
Photo by
bantya_teitoku
ひとくち小説#6
歴史の骸
今はもう見る影もない。誰かの紡いだ歴史を私は今更踏みしめる。
何かの意思に惑わされ争い合ったこと、誰かを想い、散った命。
不甲斐ない。
世界の行く末を見届ける。私にできることは他にない。
遠い遠い昔の話。かつて私が彼らと同じ種族だった時のこと。
代償として支払った記憶と存在の在処。今も私は探している。
「がっ…がはっ…!誰か…いるのか…?」
今まさにその命を終えんとする者が一人。
「聞き届けよう…」
「ははっ…背負う気かい?あんたが…?」
男は不敵に笑う。
その表情は死にゆく者とは思えないほど生き生きとしていて、誇らしい。
「俺は…満足…だったよ…!世界の終わり…にしちゃ…確かにクソだったが…」
「ははッ…今アンタに背負ってもらえて…俺は運が…いい…」
男の手から力が抜ける。
満身創痍でありながら、私に向ける憐憫と背徳の目。
高潔な魂は私の胸に刻まれる。人は言う、魂は不滅だと。
瓦礫に混じる想いの残滓。そうか、これが愛というものか。
世界が私を遠ざける。こんな機会にしか触れられない。
繰り返されゆく世界α。拾い集めた想いの残滓は何度目かの世界を彩る。
何度でも…何度でも…
与えられた役割という枷。
いつか外れるときが来るのなら、この想いの世界を創造しよう。
死者と生者の隔たりはあれど、互いにまたそこで出会えたら…
「ふふ…」
暗く寂れた世界を歩く。
無情にも先ほどまで暗がりだった空は晴れ渡り、その星を明るく照らしだす。
それは私に与えられた使命だ。