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世界の研究者に注目される「心理的所有」

どうも、ベンチャー型事業承継のゴードンです。
アトツギ支援を実践・学術両面から行いたいと思い、マレーシアの大学院で研究をしています。(まだ10日ほどですが!w)

私が研究の題材にしたいと思っている「心理的所有(Psychological ownership)」が、今研究者たちの間でライジングしています。その守備範囲は広く、そして、目に見えない心理を扱うので捉え所がない、けれどもそれが故にめちゃくちゃ探求しがいがあります!

そもそも心理的所有とは?

この領域で最も引用されている論文を書いているピアースは、心理的所有のことを「所有感や、対象に対して心理的に結びついている感覚」と定義しています。要は、法的・物理的な所有(株を持っていたり、家を買ったり)だけが所有じゃなくて、心理的にこれは自分のものだ!と思う感覚のことを言います。

私は、この心理的所有が会社に対して働くメカニズムに興味があります。強い心理的所有は、ビジネスと「一体化」することであり、それが自分の人生における意味を定義することすらあります。会社が死ぬということは、自分も死ぬということである。だからこそアトツギベンチャーは未来に向けたチャレンジを圧倒的当事者意識で行うのです。

Forbesのこの記事では、心理的所有の高い社員で構成された組織は、他社と比較してルールに縛られるのではなく、価値を中心に行動するから強いと示されています。短期的な思考ではなく、長期的な目線を持ちやすいことも指摘されています。

急激に注目されている心理的所有

『出版数の増加』(出典: H.Kim et al.(2024). Psychological ownership research in business: A bibliometric overview and future research directions. Journal of Business Research 174, p.4.)

そんな心理的所有ですが、研究者の間でも大変注目度が上がっています。主要な学術誌で取り上げられる本数が急増しています。
最初に心理的所有という概念が出てきた1995年前後は、こういう概念がありますよ、という程度でした。そこから、ざっくり2014年までは意思決定とか組織のパフォーマンスとか生産性なんかがトピックに。2015-2018年あたりには、心理的所有次第で色んなリーダーシップがあるんじゃないかとか、サステナビリティーに影響するのでは、と言われ始めます。近年では、集団的心理的所有、すなわち組織単位でも心理的所有は働くのでは、や、顧客のエンゲージメント、アントレプレナーシップなどさまざまな領域に展開可能ではないかと言われています。

そして、UberやAirbnbに代表されるシェアリングエコノミーの台頭も、影響しています。本来であれば購買したりして「実際に」所有することで満足を得てきたのが、「実際に」所有をしないようなサービスにも満足感を得始めているからです。

所有物は自己の一部であり、自己の延長として機能する。マーティンという心理学者は、所有の心理は人間の本質に根付いているものと指摘しています。自分の大切な持ち物が、自分の一部と感じることについては納得感があると思いますが、それが心理的なものにも展開されてきているのです。人間の在り方そのものを扱うからこそここまでの広がりを見せているのでしょう。

心理的所有は固定的なものではない

エッセルという研究者は、家族同士で心理的所有が高く理想的な経営をしていたように見えるファミリービジネスが、M&Aにて100年以上続く家業を売却したことでどのように心理的所有が変化をするかを調査しました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1877858523000049

2人の子供に株も10%ずつ渡していて、ファミリービジネスとして繋いでいく気持ちが当初社長にはありました。しかし、業界構造の変化や競争環境の激化で、このままではビジネスの継続が難しいと判断しました。そこで、すでに家業に入社して10年以上も経過していた息子たちに一切の相談をせず、会社の売却を決めてしまいます。

父としては、自分が築き上げてきた会社が生き残るには、より強いグループに入ることが必須で、息子たちにその適正はないと判断しました。父にとっての心理的所有の対象は、「自社のビジネスそのもの」であり、「ファミリービジネス」ではなかったのです。自分のものである、自分と会社が一体であるからこそ、生き延びるためにはこの方法しかない、と思ったのです。

当然子供たちは裏切られた気持ちで、親子仲にはヒビが入りました。子供たちにとっては、重要なことは親子3人で決めていこうという父との約束を反故にされたショックが大きかったのです。

心理的所有とは、形を持たない心の動きである特性上、諸条件によって変わりうるということがこの論文では示されました。

どんな時に、どんな対象に心理的所有感は高まるのか。
まだまだ知りたいことだらけですし、身近なアトツギの方々は、どんな思いを抱いているのか。知りたいことだらけです!

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