ゼロからのデータマネジメント
データマネジメントを始めるには、何から手をつければよいのか。
CDPを活用したデータ基盤構築・運用コンサルティングを提供する株式会社UNCOVER TRUTHでCFOをしている渡邊です。UNCOVER TRUTHにジョインしてから約5年が経ちました。
昨年から今年にかけて、大きな組織変化があり、現在は経営企画担当と2人で、コーポレート業務全般(経理財務、法務、経営企画、中途採用、新卒採用、労務、総務、情シス)を回しています。さらに、組織課題に関連するプロジェクト立ち上げて社内改革に取り組み、ファイナンスにコミットするという日々です。
noteは今年5月から始めて、11記事を書きました。みなさまのおかげで、合計10,000ビューを超えました。来年も、目論見書分析の記事を中心に書き続けていきます。
さて、このnoteでお伝えしたい「データマネジメント」は、データを経営に生かすためにゼロベースの状態から一番最初に取り組むべきことを書き連ねたものです。
現場で課題が発生し、データが整備されてないゼロベースの状態で何かを作らなくてはいけない状況において、スプレッドシートの新規作成ボタンを押してから非常に短い時間でアウトプットを出すことができたり、混沌とした状態から、
状況の整理(目的→現状→課題→解決策)をして、課題解決プランを実行することが自分は比較的得意(というかむしろ好き)な方です。
このnoteは、スタートアップ企業のコーポレート責任者またはメンバーの方、スタートアップでなくとも新規事業担当や経営企画担当の方、定性的な事象(上司のふわっとした依頼)を整理して定量的なアウトプットを出したい方に参考になれば幸いです。
1 最も重要なのは課題整理
・ 手段が目的にならないために課題整理は重要
・ 目的が明確なら、やらないことを決められる
● 手段が目的にならないために課題整理は重要
現場で起きている課題を整理するための、フレームワークや可視化ツールには、SWOT分析や3C分析など伝統的なものから、ロジックツリー、プロダクトサイクルなど、目的やシーンに合わせて様々なものが存在しており、それらのフレームワークをどのように活用するか事例の記事も数多く、情報は溢れております。
使い慣れている方は問題ありませんが、フレームワークを使い慣れていない方には、そもそもフレームワークに組み込まれている項目の定義がわからず、フレームワークの理解からスタートしがちです。フレームワークの使い方と項目の定義を決めたあとに、自社の情報を当てはめてみようとすると、定義にぴったり当てはまる情報はあまりなく例外が出てくると、項目の再定義に走り時間がかかることがあります。
まず一番最初に行うのは、「課題整理」です
「これは当然やっている」という方も多いと思いますが、ここを言語化して常に振り返れる状態にしておく必要があります。
ここが出来てないと、フレームワークを作ることが目的になったり、情報整理のためのツールを導入が目的になりがちです。経営が扱う大きな課題も、現場で日々起こる業務課題も、この「課題整理フロー」を使って整理します。
例えば、残業時間を減らしたいというイシューが発生した時、その目的は「残業時間を減らす」ということではなく「顧客への提供価値を高めたい」ということかもしれません。多少話が飛躍しているように見えますが、以下のような整理です。
この考え方がないと、本来の目的とは離れた解決策の一部である「残業時間を減らす」が目的になってしまい、解決策が「工数管理ツールを導入する」になってしまいます。
ちなみに、この課題解決フローの考え方を学ばせて頂いたのは、@yuzutas0様の「データマネジメントが30分でわかる本」や、こちらの資料になります。
・ 目的が明確なら、やらないことを決められる
今年10月、社内に散在する情報を整理するために「ナレッジ活用プロジェクト」を立ち上げました。弊社のようなIT企業では、B/Sに計上されるような資産はほとんどなく、顧客データ、業界別改善施策データ、業務型化フレームワーク、社内業務自動化ツールなど無形資産が会社にストックされるべき資産です。現状、これらの資産は属人的に管理されており、検索性が低いため、顧客への提案価値を高めるために早期に着手すべきだと判断しました。
