【シない二人】#18 背中
飛び出したものの
特に行く当てもなく車を走らせて
既に1時間は経っていた
車内で泣きながら罵詈雑言を怒鳴り散らしてる内
いつの間にか謎の林道に入りそうになっていることに気づきようやく我に返った
「え、どこここ…」
これは…入ったら戻れなくなるやつ…!
急に色んな意味で怖くなり
慌てて夜道を慎重にバックしながら
無事大通りに戻ることができた
「はぁ…やっちゃったな…」
別の恐怖で既に涙は止まっていて
だいぶ冷静になっていた
「あんな一気に責めなくても良かったよね…」
本当に全部言ってしまった
今までだって勿論喧嘩したことはあったが
どちらかというと私は淡々と怒るタイプ
激情に駆られて
あんな怒鳴り散らすとは思ってなかった
「あー、あー、声枯れてる…笑」
珍しく大声出し続けていたから喉痛めたみたい
さっきの修羅場を思い返してみると
多分ほぼ間違ったことを言ってないにしても
EDなんじゃねーの?は言い過ぎな気がする…
それに責めただけで話し合ってはいない
これからどうしようか…
レスになった夫婦は一体どうするんだろう…
シたい側が一生ナシで暮らしていくのだろうか
シたくない側がひたすら耐えてスルのだろうか
それとも
何も解決しないまま『離婚』するのだろうか…
そもそもレス夫婦の話をあまり聞かないのに
その結末がどうなったのかなんて
余計に知る術がない
離婚事由のランキング上位「性の不一致」が
こっそりとこの現状を物語っている気がする
だから私達のこの先も何のデータも情報もなく
ただやみくもに自分達だけで
判断して進んでいくしかないんだ
「離婚…?健次郎と…?」
それも一つの選択肢には違いない
現実味を帯びて考えたことなど一度もないけど
今こそちゃんと向き合わなければ…
そんな風に真剣に考え始めたところで
ケータイが鳴った
健次郎だ
「…もしもし?」
「奈々?どこにいる?」
「…さあ…」
「…あのさ、家に帰ってきて、ちゃんと話そう」
「・・・・・・」
「今話したくないなら明日でもいい」
「・・・・・・」
「とにかく無事に家に帰ってきて」
…優しくて不安そうな声
健次郎だって傷ついたはずなのに
「分かった…帰る」
帰路について
少し緊張したまま家に入る
健次郎が慌てた様子で迎えてくれた
「奈々、お帰り…良かった」
その安堵する顔を見て私もホッとしてしまった
あんなに罵声を浴びせたのに
反論も逆ギレもせず
ただただ私の心配をしてくれていた
「うん」
「今日疲れてるなら明日話そうな」
優しく頭をポンと触れてから
私の手を取って部屋に連れていく
その広い背中からは
とても不器用で不安げな心と
何があっても私を包み込む優しさが見えて
あぁ、やっぱりこの人と
離婚はしたくないな…
自然とそう思ったのだった