねじり鉢巻を締めた私です。

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