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遺伝子検査に基づく原発不明がん治療の最適化(Fudan CUP-001試験とCUPISCO試験)

Lancet Oncol 2024;25: 1092–102
Lancet 2024; 404: 527–39

原発不明がん (cancer unknown primary: CUP)の治療開発はなかなか進んでいない。本邦では数年前に二次治療のNivolumabが承認されたが、それ以降新しい治療は登場していない。

個人的には、CUP治療戦略はやはりどこまで原発巣に迫れるかではないかと考えている。しかし原発不明がんは臨床試験ごとのheterogenityに幅があり結果が安定しにくいこと、また標準治療のCBDCA+PTXが割とオールマイティであるが故に試験群と対照群で差がつきづらいことなど、運用面での苦労もあるようだ。

例えば本邦で行われたマイクロアレイによる原発巣予測戦略の試験(J Clin Oncol. 2019;37:570-579)では、婦人科がんと推定された場合は治療内容が同じになるため、予後を差別化出来なかったことがnegative trialに終わった一因と考察されている。原発巣推定についても様々な方法がありベストなものは決まっていないのが現状である。

今回は同じタイミングでCUP関連の論文が二本publishされたので一緒に読んだ。一つは中国で行われた原発巣推定による治療の試験 (Fudan CUP-001試験)で、もう一つが欧米を中心に行われたtarget therapyの試験 (CUPISCO試験)。別々のアプローチだがそれぞれ主要評価項目で有意差を認めている。


Lancet Oncol 2024;25: 1092–102

Fudan CUP-001試験は原発不明がんの原発巣推定検査の試験。
RT-PCRを用いて90遺伝子の発現パターンを解析し、原発不明がんと各がん種の遺伝子発現パターンとの類似性を評価することで原発巣を推定し、推定原発巣に準じた治療が有効かを調査した。対象は十分な原発巣精査が行われた根治的治療不能なCUP患者。原発巣が推定出来た患者には原発に準じた治療を、そうでない患者および対照群にはタキサン+プラチナあるいはゲムシタビンの併用療法が行われた。主要評価項目はPFS。副次的評価項目は全生存期間、客観的奏効率、安全性、バイオマーカー調査など。

結果

2017-2021までに182例の患者が登録され特異的治療(試験)群91例, 経験的治療(対照)群91例に割り当てられた。試験群の治療開始までの中央値は15日、対照群は6日であった。組織型の内訳は腺癌約5割、低分化癌が約3割、扁平上皮癌が約2割であった。

試験群91例中臓器予測が可能であったのは83例であった。(予測出来なかった患者の理由は、検体不十分・結果解釈困難など)。推定された原発巣は胃食道14例 (15%), 肺12例 (13%), 卵巣11例 (12%), 子宮頸部11例 (12%), 乳腺9例 (10%), 頭頸部7例 (8%) など。遺伝子変異等バイオマーカーを認めた症例には適した小分子化合物・分子標的薬などが投与された。対照群と同じ治療を受けたのは91例中24例であった。41例 (45%)が分子標的薬または免疫療法を受けた。

追跡期間中央値は試験群で33.3ヵ月、対照群で30.9ヵ月。PFS中央値は9.6m vs 6.6m (HR 0.68, p=0.017)、OS中央値は28.2m vs 19.0m (HR 0.75, p=0.098)で試験群で有意に良好であった。奏効割合は各々48.7% vs 46.3%。2次治療以降に何らかの治療を受けた患者は各々75% vs 63%であった。Grade≥3の有害事象発生割合は各々56% vs 61%であった。

PFS (上)とOS (下)
赤線:試験治療群, 青線:対照群

Lancet 2024; 404: 527–39

CUPISCO試験はがんゲノムプロファイリング検査を用いた治療最適化試験。対象は非扁平上皮がんと診断されたCUP患者。分子プロファイリングにはF1CDx検査が使用された。(F1 Liquidは組織の結果が不十分な場合に補助的に使用された)

患者はまず3コースのプラチナ併用療法を受け、治療後評価でカテゴリー1 (SD以上), カテゴリー2 (PD)に分けられた。各カテゴリーの患者はその後、試験群(Molecular guided therapy: MGT群)とそのままプラチナ併用を継続する対照群に3:1にランダム割り付けされた。ターゲットとなる遺伝変異(actionable molecular profile) が無い場合あるいは、MSI, TMB-Highなどが見つかった場合、MGT群に割り当てられた患者は化学療法にアテゾリズマブを上乗せして治療を継続された。今回の論文ではカテゴリー1について報告された。主要評価項目はPFS, 副次評価項目はOS, ORR, DOR, DCR, 安全性など。

