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Cultivation Talk#1 「神田界隈の道路空間活用とみちあそび」実施レポート

💡Cultivation Talkとは?
まちに関わる様々な実践者やクリエイターたちによるトークイベント・ワークショップを行う企画「Cultivation Talk」がスタートしました。これからの暮らしを考える上での知識やインスピレーションを学びあい、分野横断でのつながりを深めていきます。
初回のテーマは「神田界隈の道路空間活用とみちあそび」。移動式あそび場全国ネットワーク代表の星野諭さん、東京都市大学都市生活学部・大学院環境情報学研究科准教授の中島伸さんをお招きし、今後、まちの再編や再開発等で変化する鍛冶町二丁目にはどのような道路空間や活動が求められるか、ディスカッションする機会としました。
✍️watage実行委員会:右田 萌



○ なぜ今、道路空間活用や“みちあそび”を考えるのか?

《全国的なムーブメントであるウォーカブルまちづくり》
「ウォーカブルまちづくり」という言葉、皆さんはご存知でしょうか。「居心地がよく歩きたくなる街中づくり」を目指す合言葉のようなものです。国土交通省の提言をきっかけに全国的なムーブメントになっており、「Walkable:歩きたくなる、Eye level:街に開かれた一階、Diversity:多様な人の多様な用途、使い方、Open:開かれた空間が心地よい」の4項目、略して「WE DO」がキーワードです。
千代田区を含む383都市が「ウォーカブル推進都市」に指定されており、2022年には「千代田区ウォーカブルまちづくりデザイン」も策定されました。同年、道路等の公共空間を地域課題等に応じて活用するモデル活動の募集が千代田区で始まり、watageが位置する鍛冶町二丁目においては「鍛冶町二丁目まちづくりを考える会(以下、考える会)」で応募した上白壁橋通りでの道路空間を活用した実証実験「鍛冶弐ウォーカブルプロジェクト」の企画も採択されました。

国土交通省/千代田区 ホームページより

《鍛冶弐ウォーカブルプロジェクト》
「考える会」では、地域におけるまちづくりのルールとして「まちづくり基本構想」を取りまとめており、整備方針のうち、「東西を繋ぐコミュニティ軸」の形成を目的として、神田駅の東側と西側を繋ぐ上白壁橋通りを活用した実証実験を行うこととしました。当日は、現在watageとなっている、当時空き家状態だった空間(上白壁橋通りから続く通り沿いの1階)の活用も行いました。ウォーカブルまちづくりの合言葉である「WE DO」を意識し、普段は薄暗い上白壁橋通りの雰囲気向上(Walkable:歩きたくなる)、沿道空き家でのコーヒー提供やまちづくり情報の展示(Eye level:街に開かれた一階)、空間内に10のコンテンツを創出(Diversity:多様な人の多様な用途)、多世代が立ち寄れる場の提供(Open:開かれた空間が心地よい)を狙ってコンテンツを生み出しました。

鍛冶弐ウォーカブルプロジェクトの様子

《道路空間を使って場づくりをしていくことへの着目》
モデル活動の募集は今年で3年目となり、その間に採択された13件のうち、下図の線で囲んだ旧神田区内では6件も採択されています。さらに、鍛冶町二丁目の一番街商店街やふれあい通り商店街でも、定期的に道路空間での飲食イベントなどが開催され大いに盛り上がっており、ウォーカブルムーブメントが起こる前からこの旧神田区内で取り組まれていた活動をプロットしていくと、「神田界隈の道路空間活用はアツい!」ということが見えてきます。一方、千代田区内では、マンション開発等による人口増加と共に区民一人当たりの公園面積が下がり、子どもの遊び場が足りていないという課題があります。以上のようなことから、「公園や空地だけではなく、道路空間を使って場づくりをしていくことが大切」という課題意識を共有し、今回のトークセッション企画は始まりました。

旧神田区内でのウォーカブルな活動

○ 星野さんからゲストトーク

《星野さんのバックグラウンドと遊び場づくりの活動》
新潟の山奥育ちの星野さんは、生まれ育った環境と東京があまりにも違うことに衝撃を受けました。「街の中に遊びや交流の場が必要」という課題意識から、日本大学建築学科在学中の25年前に「道・まちあそび」の活動を神田でスタート。色々な企業や若者などと関わる中で、コーディネーターとして地域の方と想いを共有したり一緒に活動したりするポジションが大事だと感じ、現在に至るそうです。「移動式あそび場」の仕組みを作り、全国で40万人ほど参加し、2600回のイベント等を開催、能登半島地震の復興支援においても遊び場作りを行っています。神田には新旧住民の交流の課題もありますが、子どもの遊び場や居場所を作ると同時に、子ども同士・親同士・地域同士とつながりを紡ぐこと、小さくても長く続けられる活動にすることを意識しています。

