オピオイド誘発性便秘に対するナルデメジンの予防効果
J Clin Oncol. 2024 Sep 10:JCO2400381. Online ahead of print
ナルデメジン (商品名スインプロイク)はオピオイド誘発性便秘(OIC: opioid induced constipation)に対する薬剤であり、腸管においてオピオイドの効果に拮抗するのがその作用機序とされている。
今回JCOから日本のグループが発表したナルデメジン関連の論文が出たので読んでみた。今更感は否めない内容だが、ナルデメジンがオピオイド誘発性悪心嘔吐の抑制作用を有するという結果は勉強になった。
対象は強オピオイドの定期内服を開始した患者。消化管機能に異常のある患者は除外された。ナルデメジン(0.2) 1T1x朝とプラセボ群に1:1に割当て。両群ともオピオイドの初回投与と同時に投与を開始された。両群とも便秘時にはrescue用のセンナ錠が投与され2日間以上排便が無い場合に使用出来た。
主要評価項目は使用開始から14日目のBFI (Bowel Function Index) <28.8の患者割合。BFIは排便のしやすさ・排便不全感・個人的な便秘感をそれぞれ容易~困難まで0-100点で表し、その3つの平均値と定義された。(高値の方がより重度の便秘)。副次的評価項目は7日目のBFI<28.8患者割合、7日目・14日目BFIの1日目に対する差。週3回以上の自然排便と、週1回の完全排便を呈した患者割合、QOL、オピオイド誘発性悪心嘔吐(OINV)、安全性など。
結果
2021-2023年の間に103人がスクリーニングされ99人が登録。ナルデメジン(Nal)群 49例, プラセボ対照群 50例に割り付けられた。患者背景は男性4割, 女性6割。外来患者が約8割, 癌種は肝胆膵35%, 消化管 18%, 婦人科 10%など。強オピオイドはオキシコドン 86%, ヒドロモルフォン 14%。モルヒネは0%。登録前の下剤使用歴は、無しが約7割。残りの有りの内大多数が酸化マグネシウムであった。
主要評価項目である14日目のBFI<28.8患者割合はNal群 64.6% vs 対照群 17%, リスク差 47.6% (P<0.0001)でNal群で良好であった。試験期間中のrescueの使用頻度も 0.6±1.5回 vs 2.0±3.0回 (P=0.0059)でNal群で有意に少なかった。
副次的評価である7日目のBFI<28.8割合も同様, 週3回以上の自然排便・週1回以上の完全排便割合, global QOLの変化等もNal群で良好。またday1-3の間に制吐剤を使用した患者割合は10.6% vs 51.1%でNal群に少なかった。その他の安全性の結果(下痢等)に有意差は無かった。
ナルデメジンの臨床試験はOICを来した患者に対して行われ、その効果が認められ適応が通ったので、予防効果を実証した試験としては今回が初めてである。ただ臨床現場では既にこのような使い方が一般的になされており、効果も現場で実感するくらいはっきりしているため、データの価値自体はそれほど際立ったものではない。主要評価項目に関しては、プラセボと比較すれば有意差が出るのは試験前から分かりきっていたことであろう。
既に下剤が入っていてナルデメジンを追加する場合(既報)と比較して、ナルデメジンからスタートした方が下痢が少ないといった点は、患者導入の順序・タイミングについて有益な知見と考えるが、他の副次的評価についてはそれほど目を引くものではない。
本試験での白眉は、ナルデメジンでOINVが軽減されるという結果である。OINVの機序は化学受容体トリガーゾーンへの直接作用、前庭感受性の亢進、および胃排出遅延などが複合的に作用して生じると考えられており(UpToDate: Assessment and management of nausea and vomiting in palliative careより)、私も主には中枢神経系への作用によると考えていたが、本試験の結果からはこの機序がかなりの割合で末梢作用性μ-opioid受容体に依存している可能性が示唆された。これは従来の試験デザインでは観察できなかった項目であり、本試験の大きな功績と言ってよいだろう。振り返ると、ナルデメジンをopioidとセットで処方するようになってからOINVに悩まされる症例が減った実感は確かにある。
本結果からナルデメジンが抗便秘だけでなく、制吐作用も有する一石二鳥の薬剤であることが示された。一時期は脳転移がある患者への中枢移行なども懸念されたが、特に問題なく使用できるようで実際私も安全に使えている。ただ何故か脳転移等が無いにも関わらずopioid離脱症候群を示す症例なども報告されており、まだ明らかにされていない機序があるのかもしれない。
最後に、本試験の結果で少し気になったのが、参加患者の大多数にオキシコドンが投与されておりモルヒネ使用例が一人も居ない点。ヒドロモルフォン(ナルサス®)は1日1回というメリットがあり一定数そちらに流れるのは仕方無いとしても、モルヒネが一人も居ないのは流石に違和感しかない。長年緩和を含めた診療をやっている身としては、やはりモルヒネが基本だと思うのだが。
腎機能正常例にモルヒネではなくあえてオキシコドンを使うメリットは、オキシコドンの方がやや開始用量を低く出来ることなので、もしかすると本試験の患者層の一部に、opioidを導入するまでの疼痛ではないが、試験のためにopioidを導入された患者が一定する存在している可能性は否めないかと感じた。まあ大局に影響する背景ではないので、気にする程のことでもないのかもしれないが。