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【-22- 時は短し勉強せよ弟|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(3)】

 7歳上の私の兄は元々勉強ができなかった。

 小さい頃から大変病弱だったから外で遊ぶのが苦手で、それに加えて気も大変弱くて泣き虫だった。NHKの『みんなのうた』で流れる「まっくら森の歌」「サラマンダー」「メトロポリタンミュージアム」が怖い怖いと泣き出したり、『まんが日本昔ばなし』のオープニングに出てくる龍に乗った男の子のアニメも何故か怖がっていて、毎週テーブルの下に隠れてお話を見ていた。

 でも特撮やアニメのヒーロー物は大好きで、毎年発売される特撮ヒーローグッズは必ずコンプリートし、歴代超合金ロボット、ゾイド(ほぼ全種)、初代トランスフォーマー全種(コンボイ世代)、キン肉マン消しゴム全種(家計に影響与えてまで集めた)、ビックリマンシール全種(スーパーゼウスやヘッドロココも含む)、SDガンダム外伝プラモデル&カードダス全種、母と兄と小さい私で観に行った『機動戦士SDガンダムまつり(1993年公開)』のパンフレットとサントラCD「機動戦士SDガンダム音搦大歌合」(今でも持っている)、発売日に買ったのドラゴンクエスト3、ドラクエ3攻略本、ダイの大冒険全巻(初版)、ロトの紋章(初版)、魔法陣グルグル数巻(初版)、もちろん上記のアニメはリアルタイムで全チェック!(特にドラゴンボール、キン肉マン、聖闘士星矢はスゴかったと聞いた)

 そして収集癖が強かった兄のコレクションは年齢を重ねて、そして一気に処分しました。

 それから十数年後、あのコレクションたちは現在ではサラリーマン年収分の価値があると知り、「我が家の黒歴史」として未だに後悔している(誰がオモチャを高額取引すると考えた)。

 このように幼少期の兄は大変「マンガ脳」で中学生になっても小学生レベルの漢字や計算も知らず、読書感想文に渡された「エルマーの大冒険」は文字が多い! と泣き出す始末。超劣等な私に負けない超劣等学生だった(ドラクエに出るという理由で「新聞」は読めないのに「召喚」は読めていた)。

 しかも、根っからの弱虫なので小中学校ではいじめられっ子の象徴として連日ターゲットとして狙われていた。

 さらに中学の担任からも「おたくのお子さん、本当どうしようもないっすね」と三者面談で半笑いに吐き捨てられる事態まで陥った。ちなみに兄とは同じ中学校で腐った学校の担任も同じく腐っていた。

 これではさすがにマズいか。母はそう思い、中2の兄を隣駅にある中堅の小さい塾に入れた。

 初回にやった学力診断テストの結果は点数ではなく「お子さん、何か重い病気で最近まで長期入院してたのですか…?」という異例の電話質疑で家に来た。だが幸運な事に兄とその塾の相性がとても良かったのか、数週間後には兄は「学ぶ楽しさ」に浸っていた。

 それからはグングンと成績が上がっていき、1年半後には担任が鼻で笑っていた第一志望だった全国でも三本の指に入るW大学付属高校に見事合格した。「ビリギャル」よりも8年早いサクセスストーリーである(だからといって取材されることはなかった)。

 そして担任は「いやぁ~我が校が誇る生徒ですから~!」といとも簡単に寝返った。心底腐っているからこそプライドが簡単に捨てられるのだ。

 それから4年後。私13歳。兄20歳。

 高校で優秀な成績を修めた文系志望の兄は、内部進学で全国の私立文系でも最高峰であるW大学の政治経済学部政治学科に入学した。

 そして単位は相変わらず『優』秀のまま。

 さらに高校時代から英語とドイツ語が大変堪能で、世界中から有能な学生を招待留学するドイツ政府主催による企画で日本代表の招待留学生の1人としてドイツに半年間在住し、それとは別に1ヶ月間かけてヨーロッパ横断する旅行をした。

 中学時代から趣味でやっていた将棋も通いつめた日本将棋会館では『三段』以上の好成績を残して、内部からも一目置かれており、部活・サークルでは主将として全国大会で腕を鳴らしていた。

 一方、バイトでは全国展開を広げる某大手個別指導塾で優しい人気の先生として生徒から熱く支持されていた。

 そんな兄が私の勉強しないスタンスに見かねて、夏休みに夏期特別集中授業として私の勉強を見てくれることになった。

 SSランクの大学で首席に近い成績を取って、大手個別塾で人気の先生とマンツーマンの授業が破格の0円!!!

