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オス? メス? 時計の性教育の時間

さてみなさん。今日は時計の性教育の時間です。
とても大切な事なので恥ずかしがらないでくださいね。

まずは(時計の)からだの名称からおさらいしましょう。

とけいのからだのなまえ

時計の胴体、ケース、ガワと呼んでいる部分は風防と裏蓋と胴(ケースミドル)からなります。
そして日本語で「カン」と呼んでいるラグ。カンは胴から生えているのでカン足と呼ばれます。
6時側に生えているのが「足」だったら、12時側は「腕」なのかというと、ぜんぶカン足と呼ばれます。

さらにベルトを取り付けたり、エンドピースが収まる場所はカン足の股ぐらなので「カン股(かんまた)」です。

ラグの事を日本語で「カン」と呼びますが、漢字で書くと「嵌(かん)」だそうです。象嵌とか、「嵌(ハ)まる」など、ぴったりと嵌まる、嵌め合わさる部分という意味の字です。カン股にハマる、ハメる…。なんだか性教育っぽくなってきました(赤面)。

さてここからが本題。

カンの部分にはベルトやストラップをバネ棒で取り付けますが、ブレスレットの場合、ストレートエンドタイプのブレスレット以外では文字通りカンにピッタリと「嵌め合わせる」エンドリンク(エンドピース、フラッシュフィットなどいろいろ呼び方があるようです)が収まります。

このエンドリンクにさらに性別があり、オス型とメス型のエンドピースが存在します。いろいろと調べてみましたが、日本語でオスメスと呼び分けられている例がなく、海外ではFemale/Maleで区別されていて、その賛否も活発に議論されているようなのでオス、メスで区別することにしました。(形状から凹型、凸型のほうが分かりやすいかもしれません)

オスタイプのエンドリンクの例
メスタイプのエンドリンクの例

ベルト側の部品が嵌まる部分がある、凹形状のオーソドックスな形のエンドリンクが「メス」。無垢パーツを採用した高級品に多い、エンドリンクの一部が飛び出ていてブレスレット側に嵌まるような凸形状になっているのが「オス」です。

もともと金属ブレスレットの装着方式が板金プレス製の弓カンだった時代は、ブレスレットの中央コマが嵌まるようにエンドリンクの中央部に切り欠きがある「メス」タイプが主流でした。バネ棒が弓カンを固定しつつ、時計とブレスレットをつなぐ中央コマ、センターリンクの取り付け軸を兼ねるので装着製は比較的良好です。

削り出しや鍛造あるいは鋳造の無垢ブレスレットが高級機を中心に増え、さらに板金プレス部品だったエンドリンクも無垢タイプのものが登場した80年代末から90年代にかけて、このオスタイプのエンドリンクが高級機に採用され始めます。今では高級時計のトレンドはオスタイプのエンドリンクでブレスレットをつないでいるのが主流になっています。無垢エンドリンクならではの特権でもあり、エンドリンクと第1リンクをつなぐ中央リンクが継ぎ目なく一体化していて確かに美しいのですが、ブレスレットの可動部は第1リンクになってしまうので、装着性の目安となる時計の縦方向(ラグtoラグサイズ)の実サイズよりも長い実質ラグtoラグサイズになり、当然ながら装着性は低下します。個人的には元のラグtoラグサイズが44mm前後までだったらオスタイプでも許せるかな?という感覚です。

ちょっとした例なのですが、リンクの動画はニューヨークの時計店、Islander Watchさん。店舗オリジナルブランドのセイコーボーイシリーズオマージュというか、SKXシリーズのクローンダイバーウォッチを企画販売しています。しかも007/009系の42ミリサイズと、013系の38ミリサイズを展開するという細かさ。オスタイプのエンドリンクを標準付属のブレスレットに採用していましたが、ユーザーの度重なる要望に応じる形で、メスタイプのエンドリンク変換キットを発売した、という内容です。

と、海外ではかなりオスタイプのエンドリンクが嫌われる傾向にあるようです。一方、日本ではあまり議論されていないのが不思議です。もしかすると手首を包み込むような形状に固定されているG-Shockに慣れ親しんでいるせいでしょうか?

なんとなく無垢ブレスレット=高級、無垢エンドリンク=高級、オス型エンドリンク=高級、遊びの無いブレスレットが高品質…みたいな理解で、見た目の表層的な高級感を求めるユーザーにメーカーが迎合し過ぎているような気がしてなりません。プレス部品の良さ、板巻ブレスレットの良さやフリクションタイプの旧式のクラスプの良さもあると思うのですが…。

さらにはこの傾向は金属ブレスレットのクラスプ:中留めにも及び、実用性を無視してまでコスメティックス面での過剰な品質と機能を求めるユーザーに迎合する格好で、工具なしで伸縮できるギミックのついた削り出しのクラスプを採用するメーカーが増えたり、それを過度に称賛するレビュアーの多いこと。分厚くて重たいだけなんですけどね。

と、今回もユーザーの要望とそれに迎合するメーカーとのズレが、両者にとって好ましくない方向の腕時計を生み出している現状を憂慮してしまいました。

時計のコレクションが増えてしまってオウチの方からの風当たりを気にされる向きには、本稿を参考に
「時計ってね、オスメスがあって勝手に殖えていくんだよ」
と説明してあげてください。もっと叱られること請け合いです…。

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