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イベントから動画へ。声優で伸びる「キャスト×キャラクター」動画【日経COMEMO】

■コロナ禍で需要増える「キャスト×キャラクター」動画

コロナ禍で、アニメ業界でも、ライブや舞台等のステージものの開催が困難になりました。
声優やアニメソングの歌手、2.5次元の舞台俳優なども、大きなステージに立ちにくいという現状があります。

一方で、声優や俳優、歌手などの総称「キャスト」によって、定着したのがYouTubeなどを使った「配信動画」です。

キャストの配信動画は、個人の自主企画も含めて増加していましたが、コロナ以降は、従来であればTVアニメを出発点にしていたようなコンテンツ企業も、本格的な制作に乗り出しました。

アニメ、レコード会社などの企業が力を入れたのは、キャストが演じる「キャラクター」の絵をつけたことです。

キャラクターがいると、キャストのファンだけでなく、アニメやゲームなどの「キャラクターファン」にも向けても展開できます。

キャストは、キャラクターとして歌い、時には本人がステージで歌などを披露する。アニメ化すればキャラクターを演じる声優を務める。キャストとキャラクターが重なるように展開していることが特徴です。

コロナ以前の2017年に、YouTube発の「キャスト×キャラクター」動画で大ヒットしたタイトルに『ヒプノシスマイク』(2017年~)があります。

ヒプノシスマイク Division All Stars「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」Music Video
2017/10/19

男性声優がラップバトル 「ヒプノシスマイク」に中毒者急増(2018年11月/日経クロストレンド)

声優がラップを歌い、各ユニット(チーム)ごとにチームでラップ対決をする。HIP HOPやラッパーといった本職のキーマンも、楽曲提供やキャストといった形で参加しています。

キャラクターの声を演じる声優が、歌とステージを務める。現在のキャラクターコンテンツでは王道となった提供方法ですが、『ヒプノシスマイク』の発表媒体がアニメではなく、YouTubeの「動画」だったことも話題となりました。

「ラップ」と「歌でバトル」という新鮮さが、声優ファンやキャラクターファンに支持され、ビッグコンテンツへと育っていきました。

楽曲リリース、キャストによるライブ等をヘテロアニメ化。より知名度を上げた『ヒプノシスマイク』ですが、プロジェクトを動かしているのは、キングレコード内レーベルのEVIL LINE RECORDSです。

EVIL LINE RECORDSは、『ももいろクローバーZ』や『イヤホンズ』などを育てたレーベル。
「キャストにアニメ要素を入れる」点に大きなノウハウがありました。

また、キングレコード自体が、『新世紀エヴァンゲリオン』等、アニメソフトの幹事企業となることも多く、水樹奈々のようなアニメに強い歌手・声優を輩出してきた企業でもあり、アニメファンの好みを熟知しています。

『ヒプノシスマイク』では、これまでアニメやゲームで普及していた「キャラクターと声優のコラボ」を活かしたまま、プラットフォームを「YouTube動画」にした点がポイントでした。

IP(知的財産)ビジネスとして見たときには、基本、無料の動画発信でありながら、キャラクターとキャストを知ったファンが、音源CDやライブ、グッズに関心を持ちます。
動画から、ステージに。そしてアニメ放送へ。異なる層を巻き込んで、ファンを拡大した成功例です。

■自主制作からアニメ化したヒット作品も

キャラクターコンテンツを発信する際にどんな媒体を選択するかは、初期投資の費用とも深く関係しています。

YouTube等の動画を使えば、いきなりTV放送枠を買い取るよりも、抑えた費用で作品を発表することができます。小さなサイズから展開できるのが動画コンテンツのメリットです。

動画の場合、アマチュアから出発したヒットコンテンツも少なくありません。

『浦島坂田船』(2013年~)は、2013年に「ニコニコ動画」やYouTubeの「歌ってみた」動画投稿から人気を得て、2016年にビクターからメジャーデビューしたグループです。

2019年にはTVアニメとなり、本人たちがキャラクターの声優を務めています。ここでも「キャラクター」が、「キャスト」と重なる形で視聴者に届けられています。

浦島坂田船 公式チャンネル

動画を配信し、そこからキャストやキャラクターのファンになってもらう。こうした流れはニコニコ動画発信の流行以降(2009年あたりでしょうか)、個人や仲間といったアマチュア発信の形で普及していきました。

そこに企業が加わることで、ライブなどが可能になり、コンテンツとして収益化する流れができたのです。

「キャスト×キャラクター」動画は、アニメ化された『ヒプノシスマイク』『浦島坂田船』などのヒットにより、私のような”キャスト動画初心者”のアニメファンにも可視化されるようになりました。

