街を鑑賞する その3 魅惑の鋭角物件
こんにちわ。皆さんは散歩はお好きですか?皆さんの中には街を歩いていて、ふと景色が気になって足を停めた事などある方もいるのでは無いかと思います。そんな景色、今回は都会の隙間を余す所無く利用せんとしたがために面白さが発生してしまった物件の話です。
この日本の国土で住める土地というのは全体の30%だそうです。山が多く意外と住める所が少ないが故に、人が住める土地はビタ1平方ミリたりとも無駄にはしない、況んや東京においては、という訳で区画の中で字余りになってしまった様な所にも建物は立っています。
やたら平べったいとか、絶妙にクランク型、とか字余りの土地にも色々あるのですが、やはり多いのは道路交差の都合なんかで鋭角三角形になってしまったような土地ではないでしょうか?今回はそういった所に建っている建物の規格外の面白さをご紹介しようと思います。
まずはタイトル写真にもなっているこちら、あまりの鋭角故にまるでカメラのレンズの方が歪んでいるのでは?と錯覚してしまう物件です。実際この側を通る時、刺さるんじゃないか思うくらいの鋭角で、少し胸がドキドキしたほどです。
こちらは下町の古き町並みにある鋭角物件、足元サイズの鋭角ブロック塀が大変良い味を醸し出しています。鋭角物件は時代の規制がらみなのか古いものが多く、この辺の味わいにもまた堪らないものがあります。
サイドビューはこんな感じ、枯れ木とか格子窓とか木屏、トタンも良い味を出しています。明らかに周囲の建物とは違うムードを放っており、鋭角の結界魔術によって時代を超え存在しているかのようです。
こちらは鋭角の使い道がわからず、とりあえず領土主張だけしとくか、という物件でしょうか。結果として国境線だけが引かれた黄色いエリアが際立っており、ここに足を踏み入れた途端、迎撃されそうな緊張感が漂っています。
この物件は国境線を引くだけでは無く、きちんと柵まで作って領土を主張しています。ただそこまでして守った領土を有効活用している形跡はなく、それ故に鋭角地帯そのものの前衛芸術性が際立っている好物件と言えるでしょう。
時々建物全体から普通ではない電波が出ている事があるのも、鋭角物件の特徴です。この物件は方々に何だかおかしな所が散りばめられているのですが、やはり特筆すべきはこの透明ドームの様な丸窓でしょう。なんだか昔のUFOっぽい丸窓で、ここは宇宙人の秘密基地なのかもしれません。
このUFO物件を裏手に回ると奇妙なエグれがあり、こういう所にもシビレます。ここにあった立て看板には「将棋名人、木村義雄生誕の地」とありました。謎は深まるばかりで、もしかしてこの建物は上から見ると将棋の駒の形になってるんじゃないか?とか、しかしUFOと将棋の関連とは?とか色々考えましたが、何一つわかりませんでした。
これはメチャメチャかっこいい鋭角物件です。重厚な石造りでテッペンにある菱形の窓なんかも合わせやたら堂々としており、ビルというより塔とか要塞とかいった方が相応しい様に思えます。
「鋭角の先端とは半端な土地ではなく時代の急先鋒なり!我いざ進まん!」みたいな勢いというか動きを感じさせます。側面斜めに入ったラインも無駄に動感を醸し出しており、多分テッペンの菱形窓の部屋は船長室みたいになってるのではないでしょうか。
ファサードには”ZACCA”という謎のゴシック風文字が、これもまた堂々と入っています。この角度から見るとまるで牢獄塔のようで、テッペンは船長室ではなくラプンツェルとか鉄仮面なんかが幽閉されているのかもしれません。
鋭角物件の中には過激さを極めるあまり、鋭角というかほぼ線分のようになっているものもあります。これとか鋭角が始まるあたりのモヤモヤ感とか板のような建物に至るまでのアプローチの長さとか何度見ても飽きるという事がありません。
これも鋭角というか、もはや線になってしまった土地にモノリスのような建屋が建っているエクストリーム物件です。この薄さと言い、よく見ると出窓のような物が飛び出ている感じと言い、大変味わいが深いものですが、いちばんの衝撃はこの建物がホテルである、という事実でしょう。
ここまで色々見てきましたが、やはり鋭角の先端は普通の家にするには難しく、いろんな工夫がなされているのが面白さの一つだと思います。ここからは鋭角先端をどのように工夫して使っているのかに焦点を当てて見ていきたいと思います。
やはり最初に思いつくのは、住めないならば物置にしましょう、というあたりでしょう。この物件の場合、手作り感が大変良い味を出しており、また外につながる扉などが一切無いカプセル感の為に、中がどうなっているのか凄く気になります。
倉庫の他に結構多いのが、階段を作りつけるパターンですね。この物件の場合、鋭角の方向に向かって飛び出していくような形で階段が据え付けられており、”出動感”が半端ありません。住人は否が応でも「アムロ、行きます!」的な気分を感じざるを得ない事でしょう。
螺旋階段、というのも結構あり、ただでさえ限られた空間に上手い事レイアウトされた螺旋階段は非常に見応えがあり「作品感」があります。これはデザインしている方も大変でしょうが、楽しくもあるのでは無いでしょうか。
これなんかメチャメチャかっこよく無いですか?板金で簡易的に作っているが故に無骨な印象がいや増しており「硬派の階段」と命名したいと思います。よく見ると磨りガラスの入った手すり?の作り方とか相当ユニークで、この”作っちゃった感”が堪らない好物件と言えます。
これはビルの端っこを非常階段にしているケースですが、ミニマムな高層空間に上手く収めたインダストリアルなかっこよさがあります。
横から見るとこんな感じで、この位高さがあると見応えも増していきます。無駄に上り下りしてみたい誘惑に駆られますが、非常時にしか立ち入り出来ないようです。
これはなんとカフェです。とてもそうは見えないかもしれませんが、立て看板式メニューの後ろにテーブルと椅子があるカフェで、食事飲み物共になかなかの充実ぶりです。鋭角の使い道として飲食店はどうか?という事だと思いますが、思いつきの勢いに体裁がついていっていないこの乱暴な感じがいい味を出しています。
これは大変珍しい物件で、なんと鋭角立地に建つ居酒屋です。鋭角正面にある店名「良太郎」と入り口が大変男らしく、男らしすぎて入るのにかなりの勇気を必要とします。
良太郎のサイドビューはこんな感じ、お分かりの様に大変ミニマムな建屋となっています。出入りは2階からという事みたいで、中の構造が気になって仕方ない所です。
こうしてみると鋭角というロケットの先端にセットされた月面着陸船のようです。鋭角物件の中でも相当ユニークな珠玉の作と言えるでしょう。
良太郎くらいの好物件はそうそうあるものではなく、大体は九十度建築で余ってしまった鋭角部分を持てあましているのが殆どだと思います。これは余ったスペースに玉砂利でも置いてみるか、というケースですが、これはこれで無意味さ故に前衛芸術的な価値は高いトマソン物件と言えるのでは無いでしょうか。
大黒@鋭角。色んな鋭角の使い道がある中、結局こういうのが良いのでは無いかと思います。人間がひしめき合って余った所にこういうのがあるとホッとしますね。
という事で長々と私の鋭角物件愛を綴りました。建物も墓石も、なんならデジタルな領域も四角いグリッドであるのが合理的で、それがスタンダードな世の中だからこそこういう半端領域には何とも言えない魅力が湛えられています。こうした空間が時代の遊びとして途絶えない事を願います。
長々とくだらない事を話しましたが、ここまでお付き合いいただきまして誠にありがとうございました。
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