目的を決めたのち、社内にあるすべての情報を洗い出して現状把握し、ToBeを作成しました。こうありたいという目指したい姿です。
プロジェクトを進めていくうちに、「この2つのデータベースはどのように使い分ければよいのか曖昧」「データインポートするためにスプレッドシートの情報を整理する必要があり、1,000件以上をひとつひとつ精査する必要がある」「データが欠損している」・・・など、常に問題は発生し続けます。そのような時は、「本当にそのデータは必要なのか?」という問いを立てて情報を整理する必要があります。
プロジェクトの目的が明確であれば、目的に沿わない情報を自信をもって排除できるので整理すべき情報が絞り込まれます。顧客価値に必ずしも寄与しない情報は捨てるか、スタンドアロンのデータベースとしてナレッジサイクルの外で管理します。
2 経営データの整理
データマネジメントの対象となる「経営データ」は、
会計データ、リソースデータ、ナレッジデータがあり、各データの領域において意思決定がなされている。
・データマネジメントの対象となる「経営データ」とは
まず、データマネジメントの対象とする経営データが何かを定義します。
データは大きく分けて、会計データ、リソースデータ、ナレッジデータがあり、それぞれのデータについて、会計データの管理は経理財務チーム、リソースデータは人事や現場マネージャー、ナレッジデータは各部署ごとに異なる粒度で管理していると思います。弊社は、少人数で複数業務を回しているので、幸いにも全データに用意にアクセスすることができます。
ここから、それぞれのデータについて簡単に解説していきます。
会計データ
会計データとは、大まかに言うと「売上」「コスト」「利益」。そして、利益が積みあがることで、資本(利益剰余金)が積みあがる構図になります。経理の担当者であれば、勘定科目レベルですべての正確なデータを把握しています。
会計データを使って、予算実績管理と差異分析、粗利率の変化から会社全体のヘルスチェックが出来たり、資金調達の必要性を判断できたりするなど、会計データは、会社がコーポレートアクションをするために必要なデータとなります。データマネジメントという観点では、正確な情報を記録することに重きが置かれております。
会計データから見える世界で行われる意思決定
・ 売上達成のために、販管費予算内で広告費をかける
・ 粗利率が低下しているため、外注費を減らす
・ キャッシュフローを考慮して、資金調達に動く
リソースデータ
リソースマネジメントで管理するのは、人数、採用計画、工数(担当者別工数内訳、プロジェクト別工数)などになります。
まず、この中で最も管理が大変なのが工数管理です。コンサルタントに、日々工数入力をしてもらう必要があり、現場マネージャーは正しく工数入力されているかどうか日々チェックします。各コンサルタントにとっては、面倒な業務の一つであるため、管理側としては、いかに簡単にかつ正確に入力してもらうかに重きを置きます。
リソースマネジメントにおいて、常に課題となるのが人手不足です。現場から上がってくる「人手が足りない」「業務委託を採用したい」「専門的なスキルを要するため、パートナー企業に依頼したい」というイシューに対して、定量的にどの程度必要なのか、必要なスキルの定義は何か(=採用要件)をヒヤリングして、リソースの確保する必要があります。
リソースデータから見える世界で行われる意思決定
・ 案件数に対して社内工数が足りず、採用を開始する
・ 一時的にリソースが足りず業務委託を活用する
・ 専門スキルを要するためパートナー企業に発注する
ナレッジデータ
ナレッジデータは、取引先情報ひとつとっても、リード管理、案件管理に紐づく取引先、会計データに蓄積された取引先など、管理する部署やデータ蓄積方法が異なっています。それぞれの部署が自分たちが管理しやすい方法で、取得・保管・加工を行っているため、一元管理するだけでもかなり労力が必要です。
ナレッジデータから見える世界で行われる意思決定
・ 取引先を一意のkey IDとして、各DBを連携させる
・ 過去事例を提案に活かす仕組みを作る
・ 業務効率化のためフローを整備する
3 データマネジメント
2において、経営データの整理とそれに関わる意思決定の例について説明しましたが、それぞれの見える世界だけで意思決定してよいのでしょうか?
