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占領下の抵抗(注xxxiii)[森有礼の簡易英語について]
イ・ヨンスクは『「国語」という思想 近代日本の言語認識』の中で森有礼が日本の国語として採用を主張した英語が現実に使われている英語そのままではなく
簡易英語(simplified English)
と呼ばれるものだった事を指摘しています。
同書によると
森は、英語には「正書法に語源あるいは発音にもとづいた法則、規則、秩序が欠けていること、大量の不規則動詞があること」が「英語の日本への導入」を困難にしていると考えた。そこで森は、「日本国民の使用のために英語からすべての不規則性を取り除くことを提案する」にいたる。たとえば、動詞活用ではsaw/seenやspoke/spokenのような不規則変化を廃止して、seed, speakedとすること、また、正書法に関しては綴りと発音を一致させるために、thoughではなくthoと、boughではなくbowと書くことを森は提案している。
という。
このような簡易英語の発想は、拙論でも触れた人工言語エスペラントに近いと言えるのかもしれない。
引用文献: 『「国語」という思想』
1996年12月18日 第1刷発行
2002年9月5日 第11刷発行
著者: イ・ヨンスク
発行所: 株式会社 岩波書店
引用した個所の内容は、本書の注によれば、「森有礼全集 第1巻」からの引用に基づく。森のアメリカの言語学者ホイットニー宛書簡より。
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この記事は↓の論考に付した注です。本文中の(xxxiii)より、ここへ繋がるようになっています。