フリーランス・社内SEという選択は、エンジニアをどう成長させるか
ITエンジニアの会社選びについての記事の7回目です。今回の記事では、「企業の業態・商流・開発工程との関係」を概観したうえで、フリーランス、ユーザ企業の情シスという選択についてそれぞれ考えてみます。これまでの記事はこちら。
上流/下流とは──企業の業態・商流・工程の関係
よく使われる上流/下流という言葉。意味するものは2つあります。
・商流の上流/下流 ──多重下請構造において、ユーザ企業を源流とする案件情報やお金の流れ。
・工程の上流/下流 ──ウォーターフォール開発における工程間の関係。
さて、意味するものは全く違いますが、この2つには相関があります。企業の各業態との関係をあわせて、見取り図を描いてみましょう。
こんなかんじでしょうか。
この図の裏には、商流の下流に位置すると保守開発や下流工程ばかりさせられ、商流の上流に位置すると管理仕事ばかりさせられる、というエンジニアにとってのジレンマが、潜んでいます。
よくあるキャリアデザイン:下流から上流へ
上流工程には、工程が下ったあとではじめて、成果物の価値の有無が露わになる、という特徴があります。同じ初期工程でも、業務要件定義と、方式設計でやることは全然違いますが、この点は同じ。「詰め切れていない要件」「どうしょうもないアーキ」に下流工程が苦しめられ、上流工程の失敗が露わになったのを目撃した経験を持つ方は、多いのではないでしょうか。
こういった点から「下流工程の経験せずに上流でワードエクセルばかり書いている文系SEは無能」などと言われるのには、一理あると思います。
一方、下流工程。これこそモノづくりという実感の伴う仕事ではある一方、「末端作業」なんて言いかたをする人もいます。これにも一理あります。設計書や手順書がないと成果を出せません、と堂々と言う人に対してはつい、あなたは本当にホワイトカラーとして知的生産を仕事にしているのですか? と質したくなります。
そんなこんなで、下流工程はスキルを身に着けたうえでサッサと卒業し、上流工程に携わり自身の価値を高めてゆくべし、これがまあ、よく聞く考え方。
しかし、上にあげた見取り図をみると、受託開発の世界では、一つの会社で工程の下から上までの全てで経験を積むことが、難しいようにみえます。それでも、すべての工程へのアサイン機会を持つ企業を探すのか。もしくは再転職を前提として下流工程で手を動かせる企業を探すのか。
ここが、思案のしどころです。いずれにせよ、戦略的に行きたいものです。
フリーランス――下流工程しか経験できない働き方
さてフリーランスについてです。
フリーランス、という働き方で多くの人がまず考えるのは、収入の高さと安定性の低さ、このトレードオフ関係です。ですが、一連の記事の観点、すなわちエンジニアの成長機会という観点で考えるとどうでしょうか。
さきの見取り図でみたように、フリーランスは商流上も、工程上も、最下流になることが多い。発注者は、高度な作業は、実績も実力もわからないフリーランスに依頼するにはリスクが大きい。フリーランスに頼むなら末端作業、と考えるのです。
零細SES企業に在籍するのに比べ、案件の選択権が自社の営業ではなく自分自身にある、という点ではマシかもしれませんが、選択肢に「末端作業」しかないのであれば結果は同じ、成長機会は限られます。これは、その立場の弱さが社会問題視されている、「ギグワーカー」に似た弱さだと思います。
ユーザ企業の情シスSE――上流工程しか経験できない働き方
一方、ユーザ企業のIT部門です。
こちらは逆に、上の見取り図にあるとおり、超上流しか経験できない働き方であるといえると思います。技術に直接触れたいエンジニアにとっては、つらい環境と言えそうです。
とはいえ、社内のIT戦略や企画立案に携わり、プロジェクト立ち上げに携われるという意味では「自社プロダクト、サービスを持っている会社」での面白さに通じるところがあり、開発を遂行するためにベンダーをコントロールする、管理者としての仕事は「大手SIer」の面白さと共通しています。それを面白いと感じるエンジニアにとっては、ですが。
まとめと次回予告
今回は各業態で携われる工程を概観したうえで、フリーランスやユーザ企業への入社という働き方を考えました。まとめると、フリーランスもユーザ企業も、それぞれ携われる工程が限られる。自身のキャリアパスのなかにそれを位置付ける戦略があるのであれば、その働き方を検討しても良い。となるかと思います。
次回予告です。これまで企業のそれぞれの業態から見えるエンジニアの成長機会について考えましたが、次回からはそれ以外の切り口をいくつか取り上げていきたいと思います。売上高? 離職率? 経営理念?社員平均年齢? 会社情報で、見るべき属性はいくらでもあるように見えますが、エンジニアの成長機会にとって重要なものは、何なのでしょうか。