結果

1505例がスクリーニングされ、646例が登録。438例(76%)がカテゴリー1に分類された。登録症例の7割は白人、男女比は半々。導入のプラチナ併用療法で35%がCR or PR, 65%がSDの状態であった。その内326例がMGT群に、残り110例が対照群に割り当てられた。

mPFSはMGT群 vs 対照群各々で6.1ヵ月 vs 4.4ヵ月 (HR 0.72, p=0.0079)。
actionable molecular profileが見つかった患者(83例 vs 48例)においてはmPFS 8.1ヵ月 vs 4.7ヵ月 (HR 0.65)とより有効であった。見つからなかった患者(229例 vs 53例)においては5.5ヵ月 vs 4.4ヵ月 (HR 0.76)の結果であった。

actionable molecular profileが見つかった患者とそうでない患者に分けたPFS比較グラフ
実線がactionableなし (赤:MGT vs  青:対照群)
破線がactionableあり (赤:MGT vs  青:対照群)

OS中間解析の結果はmOS 14.7ヵ月 vs 11.0ヵ月であった。best ORR (ランダム化からのresponse)はMGT群 58例 (18%), 対照群 9例 (8%)であった。QOLが悪化するまでのPRO scoreは両群に差を認めなかった。

Atezo単剤療法(TMB-High or MSI-High), Vemurafenib+Cobimetinib (BRAF V600変異 or K601E変異), Pemigatinib (FGFR1、FGFR2、FGFR3変異)を受けた患者では予後やQOLが高い傾向にあった。


両試験ともCUPの治療戦略を研究したものだが、内容は別物と言ってよい。
Fudan試験は原発巣推定による治療戦略を目的とした試験。一方CUPISCO試験は原発巣推定でなく治療targetを早期に同定するメリットを検証した試験である。

まずFudan試験であるが、中国単独の試験というlimitationはあるものの結果は良好。かつ本試験では原発巣推定後の治療にICIがルーチンで入っていない点が重要と言える。CUPISCO試験のように何でもかんでも試験群にICIを加えてしまったら、結局ICIの上乗せを見ているだけの試験になってしまうからだ。
こちらには扁平上皮がん(SqCC)も登録可能となっているが、subgroup解析でSqCCはHR 0.26と顕著に成績が良い。内訳をみるとSqCCが関連するがん種ある食道・肺・頭頸部がんでは試験群に一定数PD-1抗体が載せられており、これが成績向上に関わった可能性が考えられる。CBDCA+PTXが古い治療になりつつあるため試験群のICI上乗せによる影響は今後の試験でも考慮すべきであろう。ただ腺癌など他の癌種でも一貫してHRは良好な成績であり、本試験の手法による原発巣推定は有効であると言える結果になっている。

次にCUPISCO試験だが、こちらの試験はSqCCを除外し、現場で困る原発不明腺癌にfocusした点が長所と言える。また全がん種の2-5%と言われている原発不明がんを1505例もスクリーニングしたことは凄いことで、ロシュの本気度が伺える。
ただ先ほど述べたようにactionable profileが見つからなかった場合は全てatezoを上乗せするプロトコールになっており、それが実に75%も含まれているため、総合したOSではただatezoの上乗せを見ただけの結果となっているのが難点。(原発不明がんへのatezo上乗せ戦略という捉え方も出来なくはないが。一応この辺りはdiscussionにも触れられている)

しかしactionable profileが見つかった症例に限ってもPFSは良好であり、CUPでは早期にCGP検査を行うメリットが示されたと言えるだろう。日本ではCUPは早期からCGP検査が出来るので、治療の保険適応さえ通れば明日の臨床に活かせる結果と言える。F1CDxの結果が返ってくるまではCBDCA+PTXでつないでおくというプロトコールも実臨床に即した設定である。

ただ一点問題点があり、supplementaryで各々のactionable profileの患者別生存曲線が示されているのだが、Vemurafenib + Cobimetinib, Pemigatinib, Atezo単剤以外のMGTを受けた患者では、対照群と比較し生存曲線が改善していないように見える。下に一例を示す。

各々のMGTを受けた患者のPFS。
上段 青: 対照群, 赤, Vemura+cobime, 黒: Ipatasertib, 緑: Ipatasertib+paclitaxel
下段 青: 対照群, 赤: Alectinib, 黒: Erlotinib+Bev, 緑: Ivosidenib, 黄: Pemigatinib

上記グラフを見てわかるとおり、ほとんどのMGTでPFSの改善を認めていない。ALK融合遺伝子やEGFR変異に対して使用されているAlectinib, Erlotinib+Bevもほぼ効いていない。要はpassenger変異を拾っただけということだ。これは検出した変異が必ずしもtargetとなりえないというCGP検査の問題点を浮き彫りにしている。

将来的にCUPの治療がどうなるのかはまだ定かではないが、冒頭で述べたように個人的には原発巣推定はやはり外せない要素だと考える。その上でCGPを組み合わせていく必要があるのではないか。要は上記2試験を組み合わせて一つの戦略としていくのが現状最も妥当性が高そうな気がする。原発巣を推定することで二次治療以降のシークエンスも生まれることになり、結果的に長期予後に繋がりそうなことは想像に難くない。baselineのchemoの選択肢が増える事は重要なポイントであると考える。

原発巣推定にはこれまでマイクロアレイや、メチル化アレイ、NGSなど色々な手法が試されてきているが、そろそろその点を詰めていく必要がありそうだ。

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