雨の帰り道
イヤホンを忘れた。ビニール傘の下、ラジオも音楽も何も聞かず帰宅する。
ひとりごとが頭の中でうるさくて、膨れ上がった文章の重みが大体僕の体をどちらかに傾ける。左が多い。
論理的思考を司るのは確か左脳だっけ。でも左脳はほんとに左側にあるんだっけ、たまにそういうのあるから。なんで逆なんだろうこれっていう。例えが出ないな、んーとなんかある気がする。
こういうの。
うるさい。重たい。
風の当たった街路樹が、葉に残る雨粒を撒き散らしてズボンを濡らす。お腹は空いているが何を食べたいかよく分からない。家を越えたところにあるコンビニ、そのもうひとつ向こうの店に行く。欲しいものは何もなかったが、それでよかった。本当に近い方のコンビニで飲みたくもない酒と冷凍のお好み焼きを買う。風呂から上がればすぐ食べるので、お前がもう一度冷凍されることはない。お前のアイデンティティは私が消す。また恨みを買ってしまった。こんな輩は地獄行きである。えへへ。
建物と建物の間の隙間を覗く。こういうところにお化けがいると思っていたのは何才の頃までだったか。お化けより人間の方が怖い、とか半端なことを言っている間にどうしようもない大人になってしまった。呑気に深夜に徘徊をしているが、お化けでも人間でもこんなところを襲われたらひとたまりもない。お化け関連で言うと「呪い殺される」みたいな表現があるが、どういうことじゃいとよく思う。焼き殺すとか刺し殺すとかは分かるけど、呪いの結果何らかの物理作用に及ぶんだから、それは呪い由来のものと言ってよいものか。考えているうちになんか別によいような気もしてきた。呪い殺す、受理します。
「殺す」とか物騒なワードが並んでしまったので中和する時間をとりたい。
カピバラ、わたあめ、ヤマハ音楽教室、カレーの王子さま、コンピューターおばあちゃん、きなこ揚げパン、チョコあ~んぱん、カトパン、サンドパン。
信号が赤から青に変わる。どうも足が出ない。このまま朝になるまで、青に変わる信号を見逃し続けてみようか。人生は大体80年ほどあるらしい。ひと晩くらいそういう夜があってもよいのではないか。
そう考えるとどこかもったいない気がする。左折を試みるワンボックスカーを待たせて横断歩道を渡る。雨は強くなっていく。