国立新美術館 クリスチャン ボルタンスキー Lifetime

心揺さぶられる展示だった。最近アクセルを踏み続けていると感じる人は是非行ってみてほしい。展示を観て自分が何を思うか、感じてみてほしい。
(最初の展示だけネタバレあり)


最初は「吐く男」映像作品。薄暗く汚れた部屋で薄汚い格好の男性が床に座り込み、酷く苦しそうな咳をしている。よく見ると咳と一緒に血を吐いている。だんだん血の量が多くなり、床には血だまりができていく。男はマスクを被っていて顔は見えず、人間なのかさえわからなくなる・・・
これはボルタンスキー20代の作品。なんだかこの先の展示も向き合えるか、若干の不安がよぎる。

不安を抱えたまま次の展示に進んでいくと、その不安は杞憂に代わる。
人の記憶やストーリーに想いを馳せるようになる。時間の経過は、一定のスピードではないのかもしれない。その時の時間の過ごし方が影響する。人によっても感覚が違う。
会場が広く、天井も高いので作品ひとつひとつが作品なのではなく、空間自体が作品となる。その空間に入り込んでいく。
そのうちボルタンスキーは、「死」について問いかけてくる。心臓を捕まれるような質問を投げ掛けてきて、身体か固まる。心は震える。死者の魂が浮遊している気がしてくる。怖いけど嫌じゃない。この気持ちは何なのか知りたくなる。

ボルタンスキーは、現在74才のフランス人アーティスト。写真、書籍、日用品を使ったインスタレーションが作品だ。サイズもスケールも大きい。
彼は展示全体がひとつの作品と言っている。制作年代も揃えないし、キャプションもつけない。そして展示を南ヨーロッパの教会に例えている。
「扉は常に開いている。中に入り、椅子に座り、5分ほど考え事をする。そしてまた、日常に戻っていく。」

たまには少し、考え事をするのもいいではないか。

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