小説「Flour Shower」
みんな馬鹿みたいに傘をさして歩いていた。たいした雪ではないはずだか、この町の住人は―もれなく僕も―どこか怖がりだ。ニュースではこの時期に降る雪は何年ぶりだとか言っていたが、興味を持てなかったので、それが、十年前だったか、五十年前だったかは忘れてしまった。
「私、好きよ。」
隣りに座った酔いどれの女が、写真を指差して言った。このバーには長年通っているが、見たことがない顔だ。というより、普通の町ではなかなかお目にかかることが出来ないくらいの、はっきりとした顔立ちの美女である。