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どん兵衛のアニメCMにみる「理にかなっている感」(現役マーケターのCMレビュー)

個人的に、CMはひとつの崇高な作品だと感じています。

起用されている俳優や、打ち出されているメッセージには、明確なターゲットがあり、そのターゲットの購買意欲を駆り立てられるように緻密な設計がなされていうように思え、感嘆します。

かといって、真面目な打ち出し方では人々の目には止まりにくいでしょう。そのため、より印象に残るようなクリエイティブも求められます。

しかもそれを、15秒〜30秒で実現するという(つまり究極的に削ぎ落とされている)

またCMは当時の時代背景も色濃く反映されており、CMを見るだけで、その時代の人が、何を考え、何を求めていたのかがわかるのです。

本noteは、CMに込められた(であろう)想いを勝手にくみとって、書く記事です。

※本内容は個人的な感想です。あくまで一意見として捉えていただければと思います。

今回取り上げるのは、『日清のどん兵衛』です。

『日清のどん兵衛』のCMシリーズとは?

日清さんは、商品ごとにユニークなCMを展開している印象があります。その中で、どん兵衛といえば、”どんぎつね"さんが思い浮かびます。

星野源さん演じるメガネの青年と、吉岡里帆さん演じる"どんぎつね"とのやりとりは、個人的にとても好きでした。

ただ、そのCMが終わってしまい、代わり?に新しく誕生したのが、なんとアニメーションでした。

「どんぎつねシーズン2 秋祭 篇

第一弾の秋祭篇は、星野源さん・吉岡里帆さん演じるあの雰囲気が、そのままアニメ化されているように感じます。

なんとなく内気な感じの青年が、秋祭りを通じて、どんぎつねと距離が近づいて、気がついたら姿が消えてしまっている・・

祭りの後の儚さというか、寂しさというか、そこにもマッチしている気もします。

どん兵衛のブランドサイトによると、どんぎつねは、「どん兵衛を食べている時、ごくたまに湯気の向こうに現れる」存在なのだとか。

まさしく、そのごんぎつねの生態を表しているCMで、アニメ化第一弾に相応しい内容だと感じます。

キャラクターデザインは、窪之内英策さん。

同じ日清食品では、「HUNGRY DAYS」の広告のデザインも担当されていました。「アオハルカよ」でお馴染みのONE PIECEのキャラクターを使用した広告ですね。

「どんぎつねシーズン2 耳そこなんですか?篇」

次はどうなるのか?続きはどうなるのか?と思っていたら、第二弾はまさかの舞台も設定もガラッと変わりました。

第二弾は、ロマン漂う大正時代が舞台。

「昭和ロマン」「平成ロマン」と最近何かと昔の時代を懐かしむ雰囲気がある気がしており、大正ロマンもその当時の雰囲気がよく出ている気がして素敵です(もちろん僕はその時代を生きていないので想像ですが)

今回はきつねではなく、天ぷらの入ったそばをアピールするCMです。

ここで、一つ気になるのは、なぜ大正時代なのか?

その問いの解答でもあり、この大正時代と天ぷらそばをつなぐキーワードが「ハイカラ」です。

ハイカラとは最先端の西洋の服装や生活様式を取り入れたもので、まさしく大正時代が当てはまります。

企画意図を参照すると、関西では、天かすが入ったうどんや、そばのことをハイカラうどん、ハイカラそば、などと言うようです。

(一説によると、当時の関西人が「捨ててもいいような天かすをいれるなんて、関東の人はハイカラだな」と言ったことが由来だとか)

どんぎつね(きつねそば)が、「天かす」がはいったそばを食べている様子を見て、「きつねではない!」と「嫉妬」する姿が愛らしく、また商品のアピールが上手くできていると感じます。

第二弾のCMのキャラクターデザインは、モリタイシ先生。
声優は、小野賢章さん、早見沙織さん(お二方とも、数多くのキャラクターを担当されていますが、個人的には早見沙織さんがヒロインの森美咲の役を担当されている『東のエデン』という作品が大好きです)

どうやら、一回ごとに、異なる方がキャラクターデザインや声優を担当する形式をとることになるようだとこの時感じました。


「最強年越し 篇」

第三弾は、「最強 年越し蕎麦」という商品のCMで、今までとはガラッと変わった雰囲気になっています。

今回は、『映像研には手を出すな!』の大童澄瞳先生がキャラクターデザインを担当されています。

確かに、ごんぎつねは、浅草みどり氏に似ています(実際、初期の浅草みどり氏のタッチを参考にされたそう)

青年の方は浅草みどり氏にどことなく似ていて、こちらは「金森さやか氏の青年版でお願いします」と頼んでいたようです。(企画意図より)

この「最強年越し 篇」で特筆すべきなのは、商品とCMのコンセプトの一体感です。

一般的にCMは時間が短いゆえ、一番推せる箇所を端的に伝えるのが多いと思います。

ただ、この『日清のどん兵衛「最強年越し 篇」』のCMは、アピールポイントを全て伝えています。

画面上に文字として出ているお経部分を文字に起こすとこのようになります。

蕎麦蕎麦 年越蕎麦 最強蕎麦 健康祈願 幸福吸引 太麺弾力 喉越超至福 鬼鬼鬼掻揚 繰返繰返 鬼繰返  一口驚愕 概念激変 旨杉笑 厚杉笑 最強食感 最強七味 最強合出汁 薄利多売 企業努力 (画面上には出ないですが、「買って買っていっぱい買って」というのも音声で続きます)