《なぜ「道」がキーワードなのか》
「道」がキーワードとなるポイントは3つあります。①家や生活の場の延長で、井戸端会議のようにふらっと通りかかった人たちが交流できる。②料金所や入場口がなく誰でも無料で利用できる。③歴史・文化・知恵・技が蓄積されていて、町会やまちのコミュニティにも通じている。道は町と町を繋いでいるので、町会や商店街や地域を超えてまちを繋ぐ力がある、その場所にあるものや空気感などの掛け算で新しい空間づくりができるのが非常に面白いと星野さんは考えます。

《道・まちあそびの事例》
星野さんが携わる活動からたくさんの事例を紹介いただきましたが、抜粋して紹介します。

神田駅西側の出世不動通りで行っている「大人縁日」は、「一年に一回、大人も楽しんじゃえ!」というイベントです。2005年くらいから商店街や町会を中心にNPOや市民団体とチームをつくり継続しており、道路を封鎖して歌ったり踊ったり大宴会をします。企画会議は居酒屋からスタートし、“飲みにケーション”で検討を進めていくのも特徴だそうです(笑)。

中島伸さんの研究室と一緒に取り組んだ「春だ!道であそぼう!」は、多町大通りが昔「やっちゃ場」だったことを背景に、当時のような賑わいをつくりたいという町会長さんの想いもあって、企画がスタートしました。特徴的なコンテンツに、WANTEDという、子どもたちが町のキーマンを探してスタンプをもらい集めるスタンプラリー企画があります。「この人を探せ!」ということで町に繰り出し、町会の婦人部長など、キーマンとなる人達と子どもたちが繋がるきっかけとなる面白い企画です。

神田錦町の「ご縁日」は色んな世代や地域を超えて「ご縁を紡ぐ」という事を軸として企画しているイベントで、行政の補助金を一切使わず、企業と町会のご協賛やご協力で行っていることが特徴です。錦町という名前から紐解いて、「今年めでたい人」を祝う企画は、様々な世代のめでたい人が集まり、多世代交流のきっかけになりました。スポーツでまちを盛り上げる目的で行った綱引き大会は、25企業対抗の綱引き大会となり、道路が大運動会状態になったそう。

神田西口の2か所で行っている「道の縁側づくり」では、あまり告知をせず、「井戸端会議的・縁側的な空間が道にあったら、通りかかった人たちは座ったり交流したりするのか」を実験しています。時間帯的に早く帰りたい人が立ち寄らないという難しさがある一方、いつもその道を通る人から「こんな空間があったら嬉しいね」といった感想も寄せられました。この実験は「半日常空間」がキーになっているため、毎週継続してしばらくアクションを起こしていくそうです。

《星野さんが大切にしている5間(時間・空間・仲間・すき間・手間)》
神田は時間によって全然違う特性があり、空間の面白さ、色んな人達が活動している面白さがあると星野さんは考えます。町会・商店街・NPOなど様々な主体が集っていますが、実はまだ連携できていない余白を見つけ、何ができるか考えるのも面白いのだそうです。手作り感や、自分たちで考えてアクションしていくなど、どこに手間をかけるか考える事も重要とのこと。
最後に、「これからwatageで作ったもの・学んだものを実際に外でアウトプットしていく事がキーなので、一緒に神田で何かアクションしていきたい」とのメッセージを頂きました。

○ 中島伸さんからゲストトーク

《中島さんのバックグラウンドと政策と活動の併行》
中島さんは都市デザインを専門として、千代田区の政策や計画をつくる委員会の取りまとめも行っており、特にウォーカブルなまちづくりやエリアマネジメントについては、政策的な面と、地元の皆さんと共に取り組むアクション的な面を行き来しながら活動されています。

