渡部宏樹(Kohki Watabe)
実際に映像を観ながら19世紀後半から1930年代までの世界のサイレント映画の歴史を学べるマガジンです。
既存の作品や実在の人物に着想を得て、独自の作品をつくる「二次創作」。この言葉を聞くとマンガやアニメ、ゲームを基にしたものを想像しがちですが、映画や文学、ミュージシャンほか実在の人物などその対象は幅広く、しかも日本のみならず世界各地で行われています。本稿では、そのような英語圏の広い分野の二次創作作品を扱ったウェブサイトとそれを取り巻く状況について取り上げます。 AO3とは何か?「みんなのアーカイブ(Archive of Our Own、以下AO3)」は、ファンたちがつくる二次
この記事は『Wezzy』に2021年4月10日に掲載された記事です。同ウェブサイトの閉鎖に伴いこちらに転載いたします。 3月12日より劇場公開中の『フィールズ・グッド・マン』(アーサー・ジョーンズ監督・脚本、2020年)は「ぺぺ」という名のカエルのキャラクターが、その作者の手を離れてネット上でミームとして利用され、ついには白人至上主義者が人種差別的な投稿に添えるアイコンとして利用するにまで至るその数奇な経緯を描いたドキュメンタリーである。 映画がスポット・ライトを当てるぺ
2022年5月27日に筑波大学人文社会系の所属教員向けに「申請書を書きたくない気持ちとの折り合い」というトークをしました。これは同組織が行なっている科研費セミナーの一環です。それなりに役に立つ話だと思いますので、当日使ったスライドに簡単に補足する形で公開します。 なぜ「書類を書きたくない気持ち」と向き合うのか?科研費獲得セミナーというと「やりたい研究をするために科研費を取りましょう。」「わかりやすい書類を書いて忙しい審査員に理解してもらえるようにしましょう。」「大学は予算が
Mission USはアメリカ史を題材にしたさまざまなシリアス・ゲーム(学校で利用することを前提にした教育用ゲーム)を制作しています。ゲームはすべて英語ですが、フルボイス音声にセリフの書き起こしがついてくるので英語の勉強におすすめです。独立戦争、ネイティブ・アメリカンの迫害、南北戦争と逃亡奴隷、ユダヤ系移民とアナーキズム、世界恐慌といったトランスナショナルな視点でのアメリカ史も勉強できます。 現在Mission USは6本のゲームを提供していますが、その中でもPrisone
翻訳チームのリーダーである生井英考さんと映画宣伝のプロである竹内伸治さんのお二人をメインで2月1日にジュンク堂書店にて、『ビデオランド』についての出版記念トーク・イベントを行いました。 手前味噌ではありますが、なかなか面白かったと思います。個人的には竹内さんが黎明期の日本のレンタルビデオ店が顧客へのダビングをやっていたというような私が知らない時代のレンタルビデオの歴史を教えてもらえて大変勉強になりました。 せっかくなので、トーク・イベントの中で見せながら解説した動画に加え
ヘンリー・ジェンキンズ著、渡部宏樹、北村紗衣、阿部康人訳『コンヴァージェンス・カルチャー: ファンとメディアがつくる参加型文化』のあとがき「YouTube時代の政治を振り返る」で言及されている動画へのリンクをまとめました。基本的にページ順に従ってYouTubeへのリンクを貼ってありますが、前半よりも後半のほうがAppleのCM、『ハリー・ポッター』などのポップカルチャー、オバマをはじめとする現代の政治家への言及もあり面白いです。 *ヘッダー画像はWalmart Watchの
2020年9月に北海道白老町の「ウポポイ(民族共生象徴空間)」を訪問した。本稿はその感想である。 ウポポイならびにその一部である国立アイヌ民族博物館についてはすでに多くの訪問機や記事が書かれている。その中でも小田原のどか氏の以下の記事は、私のウポポイ理解と共通している部分が多く、また基本的な事実を詳細に記述しているので、まず紹介しておく。 ガイドのホスピタリティーは高く、展示には体験を重視するさまざまな工夫が凝らされており、ウポポイが意欲的であることは確かだ。しかし、小田
前回はニッケルオデオンというアメリカにおける映画専門劇場の成立と普及についてお話ししました。今回はこのニッケルオデオンの出現によって生じた莫大な映画フィルムの需要に応えた、「フィルム・エクスチェンジ」と呼ばれる映画のフィルムや機材の流通業者についてお話しします。 デトロイトのフィルム・エクスチェンジ・ビル(FEB)さてまずは以下の画像をご覧ください。真ん中にエンブレムがあり「FEB」の三文字が見えます。エンブレムの両側には半裸の男性の彫刻があります。よく見ると、彼らが抱えて