それぞれのデータから見える領域で判断した意思決定により、個別最適で一時的にイシューを解決できるものの、個別最適が自然に組み合わさって全体最適が出来上がることはありません。さまざまな経営データを、多角的に捉えて判断する必要があります。
例えば、「売上を上げるためにどのような施策を打つか」というイシューに対して、会計データだけで判断しようとすると、ざっくり言うと変数は2つです。
・「顧客単価」を上げる
・「顧客数」を増やす
会計データの領域内のみで意思決定すると、以下のような課題が出ます。
・顧客数と案件が増えたため、人数が足りない
・サービス内容を刷新し、工数単価を上げて提案したが、結局値引きされて元の単価に戻った(ただし、新しいサービスなので工数が増えてしまった)
「売上を上げようと施策を打ったものの、新たな課題が出た」ということを最小限にとどめるために、会計データの領域だけで判断せず、変数を多角的に認識します。
顧客単価は「必要工数」と「工数単価」に分けられます。弊社のようにコンサルティングサービスの場合には、プロジェクトマネージャーやデータアナリストの稼働工数をサービス内容毎に見積もった上で必要工数に、工数単価を掛けて見積金額(売上)を算出します。
さらに、サービス提供時に見積もった必要工数と、実際かかった工数の差分を把握する必要があり、差分の要因を理解するために現場へのヒヤリングにより解決していきます。そして、工数単価については、「UT(弊社)が提供する付加価値」に関連するので、ナレッジデータの領域になります。
データマネジメントをゼロから立ち上げる場合、扱える変数は6つくらいが個人的には限界だと思ってます。フレームワークにこだわって作って変数が多くなると、現場は運用できず、結果として形骸化することが多々ありますので。まずは運用に乗せること、その後慣れてきたら、変数を増やしていくスタイルがよいと思います。
運用を支えるコミュニケーション
ナレッジ活用プロジェクトなど、社内プロジェクトを立ち上げた後は、プロジェクトの進捗状況を必ず週次で報告します。週次で報告することで進捗共有のみならず、社内に協力を得たいタスクが発生した場合にも依頼しやすいというメリットがあります。
特に、業務改善を目的とするような売上に直結しないプロジェクトは全社的に考えれば後回しになりがちで、立ち消えになることが多々あります。プロジェクトオーナーが意思を持ってやり続けないと完遂しません。
4 CFOの役割
課題解決フローの整理は第一歩。その先のCFOの役割とは
・ 付加価値を生むサイクルを作る
・ 社内外の定量的/定性的事象を可視化して、経営意思決定に貢献
・ 部署間をつなぐ仕組み作り
ここまで、課題解決フローとデータの整理について説明してきましたが、弊社において、データマネジメントを経営に活かす体制づくりは、まだまだ始まったばかりです。
弊社は2016年と2018年に、それぞれシリーズA・シリーズBのエクイティファイナンスを実施しました。調達した資金を使って事業投資しているものの、Sales Efficiencyを考慮した勝ち筋を見出すこと、投資に対して十分なリターンが得ること、それぞれに関してまだまだ成果が足りてないですし、成長余地はあります。
私が社内プロジェクトを続けて立ち上げている理由は、
・業務改革によって社内工数負荷を軽減させる
・メンバーが、付加価値の高い活動に割く時間を増加させる
・それにより顧客へ提供価値が高まる
・サービス導入事例を紹介し、広告効果を高める
・セールスコストを適正化し、財務的リターンを得る
・財務余力を新たな事業の投資に回してチャレンジする
これらの付加価値を生むサイクルを断続的に回す組織を創るためです。
あらためて、私はCFOとして、社内外に起こりうる様々な事象を定量的/定性的な情報で可視化し、それらの情報を包括的に把握した上で、企業のトップであるCEOがビジョン達成に向けて起こす行動を支える役割を担っています。
また、部署間のコネクション強化も重要な役割の一つです。部署内のサイロを分解し、課題解決フローを使って、事業活動全体を可視化して透明性を高めています。
時には、特定の部署に寄らない課題が発生することがあります。どこかの部署に課題を押し付けることなく、部署間をつなぐ仕組み作りに貢献します。
5 2020年の取り組み
冒頭でもお話しましたが、弊社のコーポレートチームは、私と経営企画担当の2名で全業務を回しています。
ちなみに、すべての業務を回すために睡眠時間を削っているわけではなく、ルーティン業務を出来る限り効率化したりアウトソーシングしたり、効果的に外部リソースを活用できていると思います。少ない人数で回すために、2020年に行った取り組みをいくつかご紹介します。
創業以来、社内で抱えていた営業経理業務(見積書・申込書・請求書発行業務)を、マニュアル作りから実際の業務まで、すべて、はたらクリエイトさんにお願いしました。マニュアルゼロの状態から依頼し、2-3ヶ月で、ほぼ私の手を離れました。
今秋から再開した採用業務について、豊富な実績と多くのプロスタッフを抱えるCASTER BIZ recruitingさんに、お願いし、短期間で高い成果を実現しました。
市ヶ谷に構えていた200坪の自社オフィスを解約して、曜日オフィス「WEEK」に入居しました。月水金のみオフィス出勤で火木はリモートです。経営的に”超”身軽になり、建物附帯設備がゼロになりました。
新しい働き方について、弊社COOがnoteを書いてます。
まだまだ着手したいプロジェクトはたくさんありますので、自分たちの時間を付加価値が高い業務にどんどんシフトしていきます。
6 今後やりたいこと
企業の長期的な戦略を、短期的な施策・成果と結びつけ、財務的な結果を追い求めながら、ナレッジなど非財務的な成果が蓄積され続けるモデルを確立し、企業価値向上と社会的価値創出に貢献したいと考えております。
最後まで読んで頂きまして有難うございました!
2021年も、みなさんに少しでも気づきを与えられるような記事を書いていきます。来年も宜しくお願い致します!