製本した本の紹介『純粋思考物体』
こんにちは、渡邉製本です。これまでホームページで不定期に更新していた「最近作った本紹介」という製本事例コーナーのnote編になります。
ホームページよりも読みもの度合いを上げて、写真も文章も多めにお話していきたいと思います。
今回紹介する本『純粋思考物体』
今回は、2022年9月に刊行された『純粋思考物体』の紹介です。
造本が素晴らしく魅入ってしまう一冊です。配本前の見本を初めて目にした時、その佇まいに思わず息を呑みました。
コデックス装にフィルムカバーをかけた白くて透明な本
白地の厚い表紙のコデックス装+シルバーの天地帯(タテ方向にかけた帯)+透明フィルムカバー。
それぞれの本のパーツがあってこそひとつの作品となる仕掛けです。
コデックス装の背中に浮かぶ背文字はフィルムカバーにシルク印刷されています。
シルバーの天地帯に印刷された白い文字と、フィルムカバーの黒い文字が重なるようになっています。
「113 Fragments about Poetry, Dance and Grace by Satoru Kawamura」
と書かれた部分です。
透明フィルムカバーをズレることなくかけられるようにスジ入れ。
このようなケースでは寸法出しと位置決めが肝心ですので、束見本の役割が発揮されます。
コデックス装の見返しの貼り方にはベタ貼りとノド貼りがあるのですが、こちらの書籍はノド貼りです。
表紙と見返しを全面で貼り付けるベタ貼りに対し、ノド貼りは本文の綴じ部側に5mm程度の幅で糊を引いて表紙を貼り付けます。ノド貼りの場合は見返しはヒラヒラと遊びがあり、用紙の裏も表も見えるつくりです。
『純粋思考物体』の見返しに使われたパールの用紙は裏表のある紙です。オモテのパール面が出るようにタテ帯で見返しの1ページ目を巻き込んであります。
この巻き込みがあるかないか、わずかな差に感じるかも知れません。巻き込みがない場合、見開きの左右の紙はそれぞれ質感も色も違ってしまいます。
最初の見開きに統一感があることは、この作品においては重要なエッセンスかと思います。
作品の世界へと誘う創意工夫がひとめくり目からはじまっているのですね。
紙の本が存在する意義を感じさせてくれる一冊
パールの紙、シルバーの帯、透明なフィルム、マットな印刷、クリアの箔押しなど、素材と加工の組み合わせが計算し尽されている印象。
紙の質感の違い、透明感や光沢感などは写真ではどうにも伝えようがないので、本当に一度手に取っていただきたい一冊です。
紙好き・本好きの方には溜まらないはず。
紙の本が存在する意義を感じさせてくれます。
昨年9月に書籍が発売されてから8ヶ月が経ちます。本記事を書くにあたり、プロデュースされた佐藤究さんやデザイナーの間奈美子さん、アトリエ空中線さんのツイートを拝見し、本の刊行に至るまでの想いに触れることができました。
最終加工の製本を担う立場として、素晴らしい本づくりに携わらせていただいた実感があらためて湧きました。奥付に社名をしっかりとクレジットしていただき誇らしい気持ちです。ありがとうございます。
『純粋思考物体』にまつわる読みもの
版元・テテクイカさんの記事もnoteで読めます
『純粋思考物体』を刊行されたテテクイカさんの記事もnoteで読めます。
河村悟さんのインタビューなど貴重な記事が投稿されています。
造本組版を手掛けた間奈美子さんのコラムも必見
アトリエ空中線・間奈美子さんが寄稿されたコラム「神が潜むデザイン 第25回:アナログ化が見出す「物質」の快美ーー書容デザイン/間 奈美子」も必見。
文中に“物質としての紙の本”についての考察がありますが、『純粋思考物体』に抱いた感覚とほとんど同じでした。
独創性のあるブックデザインとして選出されています
『純粋思考物体』は独創性のあるブックデザインとして『造本設計のプロセスからたどる 小出版レーベルのブックデザインコレクション(グラフィック社)』にも選出されています。