「実体験編」では福岡県立修猷館高校で1999年の入学時に経験した応援歌指導の具体的な内容についてまとめた。 「考察編」ではこれを修猷館独自の文化ではなく、旧制中学校を母体とする地方の高校の地元のエリートを再生産しその一部を大都市圏の大学に送り出すメカニズムの一部としての今でも生き残っているバンカラ文化なのではないかという議論をした。 前二稿ではできるだけ価値判断は抑えて議論をしたつもりだが、端々のニュアンスから分かるとおり、私は公立の学校で入学者全体に応援歌指導をイニシエ
以下の記事を公開して、「似たような応援歌指導があった」、「同じようなバンカラ文化があったが少数派で学校全体で強制されるようなものではなかった」といったコメントを、やはり旧制中学校を母体とする地方の公立高校出身者の友人から寄せられた。 高校生の時はわけのわからないまま浴びせかけられて適応せざるをえなかったバンカラ文化と応援歌指導だが、今になって、それこそ『摩利と慎吾』などを読んだ後に、よくよく考えてみれば、これらは私の出身高校独自のものではなくて旧制中学校を母体とする高校では
Twitterで東京と地方の教育格差が話題になっていて、その中で地方と一口に言ってもその中でもかなりの多様性があるという指摘があった。私が20年ほど前に卒業した修猷館高校のことを思い出した。修猷館は福岡の県立高校なのだが、旧藩校・旧制中学校の系譜を辿っており、応援歌指導をはじめとするかなり独特な文化を持っていた。独特とは言ってもそれは世界の狭い高校生の時の理解で、今では旧制中学校の文化を戦後になっても地方エリートの再生産装置として使い続けた残滓などではないかと考えている。
前回は、エドウィン・ポーターの1901年から1903年ごろの映画を例に、この時期のアメリカにおける映画の大きな変化についてお話ししました。アクロバットやヴォードヴィル俳優のパフォーマンスを撮った非物語的快楽を提供する「アトラクション」の映画の中に、それ自体で完結した線的な時空間を表現するタイプの映画が生まれ始めました。もちろん、まだ現代の物語のような長さではないのですが、フィルムのリールを丸々一本使った10分以上の作品も増えてきました。今回の話題は、この映像コンテンツの変化と
コロナ騒動で渡米の予定がキャンセルになったので、行こうと思ってまとめていたレストランのリストをアップします。ここに挙げているレストランは2011年から18年まで大学院生としてロサンゼルスに住んでいるときに開拓しておいしかった店です。院生はお金がないので、一人当たり15ドルから20ドル程度のロサンゼルス基準ではかなり安く食べることができるレストランばかりです。場所によっては30ドルくらいになるところもあります。もっとお金が払えるなら雰囲気が良かったりサービスが丁寧なレストランは
黎明期においては映画という新しいテクノロジーは観客を引きつける大きな魅力であり、動いているものを映像として見ることそれ自体が新しい経験でした。しかしながら、1896年に投影式の映画装置バイオグラフを開発したアメリカン・ミュートスコープ社を始めとする競合の会社が出現し、エディソン社はこれらの会社との競争に勝ち抜く必要に迫られます。第3回でお話しした法廷闘争もその対策の一つですが、映像コンテンツ自体の内容でも勝負を迫られるようになります。魅力的なコンテンツを作ることがひいては映画
さて、前回の最後に、今回は映画の中で物語を語る技法が発展して行く話をすると予告しました。早速昔の映画製作者たちがどのようにして、クローズ・アップやカット・バックといった映画の中で物語を表現する技法を洗練させて来たのかという話をしたいのはやまやまなのですが、その前に当時の観客が映画をどのように楽しんでいたのか少し考える必要があります。私は前回、映画の中で物語を語る技法は映画製作者たちが映画史の最初の20年くらいをかけて徐々に作り上げてたと言いました。先月みなさんがご覧になった通
前回はリュミエール兄弟のシネマトグラフについてお話ししましたが、今回は映画の起源に関わるもう一人の重要人物トマス・エディソンのキネトスコープについてです。リュミエール兄弟が行ったシネマトグラフの上映会が投影式であり、一方エディソンのキネトスコープは覗き見式であったため、20世紀的な映画観からはシネマトグラフの方が起源として重視されると言いましたが、かと言ってエディソンの発明の映画史への貢献も無視できません。 ウィリアム・ディクソンとキネトグラフエディソンのキネトスコープと書