■キャスト動画は音源リリースと結びつく

かつてコンテンツ業界にとって、キャラクターとキャストを連動した作品発表の場は、アニメやゲームがマストでした。
ところがアニメもゲームも初期費用が大きい。

もしサイズを小さくするならコミック発もできますが、こと「音源」をリリースしたい場合には、楽曲を流せる動画が向いていました。
動画プロジェクトの幹事会社にレコード会社が多いのも、こうした理由からです。

「キャスト×キャラクター」の肝となるキャストですが、アニメ等で人気があり、なおかつステージもこなせるキャストを多数起用するには、難しい点がありました。

そうした人気声優は「土日はステージ稼働で2年先までスケジュールがいっぱい」と言われるくらい、スケジュールが取りにくかったのです。

動画であれば、アニメ以外のキャストも視野に入れることができます。視聴の導線や行動がアニメファンとは異なるからです。また声優以外のキャストにも固有のファンがついています。

問題になった人気声優のスケジュールですが、動画の場合、「スタジオ収録」という形で「平日」も含めて収録できるのも強みです。

もっとも、コロナ以降は、イベントが縮小したため、土日のスケジュールが取れるようになった…という事情もあります。

■コロナ禍以降、声優動画コンテンツが本格参入

コロナ禍以降、「動画」はキャストにとっても重要なパフォーマンス発表の場になりました。またファンにとっても同様でした。
視聴習慣もつきました。ステージの減少で“推しロス”のファンが、動画を継続視聴するようになったのです。

送り手と受け手のニーズによって「キャラクター×キャスト」動画が増加しましたが、その流れは、規模が大きい媒体にも波及しました。

インターネットテレビサービスAbemaTVは、『声優と夜遊び』(2018年~)等、声優番組を早い時期から提供していました。
そのノウハウを持ったAbemaTVは、2020年5月の緊急事態宣言下に、『声優パジャマ会議』第1回を無料配信しました。

アニメで活躍する男性声優が、各自の部屋からリモートで同業仲間である声優たちとトークする。ふだんイベント稼働で忙しい人気声優がこれだけ一堂に会することはめったになく、この番組は、声優ファンを超えて大きな話題となりました。Twitter実況が盛り上がり、番組公式ハッシュタグ #声優パジャマ会議 は、Twitterの世界トレンド第1位を獲得しました。

現在の声優は、ラジオやステージ等の経験が豊富で、トークや歌、コント、朗読劇、人によっては舞台やダンスなど、様々なパフォーマンスが磨かれています。声優と動画番組との相性は良く、バラエティもこなすようになったのは、コロナ要因だけではなく、コンテンツ業界の自然な流れだったと思います。

■新たなキャスト動画のファンを生む、声優の“キャラ”化現象

さて、「キャスト動画」にはひとつのハードルがありました。コロナ以前は、私のような「二次元キャラクターファン」には、実在する人物であるキャストだけの動画は、あまり響かなかったのです(キャスト動画全部にキャラクターがついているわけではないのです)。

ところが、先に述べたAbemaTVの人気番組『声優パジャマ会議』はアニメファンからも大きな支持を得ました。

要因として考えられるのは、声優の“キャラ”化です。

『声優パジャマ会議』の出演者は、若手から中堅まで「長くアニメキャラクターを演じている声優」が中心です。
加えてアニメファンにとって重要だったのが、出演者が「アニメファンであれば、声優本人の人となりがわかる」ほど、声優本人の“キャラ”が浸透している人で固められていたことです。

本人の性格と重なる部分があるアニメキャラを演じている等、代表作のキャラクターと重なるような個性を持ち、アニメ紹介番組のトークだけで「人となり=“キャラ”」がわかる声優は、アニメファンにとってはもはや「キャラクター」として認識されていたりします(※個人差があります)。

あるアニメ系レコード会社のプロデューサーにお話をうかがったことがあります。「人気が継続するアニソン歌手の条件」として6、「歌唱力以上に、ラジオなどで人となり(キャラ)を知ってもらうことが重要」ということでした。

アニメファンを含めたファンを獲得する場合、動画に向くキャストは、知名度以上に「本人の個性(“キャラ”)」がわかる人であることが大事だと思います。

今後の「キャラクター×キャスト」動画は、『ヒプノシスマイク』のように、「キャラクターファン」へのアプローチも視野に入れることになりそうです。

さらに、こうした動画は、ひとつの課題に直面しているとも思います。

【次回】はそちらについて書こうと思います。

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