映画『クロール』レビュー。最後の希望で台無し感が・・・
さて、映画界に久々のワニ映画が登場した、ということで見に行った。
感想としては「普通のホラー映画だよね」という感じで、良くも悪くもない映画だった。人にたとえて言うと、「優秀だけど何の印象にも残らない人」って感じである。
以下は映画観賞を前提で感想を書いていくので、見てなくてネタバレが嫌な人はブラウザバックをお勧めする。
水泳選手の娘と父親が主人公。この二人が家の地下に閉じ込められることから悲劇は始まるのだが……
まずは人間関係だが、主人公の娘は冴えない水泳選手。姉とはスマホで話はするけど、そこまで仲良くはない。嫌味を言うくらいなので、あまり内心ではよく思っていないのだろう。さらに父親と母親は離婚しており、父親はちょっと落ち込んでいる様子。
そこにハリケーンがウーバーよろしく到着。ハリケーンの通り道に父親は一人で住んでいるので、様子を見に行く娘。しかし父親の姿はなく、どうも地下室に向かったようだ。父親の跡を追いかける娘だが、そこで父親が重傷を負って倒れているのを発見する……
以下、基本的に突っ込みどころを書いていく。全体的に優等生的によくできた映画なのだが、何せ突っ込みどころが多い。
まずこの親父、一体家の地下で何をしていたのだろうか。片足解放骨折+肩に噛み傷のようなものがある。中途半端にワニに噛まれたのだろうか。状況が良く分からないが、とにかく半死半生状態で死にそうでしなない。それどころか、逆にスコップでワニの首を討ち取るという活躍を見せる。これだけの負傷をしている割にはものすごい戦闘力である。万全ならラディッツを返り討ちにできそうだ。
どちらにせよ、配管工なのか軍人だったのか、そして地下で何をしていたのか、何も明かされないまま物語は進んでしまう……
この負傷した状態の適当さは、実は娘の方が酷かったりするが、それは後述しよう。
父親がこの家に一人で住んでいるのは、どうも今までの思い出を引きずっているから、ということだが、そういう設定もイマイチ物語に生かせていないのが残念。
基本的に、物語は地下室という閉鎖空間内で、親子がワニと戦うという感じになっている。さらに地下室にはハリケーンで川からあふれた水が流れ込んできて、どんどん不利な状況になっていく。サスペンス的な作りは非常に良かったと思う。
しかし、このことで映画の舞台がかなり限定的になってしまい、地味になってしまった感じはある。
ちなみに、最初の戦闘で左足を噛まれた娘だが、その後すぐに蹴りでワニをひるませて逃走に成功している。
さて、こういう映画には「可哀そうな犠牲者」が必要だが、生贄として火事場泥棒の3人と、警官の二人がいる。
火事場泥棒はともかくとして、この警官は死ぬほど無能で、本当にすぐに死んでしまう。ピクミンもビックリするくらいの速度で死ぬので、あまりのあっけなさに苦笑を禁じ得ない。
最近の映画は残虐シーンは徹底的にカットするが、ちゃんと描写してくれるところには賞賛を送りたい。しかしその残虐に食い殺される人々にしても、あまりにも定型的すぎる死に方だと思った。
そしてそのせいで、逆に主人公たちの強さが悪い意味で強調されることになってしまう。
ていうか、こいつら餌たちの死に方が完全に笑わせにかかってるんだけど、この映画って笑うような映画じゃないでしょう。優等生がいきなりよくわからんブラックジョークを言い出したような感じで、「笑っていいの?」ってなった。
あとはペットの犬だが、最後まで死なないのはお約束としても、お約束以上の何物でもなかったな、という感じか。あまりに添え物すぎて、存在意義がなくなっているんだが……
普通はこういう映画では臭いや音を察知して事前に人間に危機を知らせたり、そういう有能な光景を描くべきだと思う。
主人公がワニの隙をついて脱出地点まで泳いでいき、床板を持ち上げようとしたが、結局は上に障害物が乗っていて、板が持ち上がらなかった場面があった。
しかし結局ここでも活躍せず……
有能とまではいかなくても、『インデペンデンスデイ』の犬みたいな見せ場くらいは用意してやるべきだったと思う。
中盤くらい、主人公はワニの卵を発見するが、これも後の伏線など、全くない。
普通は「最後に逃げ切ったと思った主人公、しかし洪水の後にはワニたちを卵が残されていて、そこから大量に孵化していくワニたち……!」という感じでエンディングの引きにでも使うのが普通だと思う。しかしそういうわけでもなく、結局このワニの赤ちゃんはどうなったのだろうか。そのまま洪水で流されて終わりなのだろうか。何も描写されないので、よく分からない、としか言いようがない。
ちなみに、この時に死体から銃を回収しようとして右腕を噛まれている。この状態で、次の瞬間には水の中へ潜る。
あの、普通はそれだけ噛まれた状態で水に浸かったら、出血多量で死にますよね? さらにその出血がワニに察知されて速攻でワニの餌ですよね?