これを見ると、「最強 年越し蕎麦」のアピールポイントはこのように見受けられます。

・弾力ある太麺
・至福を感じる喉越し
・旨くて厚い掻き揚げ
・食感
・七味
・出汁

こうしてみると、そばを構成する要素ほぼ全てで、まさしく「最強どん兵衛」の名にふさわしく全てが主役で、全てがアピールポイントになっています。

普通、アピールポイントが全てだからといって、全てをそのまま伝えるのでは、ぼやっとしてしまって、印象に残らない可能性もあります。

ただ、このCMでは、それを「お経」という形式で可能にしています。

年越し蕎麦から連想する除夜の鐘を背景に、お経という形式で、全てを伝える。一つ一つのアピールポイントを聞き取ることは難しいかもしれないですが、少なくとも見ている私たちはに、「この年越し蕎麦のアピールポイントは沢山あるんだ」ということは違和感なく伝わってきます。

私はそば業界には詳しくないのですが、年末の年越しそばは確実に商戦の一つだと思い、うまくその流れも汲んでいるCMになっていると思いました。

今年の年越し蕎麦は、この「最強年越し蕎麦」を買うことにします。

『日清どん兵衛』CMシリーズのポイント

ここからは、上記3つのシリーズに共通して見えるポイントを、個人的な観点で書きます。

思い切った、ただし、理にかなっているアニメ展開

日清さんはカップラーメンなど他のブランドではアニメを用いたCMを多く使用しています。

少し昔だと、『FREEDAM』が思い浮かびます。

出典:http://www.ground-tokyo.jp/project/9242770215b866a36d71710.47922829

大友克洋さんのキャラクターデザインと、宇多田ヒカルさんの楽曲も印象的な作品です。

ただ、これはもはやCMの枠を超えたアニメプロジェクトです。

個人的な感覚ですが、単発のCMでオリジナルアニメを用いたものは、今まで多くはなかったと感じます。

いわゆるパロディ的な内容や、人気アニメとのコラボみたいなもの(先ほど書いた「HUNGRY DAYS」もそのひとつ。他には『低燃費少女ハイジ』や『トライさん(『アルプスの少女ハイジ』のキャラを使用)』などもありますね)がありましたが、実写で行っていたのをアニメ化みたいなものは珍しい気がします。

というのも、少し前までアニメといえば、夕方や深夜にやっている30分のアニメ作品、もしくはアニメ映画というイメージが強い気がしていて、CMなどの短い動画でアニメが活用されるようになったのは、結構最近な気がしなくもないです。

ただ、僕らは昔の時代より、短い動画でのアニメには見慣れています。
それはYoutubeなどでアニメのMVが多く出たりしているからかもしれません。

余談で、かつ個人的な意見ですが、アニメMVが広がったのは、『YOASOBI』と『ずっと真夜中でいいのに』の影響が強いと思います。ストリーミングの年間ランキング上位の曲のMVがアニメ、というのは大きいのではないでしょうか。

(2019年に『夜を駆ける』発表して以来、世界を駆け抜け続けているYOASOBI。多くのMVがアニメ仕立てになっています)

(中毒性のある独特の世界観の、ずとまよ)

話を戻しますと、アニメCMの利点は一回一回のCMで完結して作品を作れる点にあるのではないかと思います。

アニメであれば一回ごとに、キャラクターデザイン、声優を変えることができます。もちろん、俳優を起用してでもできるかもしれないのですが、通常契約期間的に何回か撮る場合が多く、一回毎に変えるみたいな運用は難しいのではないでしょうか(すみません、契約形態や期間などの詳しい話は知らず憶測で書いていますが)

どん兵衛というブランドの中で様々な商品を紹介したい場合、一回毎にコンセプトや作風、設定を変えられる、このアニメ形式は向いているのかもしれません。

実際、
・第一弾の「秋祭り篇」は、きつねうどん
・第二弾の「耳そこなんですか?篇」は、天ぷら蕎麦
・第三弾の「最強年越し 篇」は、年越し蕎麦
と異なるブランドの紹介ができています。

それらを、作風を変えながら、「どんぎつね」という共通のコンセプトを持って表せているのです。

「どんぎつね」というキャラクターの独り立ち

また、実写で行っていたキャラクターのアニメ化は画期的だと思います。

今まで俳優が特定キャラクターを演じているCMは多くありました。(最近だとauの神木隆之介さんが演じる意識高すぎ高杉くんがありましたね)

ただ、実写で始まったキャラクターをアニメで行うというのはあまりない気がします。

その意味で、どんぎつねが、よりキャラクターとして確立しているし、今後もしていくのかもしれません。(もしかしたら、グッズ展開とかもあるのかもしれません)

一方で青年の方は、明確ではないのかもしれませんが、星野源さんが演じている頃からの、どこか「鈍感」で「内気」なイメージは共通してあります。

今後、この青年の方も、よりキャラクターとして確立していくのかもしれません。

最後に

今回は、日清さんの「どん兵衛」シリーズのCMについてレビューしました。

いつも面白く、新しいCMを届けている日清さんの中でも、アニメ化という新たな試みをしている点が興味深いです。

次はどのような展開になっていくのか、楽しみです。

※本記事は個人的な感想が中心ですので、あくまでイチ意見として参考程度として、ご了承ください。

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