《“ウォーカブル”の本質》
「ウォーカブル=歩きやすい・歩きたくなる街づくりを目指す」ということが、昨今のまちづくりの中でキーワードになっていますが、「歩行空間」という言葉に置換えると、実は1970年代から色々な形で近しい取組みが行われていました。ではなぜ今、ウォーカブルという言葉を頻繁に聞くようになったのかというと、都市デザインの専門家であるジェフ・スペックが執筆した「Walkable City」という本が世界的にヒットした事や、ニューヨークにおいて当時交通局長だったジャネット・サディク=カーンがタイムズスクエアを歩行者空間化したことが影響していると中島さんは考えます。また、欧米では「通行可能性・アクセス可能性・安全性」をベースにまちづくりを再検討する方向に動き出しましたが、その点については日本では当たり前に享受されており、むしろ「利便性・快適性・楽しさ」が注目されているという状況です。

《ウォーカブルまちづくりと生活の質を高める事》
「利便性・快適性・楽しさ」とは、つまり「外に出たくなるようなまちづくり」であり、高齢社会への対策や子どもの遊び場づくりなどを含むウェルビーイングの考え方や、生活の質を高める事にも繋がると中島さんは考えます。中島さんが実行委員を務めた、千代田区のウォーカブルなまちづくりの考え方をまとめたガイドライン「ウォーカブルまちづくりデザイン」では、「生活の質が大事である」という視点が取り入れられました。千代田区の夜間人口は3万人から6万人まで倍増しましたが、昼間人口は現在も夜間人口の17倍です。働くにしても・住むにしても・遊ぶにしても良い暮らしをするにはどうしたら良いかと考えた時に、ウォーカブルと生活の質を高めることが結びついたそうです。このガイドライン策定にあたっては、「公共的な価値がある活動ならば個人が道路空間を使っても良いのではないか?」という問いについて千代田区とも議論が重ねられました。結果的には、「民間の人達が敷地を越えてまちと関わるようになれば、そのまちはより一層魅力的になっていく」という考え方が共有でき、千代田区もそのような活動を応援してケーススタディを積み上げて行く土壌ができてきているそうです。

《子どもの遊び場としての道路空間と中島さんの活動》
神田は、区画整理により道路率が非常に高いが、歩道がなく、子どもの遊び場もないといった課題があります。道路を子どもたちの遊び場として運営する「遊戯道路」という仕組みもありましたが現在は機能しておらず、改めてウォーカブルの考え方を踏まえて組みなおす時が来ています。神田警察通りでの「Park(ing) Day」や神田錦町での「なんだかんだ」は、中島さんが神田の道路活用の達人たちと共に取り組んだ道路空間を居場所や遊び場にする活動です。千代田区では住宅供給により新住民、特に子どもの割合が増えてきており、改めて道あそびが求められています。新しい仕組みをつくるには、活動を積み上げて繋げていくことが大事で、そのためには行政や警察も一緒に取り組む必要があります。中島さんからは最後に、「この場に集まった同じ関心を持つ皆さんと、以上のような理念を共有し、道あそびをサポートしていきたい。」とのメッセージを頂きました。

○ ディスカッション

神田界隈 / 鍛冶町二丁目に求められるこれからのウォーカブルまちづくり

《繋がりが生み出す多様な活動とナレッジシェア》
(右田)お二人のお話を聞いて、地域のエネルギーの凄さを感じました。星野さんが携わった地域の皆さんは、どのような経緯で紹介頂いたような活動の発意があったのでしょうか。
(星野)神田はディープで、良い意味で田舎くさいコミュニティがあります。そこに入り込み、“飲みにケーション”の中で地域の皆さんと企画の話をしてきました。コロナ禍を機に停滞してしまいましたが、それ以前は学生団体が地域に根付いて一緒に活動していたことも大きいと思います。
(右田)飲みにケーションや学生の繋がりにより道路活用のナレッジもシェアしてきたのでしょうね。中島さんがガイドラインを作る際には、ナレッジシェアについてはどのように計画しましたか?
(中島)やはり現場の皆さんは長い間繋がりを維持しているので、ナレッジシェアについての危機感はありませんでした。横の繋がりも広く展開されているので、星野さんとも気付けば毎週会うような関係になっており縁の強さを感じています。神田の皆さんはプロフィールがたくさんあり、一人一人が色々な顔で活動しているから、ナレッジが繋がっていくミソになっているかもしれませんね。
(右田)鍛冶町二丁目は町会や商店街によるイベント活動は活発な地域ですが、「ウォーカブルプロジェクト」にチャレンジしたことをきっかけに、他のモデル活動とのウォーカブル的な文脈での繋がりができました。確かに、活動がひとつ起こると次のネットワークが生まれるということは実感しています。
 