なんとか家の地下から脱出できてから、この映画最大の突っ込みどころ、ナイスボート編が始まる……!(これが言いたかった)
見事脱出に成功した親子だったが、次は堤防が決壊したというニュースを受ける。避難しようにも、すでに道路は完全に冠水しており、車を出せる状況ではない。そこで父親が一言。
「ボートは最後の希望だ!」(筆者意訳:ナイスボート!)
何言ってんだこいつ、ワニに噛まれて頭おかしくなったのか? ていうか付近にワニの群れ泳いでるんだけど……
しかし父親は諦めない。
「お前なら奴らより速く泳げる!」
いや、無理でしょ(笑)
だって左足と右腕噛まれていて、瀕死の重傷と言っても過言ではない。普段はワニより速く泳げるのかもしれないが、この状態でベストタイムを出すなど……
できたんですよね(笑)
もはや笑うしかない光景である。このまま娘が食われたら逆に面白い映画になっていたかもしれないが、そんなことはもはやナイスボートの前では無力である。最後の希望に乗り込み、そのまま逃げようとするところへ、あふれ出した洪水がナイスボートに押し寄せてくる……! 必死に逃げるも、波に追い付かれるナイスボート!
流されて家に激突するナイスボート!
転覆するナイスボート!
………
まあ、そりゃそうなるわな(笑)
もはやこれ、コメディ映画なのかもしれない。サウスパークでありそうな話である。次はサウスパークでアニメ化してくれ。ワニに食わせて時間稼ぎするためにカーマインがボートからバターズを落とす展開が目に見えるんだが(笑)
そして激突した家の屋上を目指すのだが……
だったら最初から自宅の屋上目指しておけば良かったのでは? 「思い入れのある家」設定が全く生かされないし、展開が無理やりになるし、何もいいことがないナイスボート……
ナイスボートという新しい概念を生み出すことには成功したが、その代償はあまりに大きくないだろうか?
ちなみに屋上へ逃げる際に、父親が腕を噛みちぎられるが、そのまま屋上に逃走成功、さらに娘を残った腕で引き上げるという、スタンド使いかサイヤ人でなければできないような芸当を成し遂げてしまう。宇宙最強技師アイザックさんでもさすがにそこまでの負傷をしていては宇宙最強の力を発揮できなかっただろう。次はこの親子に石村に乗っていただきたいものだ。きっと最速のスプリントでネクロモーフの群れをかいくぐってくれるだろう。
そろそろまとめに入ろう。
ナイスボート。さすがにこれはなかった。最後の希望どころか、最後のちゃぶ台返しになってしまった(しかも文字通りひっくり返るし……)。
あと、映画自体が真面目過ぎるわりには、じゃあテーマの「親子愛」を描けているのか、というとけっこう微妙じゃないだろうか。この父親は結局家と腕を失った。しかも離婚したままで何ら家族の絆を取り戻しているわけではない。
もっといい意味でチャラけた映画でも良かったのではないだろうか。
例えば、バナナワニ園のようなところで観光客がたくさん集まっている。そこに洪水が発生して、さらに園の側でも設備不良などが重なりワニが逃亡、次々と観光客を襲う、という感じだ。これくらいのちょっとおバカな感じでも十分できそうだと思うし、こっちの方がギャグ的に人を殺しても雰囲気的に似合うそうだ。
いや、全体的によくできた映画だと思う。話もシンプルで分かりやすいから、こうやって後になっても内容を詳しく思い出せる。
やはり、ナイスボートだろう。
最後にひねりを加えようとして、結局それが致命傷になってしまった。
そう、ワニだけにね……(うまく言ったつもりなんだ)