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切除不能膵癌オリゴ転移に対する局所療法戦略 (EXTEND試験)
J Clin Oncol.2024 Aug 5:JCO2400081. Online ahead of print.
肺癌や胃がんなどではオリゴ転移治療追加による予後延長が徐々に示されてきているが、膵がんにおいては相変わらず厳しい状況。私も過去に肝転移単発の膵体部がん症例を受け持ったことがあり、これ切れないかな~と散々悩んだ記憶がある。しかし結局のところ生存予後を延長するevidenceに乏しかったため切除には至らなかった。(その症例はその後急速に病状が進行し、結果的には切らなくて正解であった)
膵癌において局所治療の効果が乏しい理由は不明だが、個人的にはやはり悪性度が高いことと、しっかり全身の病勢制御が得られるほどの化学療法が無いことが原因だと考えている。将来的に良く効く全身治療が登場した暁には、局所治療も日の目を見る時が来るのかもしれない。
EXTEND試験はオリゴ転移に対する局所RT追加戦略のバスケット試験で、今回膵がんのデータが発表された。適格患者は4ライン以内の全身治療歴があり、5個以内のmetastasis directed therapy (MDT)が可能なオリゴ転移を有する患者。全身治療のみ vs MDT併用群に1:1に割り付けられた。MDTには主に定位照射が推奨された。
主要評価項目はPFS (画像的PDの他、clinical PDも含む)。副次評価項目はOS, 次治療変更までの期間, 局所PDまでの期間, 新規病変出現までの期間, 毒性, QOLであった。統計学的設定は片側α = 0.10, 検出力80%, mPFSを4ヵ月→8.5ヵ月への延長(HR 0.471に相当)を見込んで40例と設定した。
結果
2019年~2023年で55例スクリーニングを行い、内41例を適格とした。MDT群21例 vs 対照群 20例。患者背景は年齢中央値68歳, 転移個数1-2個が約8割, 転移臓器は肺 25%, 肝 65% (肺転移のみは3/41例), 前治療歴0 lineが65%, 1 lineが35%。オリゴ転移は同時性 35%, 異時性 65%。転移性病変と診断されてから登録までの期間中央値は約4-5ヵ月であった。
MDT群の内31ヵ所の転移(94%)がRTで治療された。主な照射方法は50Gy/4Fr, 70Gy/10Frであった。2ヵ所の転移がラジオ派で治療。MDT群の原発巣(11/11例)は全てRT (主に40Gy/5Fr)で治療された。MDT群の内10名の患者は化学療法の休薬(中央値4ヵ月)が行われ、8名は単剤にde-escalationされメンテナンスを受けた。
観察期間中央値17.3ヵ月で、mPFSはMDT群 10.3ヵ月 vs 対照群 2.5ヵ月 (HR 0.43, p=0.03)。一年PFSは42% vs 9でMDT群で良好であった。新規病変出現までの期間中央値は14ヵ月 vs 5ヵ月。次治療までの期間中央値は19ヵ月 vs 8ヵ月だった。対照群でPDとなった3/17例(17%)はMDTにcross overした。
mOSは12ヵ月 vs 10ヵ月 (HR=0.58, p=0.2)であった。23例が原病死, 3例が他因死(大動脈解離, COVID-19肺炎, 肺塞栓)。post-hocとして行ったcancer-specific survivalは15ヵ月 vs 10ヵ月であった。
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translational researchでは、MDT群においてCD8+T細胞の活性化が認められ、免疫チェックポイント分子などの発現も時系列で増加。IL-15などのサイトカインも誘導されていた。subgroup解析ではPFS/OSが良好な患者においては、3か月時点においてTCRの多様性等がより豊富な傾向が認められた。
膵癌のオリゴ転移に対して局所治療を追加する戦略はこれまでも試行されてきたが、どれも生存期間の延長には結びつかなかった。本試験はPhase IIとはいえランダム化試験であり、主要評価項目のPFSで大きく対照群と差をつけている点は評価できる。ただその差はOSに還元されていない。
この理由についてはdiscussionではあまり触れられておらず、translational researchの部分で免疫応答のあった患者はOSが長い傾向にあったことのみ強調されている。
評価可能病変である原発巣とオリゴ転移巣全てにRTを当てれば、当然画像上のPD判定までの期間は稼げるので見かけ上PFSが延びることは容易に想像できる。しかしsupplementaryのデータを見る限り、新規病変出現までの期間や次治療移行までの期間もいずれもMDT群で良好であり、何故この経過がOSにだけ反映されていないかがイマイチ判然としない。
考えられる理由としては
①Nが少なく統計学的に偶然差が出なかった
②画像は中央判定だが、clinical PDが主治医判断のためPFSだけが良く出た
③MDT群の次治療への移行割合が低かった
④MDT群で何らかの理由により次治療移行後のPFSが短縮した
⑤一部の症例でcross overがあった影響
などが挙げられるが、③についてはswimmer plotを見る限り対照群10例, MDT群8例が次治療に移行しておりあまり差が無い。④はswimmers plotを眺めると多少影響が出ていそうな印象がある。RTがOSにnegativeに働いている可能性が否定できない。⑤についてcross overしたのは3例だけなのでそこまで影響は出そうな印象はない。
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上のswimmers plotを重ねてみても個々の症例ベースでも見事にOSは延びていない (まあKaplan-Meierそのものだが)。translational researchの結果はあくまで効果予測というより予後予測因子の解析であり、どのような症例にMDTを用いるのかという点は見いだせていない。
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EXTEND試験によってMDT治療戦略のrobustなデータを提供した、ということが筆者らの結語であり、本戦略が有用とは言っていない点には注意が必要である。明日の臨床に活かすような結果ではなく、本治療戦略が潜在的に有用な症例をピックアップして探索する試験を組むための元データとして利用すべきであろうという点は、私も同意である。