オンラインイベントでの一体感は「実況+順路」で出せる!【日経COMEMO連載「オタク視点で見るアニメ」】
突然ですが、Twitterでバズってしまいました。2万6千「いいね」をもらったのは、どんな頑張ったコンテンツなのかというと、「京都旅行中に見たアフタヌーンティーの光景がすごかった!」ただそれだけのつぶやきなのでした。
今回のお題は「オンラインで現地のような臨場感を体験するには?」です。
今回のバズりで体験したのは「Twitter+実況」というフォーマットの相性の良さでした。正直アフタヌーンティー自体は、アニメライターである私のフォロワーさんにとっては、一部の人にしか響かないコンテンツ。
特に男性にとっては「ちんまいお菓子が 皿に盛られて 塔に乗ってる」(by夫)と思うだけの人も多いようです。
バズりの理由を考えてみると、
・「すごい!」しか言ってない、わかりやすさ
・「来てしまった」という、今まさに起こっているライブ感
・写真で食べ物だけでなく、周囲のロケーションまでが見渡せる
・和の風景+和の食べ物=1つの「世界観」に見えた
ということかもしれません。Twitterを使っている人たちが、「和の世界」のイメージを共有しているからこそ可能だったバズりだろうなとも思いました。
頑張って140文字書いた仕事告知よりも反応が多いのは、ライターとしては微妙な気持ちになりますが(笑)、それだけ情報過多時代には「わかりやすさ」が求められているということなのでしょうね。
■オンラインで盛り上がる「場」がほしい!
前回書きましたが、コロナ禍により大規模イベント開催が難しくなった今、リアルの場の代わりに、「オンラインで盛り上がる場づくり」ができないか。ということを改めて考えてみました。
興味深かったのは、こちらの記事です。
《動画視聴によるセミナーは、専門家の講演や座談会など16コンテンツを用意しました。席数制限がないので、最も人気があったセミナーでは約1100人が予約して、そのうち半数程度の人が視聴しました》
《展示会では特定の目的がなくふらりと立ち寄ったブースでの出会いがありますが、これをオンラインでどう実現するかという課題が見えてきました》
オンラインの場合、お客さんの数が1000人単位で増やせるのですね…!
けれども、お客さんがふらりと立ち寄る(無軌道な動き)に対して面白いコンテンツと出会わせるのは難しい……。
そういえば、私が好きなアニメ『KING OF PRSM』のCDとBlu-ray販売では、特典に「オンライン応援上映会」をつけたところ、一番高い枠(36,300円)が予約開始1分以内に完売。後日、追加販売が出る事態になりました。
1分て、すごいですよね。映画館の応援上映で育ったファンは、コロナ禍で発声禁止になったことで、みんなで盛り上がる応援上映にとても飢えていたのです。
オンラインで大勢が盛り上がる潜在ニーズは高いなと感じる出来事でした。
■臨場感とは「自分との関連性の深さ」
先日、京都に行ったときに強く印象に残ったのが、京都で毎年開催されているイベント『京まふ』(「京都国際マンガ・アニメフェア」)です。私も行きたかったのですが、イベントは京都旅行の一週間後にあたるため、残念ながら現地参加はできませんでした。
にもかかわらず、今回、まるで自分も参加できたかのような気持ちになったのです。
理由は5つありました(細かい話なので、ここは飛ばしていただいても大丈夫です)。
①京都市地下鉄の構内アナウンスが、京まふに参加する声優・八代拓さんになっていて、それを聴けたこと。
②八代拓さんが、自分の推しキャラである『キンプリ』カケル役を演じていること。
③京都にいる間、京都市内の「京まふ」ポスターと、地下鉄アナウンスについてTwitterで実況ツイートをしていたこと。
④自宅に帰ってから、ニコニコ動画で京まふ『キンプリ』八代拓さんトークショーと、会場のお客さんによる『キンプリ』応援上映の中継が見られたこと。
⑤関西の友人が、実際に会場入りして実況してくれたこと。
京都―好きなキャラクターの声優さんによる地下鉄アナウンスー好きなキャラクターに関する動画配信―友人のレポート……
という脳内連鎖が発生し、自分も「京まふ」に参加できたかのような臨場感が感じられたのでした。
臨場感とは、「自分との関連性の深さ」とも言い換えられると思います。
逆に言うと、盛り上がる「場」に必要なのは、
・現地にいるような臨場感
・仲間と共有できるトピックがある
ということだと思いました。
■実況の弱点は「わかりにくさ」
これまで、コロナ禍によりオンライン開催になったイベントに幾つか参加してきました。
たとえば日本一大きい同人誌即売会「コミックマーケット」。以前もCOMEMO連載で書きましたが、コミケットがコロナで中止になり、スタッフがTwitter上で #エアコミケ というタグを使用してイベントを盛り上げました。コミケにまつわる「会場設営」「サークル設営」「一般参加者入場」「開会」「宅配便案内」「閉会」といったコミケ運営のタイムテーブルを、過去写真を使ってリアルタイムで実況し、コミケ参加予定だった私たちも、#エアコミケ のタグを使って同人誌の販売と購入を楽しんだのです。
同人作家さんが10時開場とともに通販告知をTwitterに上げて、ファンが同人誌通販サイトで同人誌を購入。作家さんに「買わせていただきました」とお礼を言ったり、本発行に対してねぎらいの言葉をかける、という流れが自然にできて、ネット上で物販が成立するお祭りになりました。
