化学療法誘発性末梢神経障害に対するミロガバリンの有効性(MiroCIP study)
化学療法誘発性末梢神経障害 (Chemotherapy-induced peripheral neuropathy: CIPN)は実臨床で問題となる事が多い。大腸がんのオキサリプラチンだけでなく、肺がん・乳がんの(Nab-)PTXなど予後が長くなってきたメジャーながん種にCIPNを伴う薬剤が増えてきたことが、一つの原因であろう。
過去にはデュロキセチン (サインバルタ)の有効性が報告され、2021年にJAMAで報告されたガイドラインにも第一選択として記載されている。神経障害性疼痛に使用されるリリカなどの薬剤は有効性が証明されていないため使用しないことと本ガイドラインでは記載されており、実質臨床ではサインバルタ一択であるが、使ってみてもそれほど効果を実感しないことが多い。
ミロガバリン(タリージェ)はプレガバリン(リリカ)と同様の機序を持つ薬剤であるが、より副作用が少ないというアピールで第一三共が売りに出している。実際使用してみると確かに眠気などの副作用は少ないように感じるが、効果自体はリリカとどっこいどっこいな印象がある。
第一三共のMRが来るたびに、CIPNにタリージェどうですかとアピールしてくるのだがデータも何も無いのにアピールされてもと思い処方していなかった。今回日本で単群の前向き介入試験が行われたと論文を持ち込んできたので目を通してみることにした。
MicoCIP試験は、多施設共同前向き登録試験と、探索的介入単群試験の2つの部分から構成されている。前者の目的は、オキサリプラチンまたはタキサンを含む化学療法を受けている患者におけるCIPNの発生率、危険因子、臨床的特徴および予後を調査することであり、一方後者の目的はCIPN患者におけるミロガバリンの有効性および安全性を調査することである。今回は後者の介入研究の部分の成績が発表された。
対象患者はCTCAE (ver 5.0)でCIPNのGrade≧2以上かつNRS≧4以上の大腸がん、胃がん、NSCLC、乳がん患者で、オキサリプラチンまたはタキサンを含むレジメンを受けている患者。治療はミロガバリンの添付文書通りに10→20→30mg/dayまで増量。(腎機能障害がある場合は規定の通り減量) opioid, NSAIDsの併用は登録前から投与されており、試験期間中用量に変更が無い場合に限り許可された。
主要評価項目はbaselineから12週までの疼痛NRSの変化。副次評価項目にはしびれ感や睡眠障害のNRS、試験治療中の化学療法の減量・中断・中止、CIPNのGrade, FACT/GOG-NTX, Modified Total Neuropathy Score-Reduced (TNSr), EuroQol five-dimensional descriptive system (EQ-5D-5L), Patient Global Impression of Change (PGIC) scaleなど。
結果
58例がスクリーニングされ、57例が登録。52例が少なくとも1回の試験薬投与を受けた(Full analysis set: FAS), その内からプロトコール違反・ミロガバリン投与が添付文書に沿っていなかった22例が除外され、30例がPer protocol set: PPSとして登録された。
患者背景は年齢中央値 65歳, 男性55%, 大腸がん 65%, 胃がん 10%, 肺癌 13%, 乳がん 11%であった。8割以上がStage IVあるいは再発患者。化学療法はAdjuvantが18%, オキサリプラチン 65%, タキサン 35%であった。NRS平均スコアは5.5であった。
主要評価項目のNRS疼痛スコア変化量は12週時点で-1.5 [95%CI -2.3~-0.8, p<0.001]であった。この減少は12週目でも維持された。NRS≧6の患者ではより大きな変化を認めた。
オキサリプラチン (-1.8 [-2.6~-0.9, p<0.001]・タキサン (-0.9 [-2.4~-0.6, p=0,204] 共に同様の減少傾向を認めた。PPSを用いても同様の結果が得られた。(-1.5 [95%CI -2.2~-0.8, p<0.001]
これらの変化は化学療法の減量・中断・中止の有無に関わらず認められた。
化学療法の減量・中断・中止は各々7.7%, 23.1%, 34.6%に認められ、内CIPNに起因するものは5.8%, 1.9%, 3.8%であった。
睡眠障害のNRSは有意な変化なし。CIPN Gradeの変化は下図の通り。
FACT/GOG-NTXは12.7±6.9 → 10.8±7.4 (p=0.114)
Modified TNSrは平均変化-0.5 (95%CI -1.5~0.5, p=0.284)
EQ-5D-5L変化は0.0128 (95%CI -0.0406~0.0663, p=0.630)
PGIC scoreでは24.2%が[2]でかなり改善, 72.7%が[3]で最小限の改善。
AEは傾眠 13.5%, めまい 9.6%, 末梢性浮腫 3.8%であった。
本試験ではミロガバリンのCIPNに対する有効性が示唆されたが、単群試験というlimitationもあり解釈は難しい。筆者らはdiscussionで倫理的問題からplacebo群を使用できなかったと記載しているが、ミロガバリンの有効性が不明なのにplaceboは倫理的にダメという点はやや納得しかねる。
単群かつendpointが患者の主観的評価というデザインの試験であれば当然プラセボ効果は発生しうる。テーマは興味深い反面、発表雑誌がBMC Cancerどまりなのもそれが理由かもしれない。
後半のCTCAE gradeの変化の図表を見ると割と効いていそうな印象は受けるが、Grade 2が減っているように見えるのはmissing dataが増えているだけという可能性も否めない。missing dataを除いて計算するとweek 12におけるGrade 2の割合は71.1/78.8=90.2%であり実質Grade 2患者はbaselineから減っていない計算となる。唯一このグラフから読み取れるのはGrade 3が減っているということ。上記NRS≧6のグラフと併せて考えると、疼痛が強い患者には効果があるかも知れないということは言えそう。だ本試験の患者群のようにNRS≧4の疼痛があるCIPNは、臨床現場ではなかなか見ない。多くはそうなる前に化学療法を中断・中止してしまうことが多いからだ。
デュロキセチンの試験では試験群 vs プラセボ群でNRS変化値は-1.06 vs 0.34であったと報告されているが、本データを見る限りミロガバリンにもそれくらいの効果はありそうである。appendixのしびれ感のみのスコアでも同様に改善傾向にあるので、我々の実臨床での感覚ではこういった患者への投与が基本となりそう。
とはいえその程度の効果であればガチの臨床試験を組むのは費用対効果が悪く、企業が本気でCIPN治療薬としての開発を進めないのも、そういった点が理由なのであろう。下手に試験がnegativeに出れば、金をかけた上に市場が縮小してしまう恐れもあるからだ。化学療法が入ると対象患者や患者背景が揃わず、臨床試験もやりづらいため今以上の開発は難しいと考えるが、本試験の結果からはCIPNにどうしても困っている方にお試しで処方することは考慮できるかと思われる。
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