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【-19- 笑う窓には福来る|ディスレクシア・カタルシス(20)】

 小学校と中学校の間にある春休みの金曜日のこと。私はリビングで少し夜更かしをしていた。とはいっても夜更かしなんて正直な話、何をすればいいのか、あまりよく分かっていなかった(だったら早く寝ろ、と言いたいだろうがもう少し我慢を)。

 私の机がある部屋は兄との共有部屋で基本的に漫画もあるしテレビも置かれている。やろうと思えば部屋のテレビでファミコンもしくはスーパーファミコンもしくはニンテンドー64ができた。だけど兄は知識欲の深い勉強人間だったので、ただでさえ成績低い私が同じ空間でダラケていると無言の圧で勉強ルートに向かわされる羽目になるので、私は基本的に部屋には居なかった。

 かといって家にある漫画たちは飽きるほど読み切っているので再び読み直す気にもならなかった。ここでいう私の「読んだ」とは登場人物のセリフを飛ばした画の部分だけの閲覧を指す。たとえどんなに好きな登場人物でも何て言っているのか分からないので、その表情とリアクションだけで内容を何となく把握していた。

 一方、リビングのテレビは基本的につきっぱなしだった。父が根っからのテレビ大好き人間で観ても観てなくても自分が起きている間はずっとつけていた。そして父が観ていないときはテレビはいじってもOKだった。ただビデオやゲームが許される訳でもなく、現在進行形で放送されている番組でしか許しはない。

 そこで何となくチャンネルを徘徊していたとき、NHKで『爆笑オンエアバトル』という番組をやっており、他は特に面白そうのがなかったので消去法でチャンネルをNHKに合わせた。だけど、その日を皮切りにまるで何かに取り憑かれたかのように私は毎週この時間ピッタリとこの番組を観るようになった。

 この『爆笑オンエアバトル』という番組は若手芸人10組が会場にいる観客の前でネタを披露し、ネタ終了毎に「面白い!」と思った観客は手元にあるボールを手前にあるレーンに入れて、そしてレーンで全回収されたボールの重さ上位5組だけがオンエアされるという超実力主義のお笑い番組だった。ちょうど今で言えば『M-1』『キング・オブ・コント』『R-1』『THE W』を混ぜて、AKB総選挙みたいな総投票を毎週やるような番組構成だった。

 現在は番組終了してもう無いのだが、お笑いファンの間では伝説的番組として未だに語り継がれている。

 そして最大の魅力は、何と言っても時代を飾るブレイク芸人や名物芸人、今や冠番組を持つベテラン芸人たちの無名・若手時代のネタが見れることである。もちろんそれは後々知ることで、当時はこのコンビ売れるとか知らないけど、今テレビで活躍している芸人を見ると感慨深くなる。

 そして私が観ていた時期は偶然にも実力のあるネタ芸人の豊作期で簡単に名前を挙げると……(※長くなるのでスクロールして読み飛ばして構わない)。

◆アンジャッシュ
◆アンタッチャブル
◆テツandトモ
◆ダンディ坂野
◆ペナルティ
◆ドランクドラゴン
◆パペットマペット
◆アンガールズ
◆はにわ
◆ナイツ
◆スピードワゴン
◆いつもここから
◆バナナマン
◆ダイノジ
◆おぎやはぎ
◆劇団ひとり
◆北陽
◆麒麟
◆中川家
◆サバンナ
◆インパルス
◆陣内智則
◆チュートリアル
◆インスタントジョンソン
◆パックンマックン
◆江戸むらさき
◆ハイキングウォーキング
◆ザブングル
◆博多華丸・大吉
◆アメリカザリガニ
◆ますだおかだ
◆三拍子
◆NON STYLE
◆TKO
◆天津
◆オードリー
◆磁石
◆タイムマシーン3号
◆平成ノブシコブシ
◆タカアンドトシ
◆ブラックマヨネーズ
◆トータルテンボス
◆パンクブーブー
◆サンドウィッチマン
◆U字工事
◆流れ星
◆トップリード
◆キングオブコメディ(今では幻となったコントも毎月新作で見れた)
◆響(高校の野球部マネージャー:ミツコが登場する少し前の正統派漫才時代)
◆鉄拳(芸風は今と変わらず、当時から絵が異様に上手かった)
◆号泣(手相で有名な島田秀平のお笑いコンビ時代。正統派漫才師として高い確率でオンエアされていた)
◆あばれヌンチャク(今は亡き桜塚やっくんのコンビ時代。過激な紙芝居コントが名物だった)
◆バカリズム(バカリズムのコンビ時代。そもそも『バカリズム』は当時のコンビ名で、後にコンビ解散したソロ公演で「嫁ぎぃの」を初公開)
◆東京03(当時飯塚と豊本で「アルファルファ」というコンビを組んでおり、角田は「プラスドライバー」という別のトリオにいた)