ここでも鍵になったのは、リアルタイムに合わせた「Twitter実況」でした。
ですが、そんなエアコミケも、2日目、3日目に関しては、初日ほどの勢いにはならず、もう一歩、というところにとどまりました。
■空間をコントロールするのは「時間」
オンラインで盛り上がる場作りについて、「実況」という手法のウィークポイントは、「わかりにくさ」です。
せっかくのみんなのつぶやきも、ライブ感や即時性を重視しているので、「これすごい」「本買った」的なひと言ツイートが多くなります。そうなると、同人誌即売会に詳しい人以外には、伝わりにくくなってしまいます。
そして、みんなの行動がバラバラなので、つぶやく言葉もバラバラ。知らない人にはイベントで何が行われているのかがわかりにくくなってしまうということがありました。
「実況」の面白さを、常に共有できている場があります。たとえばニコニコ動画の「アニメ生放送」です。お客さんはアニメ動画を見ながら画面上にコメントを書いていくのですが、毎回とても面白く盛り上がります。私も生放送の実況に参加するために、ニコ動プレミアム会員(月500円)になることが良くあります。
なぜ面白いのかを考えてみると、アニメの物語というのは「一本道」であり、
そのために「全員が同時に、同じ出来事を見ている」状態が実現できているのだと気がつきました。
(『ソードアートオンライン』の)「キリトが覚醒した!」というシーンであれば、全員が同じ瞬間に、『水戸黄門』の印籠のごとく、「待ってました!」という気持ちになることができます。
今回の「京まふ」トークショーでは、ステージ上で、アニメ『キンプリ』も上映されて、会場のお客さんが応援上映のようにペンライトを振る様子までニコ動で生中継されたので、遠方で画面越しにいる私たちも、まるで会場にいるかのような臨場感が感じられました(みんなで一斉に「天然ガスが出たー!」とキャラクターのセリフをつぶやくのが面白すぎる)。
■オンラインで全員が同じものを見ている状態を作る
イベントは、大きく分けて二種類あると思います。
ひとつは、
物語やライブなど時系列が一本道で、全員が同じ時間に同じものを見るもの。
もうひとつは、
展示や即売会など、お客さんが自分で歩いて回り、各自が自由な動きをするもの。
冒頭で上げた展示会やコミケットもそうですが、お客さんが自由に行動するイベントでは、オンライン上での臨場感や一体感が生まれにくい点が難しいところだと思いました。
こうしたイベントについて、オンライン上で盛り上がりを作るためにはどうすれば良いか?
それには、「全員が同時に同じ出来事を見ている」状態を、意識的に作り出せたら良いのではないかと思いました。
「京まふ」で面白かったのは、トークショーの時間になると、ファンが全員、画面の前に集合したことです。みんながトークの進行にそって感想を書く様子は、まるでお茶の間で同じテレビを見ているようでした。
そこで考えてみたのは、展示会等でも「時間を区切り、テーマを設けて実況する」ことです。
私が考えてみたプランです。
・Twitterのイベント公式アカウントが「●時からの1時間は、○○(作品/会社)を紹介します」というふうに、タイムテーブルの中に「紹介コーナー」を作る。
・現地を実況するレポーターを置く。各コーナーに詳しい人を数名。
・コーナーごとに実況する人を変える。Twitter担当者といえど、すべての時間につぶやくことは物理的に難しい。そしてすべてのコーナーの内容に通じているわけではないはず。そこで、各分野に詳しい数名を「公式実況者」として入れることで、現場で行われている内容がよりお客さんに伝わりやすくなる。
■時間に一本の「順路」を作る
お客さんが全方位自由に(無軌道に)移動する空間について、こんなことを思い出しました。
映画『カメラを止めるな!』監督を務めた上田慎一郎さんから、(おそらく日本初の)VR映画『ブルーサーマル』の取材時にこんなお話をうかがったのです。
「VR映画では、お客さんが360度全方位が見られる空間に身を置くことになる。すると、観ているお客さんにとっては、今どこを見たら物語が把握できるのかがわかりにくくなってしまう。
そこで、登場人物に指をさしてもらう、ひとつだけ動く物をつくるなどして、“今見るべきはここですよ”と暗にガイドをする」ということでした。
そういえば、美術館でも、美術品を置くだけでなく、「順路」を作って一本道にしているからこそ、お客さんに「今、何を念頭においてこの美術品を鑑賞すれば良いか」という思考の導線を示すことができるのです。
美術館と言えば、私はかつてGoogleストリートビューの大英博物館360度バーチャル見学を見て、挫折してしまったことがあります。最初は楽しかったのですが、自分がどこを見て回れば良いかというポイントがわからなくなってしまったのでした(※現在はテーマ別に分類されています)。
展示会、即売会イベントに関しても、360度全方位画面を見る時と同様の、「今注目すべき方向のわかりにくさ」を感じました。
そこで「空間」の代わりに「時間」を使って、一本の順路を通す。
イベントも実況内容にタイムテーブルを設けることで、順路を一本道にできて、お客さんにとっては、「同じ時に同じものを見る」ことが可能になるのではないかなと思いました。
情報があふれる中で、同じ時に同じものを見る「時間とコトの共有」こそが、イベントが持つ臨場感と一体感の本質ではないかな、と思ったのでした。
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