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寅さんになりたかった

寅さんになりたかった。
ずっと、寅さんになりたかった。

自由、気ままに。

寅さんのように、あてもなく放浪して、何にも縛られず、風のように生きたかった。

でも、寅さんにはなれなかった。
そんな勇気も情熱もなく、わたしは寅さんではないと、すぐ気づいた。

大泉洋になりたかった。
ずっと大泉洋になりたかった。

ハプニングや些細な出来事でさえ楽しんでしまう、面白がり屋人間になりたかった。全てを笑いに変える逞しさが欲しかった。

でもわたしは大泉洋ではなかった。

桑田佳祐になりたかった。
ずっと桑田佳祐になりたかった。

自分の独特な世界観を大勢の人の前で表現したかった。自分の好きなもので、皆を喜ばせられるようになりたかった。

でも、私は桑田佳祐ではなかった。

諦めてからだいぶ経ち、憧れていた事もすっかり忘れていた。

でも今、私は寅さんであり、大泉洋であり、桑田佳祐であることを知る。

ただ、あの頃想像していた事とは違う。

そんな華やかな世界の中ではなく、
日常のささやかな生活の中で、日々繰り返す地味な営みの中で、
自由気ままや、
全てを楽しむ貪欲さや自分を表現する喜びがあった事に気づいた。

「なってるじゃん!」

自分の想像もつかない形で夢はとっくにかなっていた。

それに気づけて良かった。

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