 こんなロイヤルストレートフラッシュ級のほとんど奇跡に近いような学習環境に対して、当時の私はこう思った。

「頼んでもねぇのに迷惑な……」

 ニヒリズムは思春期の通過儀礼。だけども勉強批判に関してはドグマが強すぎた。感謝を抱けないものに頭を下げるぐらいなら、この家を出たほうがマシだった。そして、そのまま野垂れ死になっても本望であった。けれど、現実はペン立てにあるカッターの刃すら出す行動力もないから、しぶしぶ授業を受けた。

◆まずは読解以前に小学漢字も危うい『国語』

「『親』という字はエピソードがあって、親とは『木の上で立って見守る』存在であれ! という先人の教えから生まれたんだよ」

「…たかが漢字一つ覚えるのに何でクソ長い話覚えなきゃいけないの?」

「……」

◆数学よりも先に基礎を固めよう『算数』

「細かい計算をラクにする九九を覚えよう! まずは『1の段』言ってみて!」

「1の段」

「いやいや、そうじゃなくて…九九を言うんだよ?」

「九九」

「……」

◆ヘミングウェイとチャンドラーは原文で楽しむ兄による『英語』

「英語は世界で最も主語と動詞を重んじる言語なんだ。だからまず主語の行動を読み抜くことから英語は始まるんだよ」

「はいはい、しゅごいしゅごい(笑)」

「……」

◆大学で「マスメディアの政治的影響力と決定要因」を研究している大学生の『社会科』

「世界地図は見た目以上に面白いぞ! その国が過去に行った政治と戦争、つまり『歴史の結果』が『国境の形』として記されてるんだ」

「見て見て! エロマンガ島だって!(笑)」

「……」

◆5科目の中で唯一の専門外『理科』

「ごめんね、兄ちゃん文系だから教えれるかどうか…」

「じゃあ教えない方が良いんじゃない?」

「……」

 それから半月後、母はリビングで新聞を読んでいる兄に言った。

「あんた、綿飴の勉強みるんじゃなかったの?」

「あいつダメだわ。勉強するしない以前に知識に興味なさすぎるし、明らかに軽蔑した目で茶化してくる。たとえ成績低くても、まだウチの生徒の方が好奇心あるよ」

「そお……」

 それ以降、兄は私の勉強関係についてアドバイスすることはなかった。

 あまりに私が剥き出しだったから。

 何も言わくなった兄に純粋に喜んだから。

 もちろん勉強以外なら会話はある。

 ただ近々就活を控えた大隈重信とテレビゲームに夢中なヒトラーの会話なんて「兄ちゃん、晩ご飯できた」ぐらいしかなかった。

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【あとがき】

 以上、私のことが嫌いになる記事でした。

 自分で書いていても過去の自分を殴りたくなったが、過去の自分から見れば「つまらない大人」へと洗脳された姿に失望し、恥ずかしくもなく醜態さらす私を袋叩きにすると思います。

 バイオレンス VS バイオレンス

 世界一醜い戦争ですね。

 ちなみにエロマンガ島(Erromango Island)は南太平洋に浮かぶバヌアツ共和国(オーストラリアの右隣)のニューヘブリディース諸島の一つでタフェア州最大の火山島である。グーグルマップなど最近の地図ではイロマンゴ島と表記されているらしいので探すときは注意してほしい。おじさんとの約束だぞ。はい淫乱はいアウト。おじさんは猥褻罪で島流しされます。場所はハイアウ島。この島で走馬灯です。はい淫乱はいアウト。略してハイライト。つまりはハイライ島……(絶命)。

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渡邉綿飴
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