【資料】南京事件に対する日本政府見解
1937年に日本軍が南京を攻撃・占領した際に多数の軍民が殺害され、市民への暴行が日本軍によって行われました。この南京事件に対して、日本外務省の「(アジア)歴史問題Q&A」の問6で日本政府の見解を次のように簡単に記述しています。
ここでは「非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」としていますが、文言の中に捕虜の殺害が言及されていません。そこで、一部の歴史事実を否定したい方々が、南京事件には市民の殺害は含まれているが捕虜殺害は含まれていないと主張しています。
たしかに、外務省のQ&Aの回答は、南京事件の概略を記述した文言としては違和感があります。
そこで、この文言がどのような過程で生まれたのかを調べてみたいと思います
1. 1999年5月14日外務省報道官記者会見
当時都知事だった石原慎太郎が南京事件などについて「日本政府の正式な見解を聞いたことがない」と述べたことに対し、1999年(平成11年)5月14日の外務省報道官の沼田貞昭が政府の考えを表明したことです。沼田報道官は次のように述べています。
沼田報道官が述べているように、これはあくまでも政府の考えを改めて簡潔に述べたものにすぎません。また「非戦闘員の殺害あるいは略奪行為等」とありますが、「等」というのは事例の後につける官僚的な語で、「等」に何が含まれているかは、この文だけでは分かりません。
2. 2006年6月22日政府答弁
1994年の外務省報道官の記者会見での南京事件に対する日本政府見解に関して、2006年に民主党の河村たかし衆議院議員(当時)提出した「いわゆる南京大虐殺の再検証に関する質問主意書」を政府に提出しました。この質問にに対する答弁書は報道官発言が政府見解であることを再確認しました。
2006年(平成18年)6月22日、小泉純一郎総理大臣(当時)名で政府は次のように答弁しています。
3. 2014年6月24日政府答弁
2014年に民主党(当時)の鈴木貴子衆議院議員が提出した「いわゆる南京事件や従軍慰安婦を世界記憶遺産とすることを中国が申請した件に関する質問主意書」を政府に提出しました。
2014年(平成18年)6月24日、安倍晋三総理大臣(当時)名で政府は次のように、「等」が欠落しているほかは、ほとんど外務省Q&Aの回答と同じ内容の答弁をしています。
4. まとめ
日本外務省の「(アジア)歴史問題Q&A」の問6の南京事件に対する見解は、1999年(平成11年)5月14日の外務省報道官の沼田貞昭が政府の考えとして「簡潔に」述べたものです。政府の調査結果とか厳密な記述といったものではありません。
しかし、歴史事実否認の方々は簡潔に記述されているが故に、欠落した部分の事実が存在しないかのように論じるために利用しているわけです。
日本政府見解の文言は「日本軍による南京入城後、非戦闘員の殺害又は略奪行為があった」とし、日本軍が起こした事件であることをぼかした表現になっています。とはいえ、日本軍の南京占領に伴って南京事件が起こされたことは日本政府が公式見解として認めているわけです。
(完)