《継続により道路空間活用の日常化を目指す》
(右田)星野さんから紹介のあった神田駅西口側での活動は、道路空間活用を日常の風景にするという意図が込められていました。警察協議が難しいといったお話も事前に伺っていましたが、道路空間での活動を日常化する上での壁についてはどうでしょうか。
(星野)イベントをする場合は、人がたくさん来るので車を止める理由になりますが、そうではない日常の中で一定時間車を止めることに許可を出してもらうのは非常に難しいと感じています。「道で遊ぶ」という文化はまだまだ根付いていない印象なので、年1回の活動ではなく、毎週・毎月というペースで行政や警察とも協力しながらモデル事業を継続することが重要だと思います。また、この活動に長く取り組んでいると、当時子どもだった子が大人になって子どもを連れて来るケースも出てきたので、継続により育める繋がりもあると思います。watageでも、例えば月1回、前の道路を使ってみてはどうでしょうか。
(右田)watageの前にはパーキングメーター付きの路上駐車帯があるので、そこを活用できないかという企てはあります。
(中島)パーキングメーターを止めることはハードルが高いと思う人もいるかも知れませんが、道路封鎖の一環で止めることに抵抗はないという印象です。しかしそこにも、繰り返し活動することの重要性は存在します。町会のような組織がなぜ行政や警察と連携できているかというと、ずっと在り続けて、繰り返し活動しているからです。新参者の外から来た私たちが警戒されるのは当然で、繰り返し活動することで状況は変わってきます。「なんだかんだ」の活動では過去3回道路封鎖のために警察と協議を行うなかで「なんだかんださん」と呼ばれるようになり、関係性を一歩深められたなと感じています。「第○回」という表記も継続を明示する一つのポイントですね。
 
《「通行する」道路から「歩いて楽しい」道路へ》
(右田)警察協議や他者理解を深める上で、「通行する」から「歩いて楽しむ」という概念にランクアップさせることについてはどのように考えますか?
(中島)警察が所管する道路交通法では、「道路で人が居続ける」ことは想定されていません。道路交通法管理者である警察からすれば、人はなるべく立ち止まらずに歩き続けてほしいというのが現状です。どのような条件だったら人が居続けても良いのか、順繰りと“居続ける”の概念を広げていくことが必要です。現在、様々なまちで同様の活動が起こっており、各警察署によって裁量が違うことも一種のまちの文化になっていると思います。そういう意味では、神田は道路活用の文化があるまちなので、理解が早いと感じます。仕組みや概念は、やっていきながら共有して変えていくことが大切ですね。

○ 活動の継続と自然と繋がるネットワーク

ゲストのお二人からお話を伺う中で、計画・制度設計や道路使用・占用許可取得のテクニックはあれど、一番大切なのは活動の継続とそれに付随するネットワークであることが見えてきました。今回、「神田界隈」と表現した旧神田区エリアの活発な活動とネットワークは長い年月と共に培われ、ついに行政や警察へも影響を与え、道路を居場所にするという概念を日常化させようとしています。
鍛冶弐ウォーカブルプロジェクトもwatageの活動もまだまだ始まったばかりですが、活動を起こしたからこそ、今回のように道路空間活用の先輩であるお二人とお話する機会を持つことができましたし、神田界隈で活躍する方やトークテーマに共感する方と時間を共にすることができました。watageでは継続して道路空間活用やみちあそびのテーマを深堀りながら、例えばwatage前のパーキングを活用してみたりしながら、ゲストのお二人や神田界隈の皆さんとの連携を深めていきたいと思います。

トーク終了後は交流会でカンパイ!

👫登壇者
○ゲスト:星野 諭(かーびー)
移動式あそび場全国ネットワーク代表/プレイワーカー/一級建築士/地域コーディネーター
○ゲスト:中島 伸(なかじましん)
東京都市大学都市生活学部・大学院環境情報学研究科准教授、都市デザイナー
○モデレーター:右田 萌(みぎためぐみ)
(一社)アーバニスト 理事 / SharedVision

💪企画・運営
○主催:watage実行委員会
○協力:日鉄興和不動産株式会社
○企画・運営:watage実行委員会 右田 萌
○運営協力:ofta 山川 才綾、合同会社マチトワ 西 昭太郎
○撮影:土田 智憲

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