 もちろん重なる時期は違えど、上記の芸人たちが毎週毎週渾身の新作ネタをぶつけ合い、そして秀逸ネタだけがオンエアされる。そのシステムは私を一気にハマらせた。

 まず言葉が分からない最初は鉄拳やあばれヌンチャクの紙芝居ネタや陣内智則の映像を使ったコントなど視覚だけで笑えるネタしか観れなかったが、視聴回数を重ねる毎に

「何でお客さんはここで笑ったんだろ?」

「私の大好きなコンビは何て笑わせたんだろ?」

「このネタ面白い! あとでもう一回見たい!」

と思うようになった。

 ある週からはビデオで録画するようになった。それからは暇あれば録画したビデオを何十回も見返すようになり、その結果、気づいたときにはタイムマシーン3号の弾丸トーク漫才、インパルスのブラックジョークコントが放送と同時に理解して笑えるようになり、最終的にはタカアンドトシの連続ダジャレ漫才、アンジャッシュの擦れ違いコントなど言葉が絡み合う仕掛けにも画面前でそのまま大笑いするようになっていた。

 ちなみに、ここまで掛かった期間は約半年。

 それまで13年間掛けてプロの言語療法士や専門家たちが試行錯誤して教えても伝わらなかったものが、わずか半年間バラエティ見ただけで習得したのだ。もちろん勉強で見ていたわけでないのでメモやノートなんて書いたこともない。実質上「スピードラーニング」である。

 言葉が分かるようになると何かと便利になる。大好きなマンガやアニメのセリフが読めて聞ける。戦う、守る、泣く、笑う、分かるって素晴らしい。自分の伝えたいことが相手に伝わる。眠い、お腹空いた、ここが痛い、伝わるって素晴らしい。まるで言葉の海を泳ぐようだった。

 諦めていた家族と話せるようなった。お笑いが私に自由を与えてくれた。もしあの晩、夜更かしをしなかったら、あの番組に出会わなかったら、私は今でも重い海底に沈んだまま。

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【あとがき】

 今までの出来事を裏切るような話ですが、これが私が現在支障なく読み書きお喋り出来ている理由です。

 この当時の浴びるような経験ゆえか、ご覧の通り書き口調は関東生まれの標準語なんですが、実際の私の話し口調は関西弁の巻き舌な口調の方が話しやすかったりします。大好きなエミネムの歌で英語を覚えてしまった一時期のチャン・ツィーだと思ってください。

『爆笑オンエアバトル』の影響でネタ芸人にブームの火が着いたのか、後に『笑いの金メダル』『エンタの神様』というネタ中心のお笑い番組が2つ始まりました。ネタに力を入れている芸人にとってチャンスが増えるのは大変良いことです。

『笑いの金メダル』は芸人4組がトーナメント式で戦い、その週の金メダルを決めるオンエア方式に似た番組でしたが、視聴率低迷に伴い添加物な演出と重なるルール変更で番組がグダグダになり、放送開始から僅か3年で終了しました。

『エンタの神様』は勝敗無しのネタ全てを放送なので日によって面白かったり面白くなかったりバラツキ有りでした。それでも様々な芸人が登場したので楽しんでいたのですが、当番組からレイザーラモンHGやギター侍、にしおかすみこ、小梅太夫などネタ一つだけの「キャラ芸人」大量発生により、世間が飽きた頃には水田は荒れ果ててしまい、エンタの神様も2010年に閉鎖しました。しかし現在では半年に一度の特番形式にしたことで荒れた水田は豊かな環境と作物を戻しつつあります。

 あまりにお笑いが好きすぎて、でも、たくさん芸人を見てきたおかげで芸人になろうという考えは最初からありませんでした。むしろ世界一笑える聖域だからこそ自分には追いつく才能がないと自覚したから、テレビの芸人に嫉妬を抱くことなく今に至れたと思います。

 だけど、やっぱり自分もお笑いネタとやらを書いてみたい。ということで、創作活動という形で架空のお笑いコンビを作り、彼らが披露するネタの台本を一時期書いていました。

お笑い台本一覧
『設定・プロフィール』
『漫才|学生時代』
『ショートコント集①』
『コント|子供の取り違え』
『コント|脱・引きこもり』

 誰かとコンビ組んだり、どこかコンテストに出す予定もない台本なので、ウケようがスベろう関係ないので結構楽しかったです。

 もし、この台本を読んだ人たちの中に「これを中学生のとき書いたの!? マジで!? すごっ!!」と思う人がいましたら、それは間違った情報です。私にとって中学生最後の年である2004年にAKB48がいなかったように訂正させてください。

 この台本を書いたノートに記載されていた最初の日付を調べたら「2015年6月4日」。そう、約5年前のいい大人である26歳で書いてました。

 ……。

 …………。

 痛いよねぇ~!!!

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【お知らせ】

 本日も『落第レッテル。-四半生記+α in 私-』をご購読して頂きありがとうございます!

 今まで20話に渡って公開された『ディスレクシア・カタルシス』ですが、今回で終了となり、次回からは新章になります。

 別に章名が変わるだけで、あとはそのままです。

 総トータルほぼ変わらない連載ですが、次回からもどうぞよろしくお願い致します。

 --渡邉綿飴より

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渡邉綿飴
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